101 悪魔の三杯
「では、シャッフル致します」
そう言うと黒鼠は、大きな布をかけ、その中で見えないように杯をシャッフルし始める。
「さあ、どれにしますか?」
ニヤニヤしながら、俺に尋ねてくる。
(大丈夫、こんなゲーム余裕だ。いくぞ『鑑定』──!)
一つ目の杯。
【銀装飾のワインカップ】
【黒百合の毒】
【詳細:無色無臭の致死毒が仕込まれた杯。 服用後、全身の魔力回路を麻痺させ、呼吸不全と心停止を引き起こす。】
だめだ、ハズレ。
聞いたことはないが、黒百合の毒という毒が仕込まれているらしいな。
二つ目の杯も、同様にハズレであった。
そして三つ目の杯を鑑定したとき、俺は目を疑った。
(なっ……!?)
鑑定結果は、三つとも同じだったのだ。
黒鼠は、邪悪な笑みを浮かべながらこちらを見ている。
(なぜだ!?先ほどのクロニカのやり取りから、イカサマはないはずだ。仮に、あそこでクロニカが止めなければ通常通りアタリが一つ入った状態でゲームが始まっていたはず。まさか、二度目はないと踏んで、今回はすべて毒入りの杯にしたのか?)
「どうしましたかな?怖気づいたのなら、今からやめてもいいのですよ。ただし、先ほどの金貨一袋と、そちらのお嬢さんは置いて行ってもらうことになりますが」
その提案に、俺は思わず黒鼠を睨みつけてしまう。
「そんなわけ、ないだろう。今から飲むから、お前は黙ってみていろ」
方法はどうあれ、現状は受け入れなければなるまい。
そう、これは最初から無毒の杯など存在しない、挑戦者がどれを選んでも確実に死ぬイカサマゲームなのだ。
(なるほどな。普通なら詰み。……だが)
今の俺には、右眼に取り込んだ深銀と、それによって目覚めた新たな力がある。
一息ついて、試してみることにした。
「――『因果の解縫』」
俺は心の中で静かにスキルを詠唱した。
右眼に映る黄金の糸。毒の致死因果――液体に絡みつく『死』の因果の糸に、狙いを定める。
パチンッ。
脳内でハサミが鳴るような音が響く。
俺が選んだ真ん中の杯の中に漂っていた毒の因果の糸が、サラサラと虚空へ解きほぐされ、完全に消滅した。
見た目は怪しい紫色の液体のままだが、鑑定結果はただの無害な『水』へと書き換わっている。
よし、成功だ。
目を瞑り、深くため息をつく。
「俺は、この真ん中の杯を選ぶ」
真っすぐ黒鼠の目を見据えながら、杯をこちら側へ引き寄せた。
「ほう?覚悟を決めたようですね」
黒鼠は、引っかかった、と言わんばかりの狂喜の顔を浮かべている。
俺は迷うことなくその杯を手に取り、一気に口の中へ流し込んだ。
「――ッ!?」
クロニカが目を見開き、俺を見つめる。
黒鼠は俺が苦しみ悶えて倒れ伏す瞬間を今か今かと待ちわび、歪んだ笑みを爛々と輝かせていた。
――ワン。
――ツー。
静寂が酒場を包み込む。
だが、俺は顔色一つ変えず、静かに杯をテーブルへと置いた。
「……ふぅ。少々味が濃いが、喉の渇きを癒すには丁度いい」
「な……ッ!?な、なぜです……!?――」
黒鼠は、初めて動揺した素振りをみせた。
「なぜ即死毒を飲んで無事なのか、そう言いたいのか?」
「――っ!?」
「簡単なことさ、俺が三分の一のアタリを引いた、何も不思議ではないだろう?」
「……き、貴様いったい、何をした!!」
情報屋である黒鼠の引きつった悲鳴が響き渡る。
彼の動揺は、無理もない。
挑戦者がどの杯を選ぼうと確実に息の根を止める、完全な死のイカサマゲーム──悪魔の三杯。
必ず当たる毒杯を、俺は顔色一つ変えずにただの冷水のように味わって見せたのだから。
「言えないよなぁ、俺がイカサマをした、なんて。だって、本来はアタリが入っていて然るべきなんだ。それが、毒を飲んでなぜ無事なのかと咎めてしまっては、最初から毒の杯しかないってことになってしまうもんな」
「ひっ……ひひっ……い、いいでしょう」
黒鼠は引きつった笑いを浮かべた。
「約束通り、情報を教えましょう──」
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現在連載中の作品について、前々から考えていたことではありますが、大幅に書き直しします。
こちらも引き続き更新はしますが、新作のほうが読みやすいかと思います。




