114 仮面の男
「今かよ……」
俺は、先頭にいるクロニカを下がらせ、後ろにいる仲間たちを左手で制する。
驕るつもりはないが、ゾディアスの相手をできるのは俺だけだろう。
(クソッ……頭が割れるように痛い……)
俺は、本能が拒絶するのを押さえつけ、右眼の『観測者』を全開にする。
目に映ったそれは、人とも魔物とも区別のつかない、異質な存在であった。
白銀のローブを纏い、奇妙な仮面をつけた男――ゾディアス。
そもそも、この世界の理に収まっていない。彼の存在そのものが、ノイズとしてかき消されているようだ。
(あの頃は一切太刀打ちできる気がしなかった……いや、あるいは今も、か……)
圧倒的な存在感に全身の皮膚が粟立つ。
本能が"関わるな、逃げろ"とけたたましく警報を鳴らし続けていた。
だが、逃げ道はない。どうにかして奴を食い止め、隙を作って逃げ出さなければ、ここにいる全員の死は確定したようなものだろう。
「依人、お前……その目、大丈夫なのか!?」
右目から血が出る俺に気づいたベネディクトが険しい声を飛ばす。
「大丈夫、四の五の言っていられる状況じゃないんだ」
(頼む、何か一つでも――奴の弱点や、システム的な綻びを引っかけてくれ……っ!)
そう願いを込めつつ、『鑑定』スキルを発動する。
対象は、こちらの様子を不気味に静観している目の前の細身の男だ。
――バチィッ! と、脳髄を直接引っかかれるような激しい電子ノイズが鳴り響いた。
「っ……がっ……!?」
いつもなら、視界の端に滑らかに展開されるはずの鑑定ウィンドウ。
しかし今回、それに類するものは一切現れなかった。
代わりに、網膜を焼き切るような紅く濁ったエラーメッセージが、幾重ものノイズを伴って狂ったように明滅し始める。
【対象:ゾディアス】
【エラー:対象の存在位相が観測限界を超過しています。上位領域へのアクセスは拒絶されました】
「……!?」
思わず依人は息を呑み、声を漏らした。
これまで鑑定できないことはあったが、このような「アクセス拒絶」のエラーなど一度たりとも起きたことがない。
まるで、この世界を創り上げた神のシステムそのものに拒絶されたかのような、圧倒的な格差を示すログだった。
その依人の動揺を察したかのように、ゾディアスは仮面の奥で冷ややかに、どこか楽しげな笑い声を漏らした。
「また会いましたね、久遠依人さん。相変わらず、その力を使いこなせてはいませんか──」
ゾディアスはあくまで静止したまま、口だけを動かす。
もっとも、その口も仮面に覆われていて直視することは出来ないが。
「私を観測できない事を恥じることはありません。あなたがたは少々、この世界のシステムに干渉する力を持っているようですが、それだけです。私は、あなたがたをも凌駕する圧倒的高位の立場にいる……いえ、"いた"というべきでしょうか」




