107 団結の力
俺の叫びと同時に、ベネディクトの真上へ跳躍したたヒビキが、巨剣を両手で構えて振り下ろす。
――スキル『深銀の覇王剣』
ただの振り下ろしではない。
『深銀の覇王剣』は、上級剣術をも凌駕する神速の両手剣術だ。
その速さは目にも止まらず、その重さは計り知れない。
「上だとッ!?『寸勁・断絶』ッ!!」
俺の声を頼りに、瞬発的に咄嗟に頭上へ両手をかざし、発勁の衝撃波で軌道を逸らそうとする。
ズドォォォォンッ!!!
絶大な衝撃波が地下監獄全体を揺らした。
直後、天井を支えていた太い石柱が衝撃に耐え切れずメリメリと破壊され、大量の巨大な落盤が天井から降り注ぐ!
「しまっ……崩落するぞッ!?」
「ハハハッ!砕け散れ!!」
ヒビキは落盤など意にも介さず、巨大な岩塊を巨剣の一閃で粉砕しながら、視界を奪われた俺たちへ向けて暴風のごとき追撃を仕掛けてくる。
崩落する岩の雨と吹き荒れる落塵により、地下監獄は一瞬で広域の壊滅地帯へと化していた。
(まずい……!岩の雨で足場がない上、さっきのヒビキの衝撃でここら全体が崩れ始めてる!視界も最悪だ……敵の機動力を殺せなきゃ、因果の糸を狙い撃てない!)
その時、鋭く身を翻したクロニカが影の中から滑り出した。
「視界がないのは、私にとっても好都合ですわ!……『影縫い』!!」
落ちてくる岩の影を伝い、クロニカの短剣がヒビキの足元へ伸びる。
だが、ヒビキは空中での『瞬動』で強引に軌道を歪め、暗器の縛りを力任せに弾き飛ばした。
「甘いな、影の者よ!我が剣の届かぬ場所など存在せん!」
「くっ……弾かれましたわ!速度が違いすぎます!」
着地の瞬間の僅かな隙。
ヒビキの巨剣が、無防備になったクロニカの首元へと奔る。
(間に合わない……ッ!?)
俺の右眼『観測者』に、クロニカが両断される最悪の未来の糸が激しく明滅した。
だがその瞬間、俺たちの後ろから、震えながらも気高き叫びが響き渡った。
「そんなこと……させないッ!!吹き荒べ、万物を拒絶する極大の障壁――『エアロ・ディビジョン』ッ!!」
杖を掲げていたエリナが瞬時に高密度の空気の障壁を展開し、クロニカとヒビキの間に割り込む。
通常であればヒビキの『覇王剣』の絶大な威力によって強引に破破されるはずの防御壁。
だが、膨大な魔力を誇るエリナの魔法は、そう簡単には破れない。
ガンッ!! バリィィィンッ!!
さらに、天井から崩落した最大級の岩盤が、まるで『エアロ・ディビジョン』に呼応するように、奇跡的な確率で頭上からヒビキの両手剣へと激突したのだ!
「ぬ……っ!?なんだこの障壁と落下のタイミングは……!?」
ヒビキの重たい両手剣が横へと逸れ、体制を崩す。
千載一遇の好機。
「チャンスだ!奴の足を止めろ!!」
「承知いたしましたわ……『影縫い』ッ!!」
すさ、と影の中を滑ったクロニカが、漆黒の魔力を帯びた暗器の杭を影の根元へ深々と打ち込む。
落ちてくる岩の影を伝って伸びた黒い鎖が、ヒビキの影を地面へガチリと縫い付けた。
「ぬ……足が……不快な影の手応えだな!」
ヒビキの脚が一時的に固定される。
だが、彼は一切動じることなく、力任せに一気に引きちぎる。
「この程度の束縛、我が覇気の前には意味をなさんッ!!ぬあああああッ!!」
「くっ……!なんて馬鹿力ですの……!」
バチンッと嫌な音が響き、クロニカの影縫いが強引に破られる。
だが、その一瞬の足止めで十分だった。
「吹き荒べ、万物を拒絶する極大の障壁――『エアロ・ディビジョン』ッ!!」
魔力を再度練ったエリナがすかさず上級風属性魔法を放ち、暴風の壁となってヒビキの周囲を全方位から包み込む。
当然、直接攻撃ではないため深銀の拒絶殻には阻まれない。
「ふふ、風の障壁ごときで、我が動きが止められるわけがなかろう……!!」
ヒビキが両手剣を一閃する。
だが、エリナが作った風の膜を破るには、そう一筋縄にはいかない。
ヒビキは何度も両手剣を振り回した。
「ハハハハッ!無駄だ、無駄だ! このような風、一瞬で吹き散らしてくれるわッ!!」
「くっ……!長時間は持たない……すぐに破られるわ!!」
バキバキと風の障壁に亀裂が入り、今にも風が霧散しようとしていた。
だが――それで十分だった。
「――それだけ時間を稼いでくれれば十分だッ!!」
俺はすでに右眼の『観測者』の出力を極限まで解放し、狙いを定めていた。
白黒に反転した視界の中、ヒビキの体表で不気味に絡み合う『深銀の拒絶殻』の因果の糸が、ハッキリと静止して浮かび上がる。
「俺たちの連携を……舐めるなッ!!」
右手を強く突き出し、魂の底から叫ぶ。
「――『因果の解縫』ッ!!」
パチンッ!!




