115 異次元の存在
その不快な声音を聞いた瞬間、俺の脳裏に、かつて味わったあの悪夢のような記憶がフラッシュバックした。
――思い出した。あの時も、この声音だった。
あの時、重装旅団と岩塊竜を倒した直後。
かつて、奴は俺だけに聞こえる声でこう言い放ったのだ。
────
"私の計画の邪魔になりそうなので、ここで消しておくのも手なのでしょうが――。"
"久遠依人さん。次会う時は、私に“干渉”してくれることを願っておりますよ"
────
と。そう告げて、去っていったのだ。
脳みそに直接響くような甲高く不快な声色と共に、その時の恐怖が体に沁み込んでいたようだ。
あの日の無力だった俺とは違う。
だが、その絶望的な格差の壁は、当時と微塵も変わっていなかった。
「……っ、何わけのわかんないこと言ってんだ……!」
ベネディクトだって恐怖に怖気づいてしまいそうになっているだろう。
自らを奮い立たせるように声を絞り出した。
それはそうだ。
高位の存在だの、システムに干渉だの言われても、俺だってわからない。
(例えばここがゲームの世界だとしたら、コイツは管理者か何かみたいな存在ってことか?あるいは、神様のような高次元の存在……そんなのがいれば、の話だが)
かつて俺の存在を面白がり、特異点と称して見逃した男が、再び俺の前に姿を現した。
これは、偶然か?
「正直、あなたの存在は私にも理解不能なのです。どうしてこの世界に迷いこんだのか、どうしてそのような力を持ち合わせているのか……少々、試させてもらいましょうか」
ゾディアスが白骨のような細い右腕を前に突き出す。
その瞬間、空間にピシリとひびが入るような感覚がした。
「まずい、何かくるぞ!」
俺は精一杯声を張り上げる。
その声に瞬時に反応したのがエリナだ。
彼女は、いつでも魔法を発動できるように気を張っていた。
「――我が魔力を糧に、失われし世界の息吹をここに紡げ――ジェネシスストーム!!」
ピシリ、と空間を切り裂くような音が、全員の鼓膜を直接叩いた。
それは物理的な衝撃音ではない。
周りの壁が悲鳴をあげた音ではなかった。石柱でも、床でも、天井でも、ない。
その空間が、高次元から圧倒的な力で踏みにじられ、悲鳴を上げている音だった。
ゾディアスが突き出した細い腕の先から、不可視の重圧が波紋のように広がる。
「なんだ……っ!?」
(何をされた?重力魔法の類か……?)
ベネディクトが巨体を揺らし、全身の筋肉を限界まで膨らませて踏み込もうとするが、その巨躯はまるで地面の石畳と最初から一体化していたかのように、一ミリたりとも動かない。
そして、依人が推測した重力魔法という線は、近いようでいて厳密には違う。
それは絶対的な位置情報の固定化。
ただの拘束魔法などではない。
ゾディアスという高次元の存在が、この世界の座標軸そのものに干渉し、依人たちの存在そのものをその場に釘付けにしたのだ。
「体が……動かないっ……」
杖を掲げたままのエリナが身をよじっている。
絶対の理を前に立ち尽くす依人たちをあざ笑うかのように、圧倒的上位の存在が、目の前には立ちはだかっていた。




