109 邂逅
ベネディクトの超至近距離からの爆発的な発勁打撃。
ヒビキの巨剣を狙った渾身の衝撃が、斬撃の刃筋を強引に天井方向へと跳ね上げる!
ズドォォォンッ!!
「ぬ、あぁッ!?」
「逃がしませんわ!」
斬撃を打ち上げられ、ヒビキの身体が上空へ伸び切った絶好の隙。
横に滑り込んでいたクロニカが、袖口から残る工芸品から蜘蛛糸を一斉に射出。
上体を反らせたヒビキの両腕と巨剣を、太い石柱へ向けて蜘蛛の巣のようにガチリと縛り付けた!
「ぐぬぅ!またしても動きを封じるか!正々堂々と戦え!」
「これが私たちの戦い方ですわ。一秒稼げれば十分!!」
ヒビキの圧倒的な怪力により、仕掛けられた蜘蛛糸がバチバチと音を立てて引きちぎられていく。
だが、足と両腕を封じられ、空中で完全に動きを止められたその一瞬こそが、俺たちが狙い続けていた唯一の勝機。
「エリナッ!!ぶち込めぇぇぇッ!!」
「みんなの想い……受けてみなさいッ!!天を穿つ極大の紅蓮――『フレアバースト』ッッ!!」
右側で魔力を極限まで収束させていたエリナが、魂の底から叫びながら聖杖を突き出す。
黄金の糸がヒビキへと狙いを定められ、解き放たれた超高密度の炎球が、無防備なヒビキの胸元へと一直線に突き刺さった。
それを避ける瞬発力も彼には残されていない。
ズドォォォォォォンッッ!!!
「グアァァァァッ……!?ば、バカな……我が肉体が……内部から灼かれていく……!?」
爆発的な熱波と紅蓮の火柱が崩壊した地下回廊を焦がし、絶大な威力がついにヒビキの強靭な地力を打ち砕いた。
凄まじい衝撃波と共にヒビキの体が弾け飛び、最奥の重厚な鉄扉へと激突。血を吐きながら床へと崩れ落ちた。
彼の体を覆っていた不気味な黒銀の生体金属が急速に光を失い、黒い煙となって虚空へ消えていった。
最後に、彼は微かな声で言葉を残していた。
「深銀は呪いなどではない……嗚呼……ゾディアス……様……あなたの夢、どうか、どうか……」
◇
「時間がない、急ぐぞ!」
先ほどの激しい戦闘で、この広間全体がいまだにミシミシと崩壊を続けている。
俺たちは、ヒビキが塞いでいた扉の向こうへと駆け抜ける。
「ええ、行きましょう!」
「オラァッ!!」
ベネディクトが渾身の前蹴りを叩き込むと、ひび割れた大門が豪快に音を立てて吹き飛んだ。
開かれた闇の奥――ヘヴンウィングスが捕らわれている地下監獄の最深部へ、俺たちは迷うことなく突入した。
裏ルートから潜入した俺たちは、地下監獄にたどり着いた。
どうやら番人としてヒビキを配置していただけで、それ以外の監視はなかったようだ。
開かれた闇の奥――冷気と腐臭が立ち込める最深部の特殊拘束室へと、俺たちは足を踏み入れる。
「くっ……これは……ひどいな……」
ベネディクトが苦々しく顔を歪め、低く唸った。
そこは、石壁全体に深銀の結界が張られ、外部からの侵入を一切防ぐ、地獄のような空間だった。
部屋の中央、空間に宙吊りにされた状態で拘束されているのは四人の男女――かつて王国で最高峰と謳われた勇者パーティ『ヘヴンウィングス』の面々だった。
かつて俺と一戦交えた、リーダーの竜槍騎士・九条廻。
残酷な笑みを潜めていた魔導師・白縫鏡花。
慈愛の皮を被っていた聖女・天音未来。
泣きながら俺に助けを乞うた重戦士・禍津陽向
そして、どこか俯瞰した様子で諦観していた狙撃手・月読灯矢。
だが、かつて王国の威光を放っていた彼らの姿は、ここには影も形もなかった。
五人とも白の肌着を一枚着せられたのみで、その腕には隷属の腕輪が嵌められている。
これから、深銀の呪いで上書きしようというところなのだろう。
「ひどい……」
思わず声を漏らすエリナ。
「ヒッ……あ、ああ……っ……!」
枷で吊るされた中、禍津陽向が濁った瞳を大きく見開いてこちらを見つめていた。




