100 命がけ
クロニカがテーブルに滑らせたズッシリと重い金貨の袋を、チラリとも見ずに鼻で笑う。
「お金で口を開くと思ったら大間違いですよ、お嬢さん。私に声をかけてきたその選別眼はお見事ですが、勇者パーティの動向は、今や帝国と王国の生殺与奪を握る極秘情報だ……金貨一袋では到底売ることができませんね」
「あら、では何をお望みですの?」
クロニカが冷徹な殺気を孕んだ笑みを浮かべるが、黒鼠は怯むどころか、怪しく目を細めて俺たちを舐めまわすように見つめた。
「私が欲しいのは……そうですねぇ。あなたがたの、スリルと絶望、ですかね……裏社会の流儀に則り、勝負と行こうじゃありませんか。あなた方が勝てば、知っている情報をすべてお教えしましょう――」
黒鼠は不気味な笑みを深め、沈黙する。
「俺たちが負けた場合は?」
たまらず俺が聞き返すと、黒鼠はテーブルの上にひとつの黒い鉄の箱と3つの杯をドンッと置いた。
「勝負は、このガルツ名物『悪魔の三杯』。3つの杯のうち、2つには一口で即死する激薬が入っています。無毒のアタリはたったひとつ。……1つを飲んで生き残ればあなた達の勝利。しかし、負ければ死。……どうです?」
「なっ……!」
クロニカは一瞬動揺したものの、すぐに咳払いをして落ち着く。
「66%の確率で死、というのはこちらがかなり不利なように思えますわ」
「とっておきの情報ですからねぇ。それに、あなた方もよほど切羽詰まっていると見受けられる……乗らない手はないのでは?」
その挑発に、俺は乗ることにした。
「いいだろう。その勝負、受けよう」
「え?正気ですの?」
「大丈夫だ、ここは俺に任せておいてほしい」
クロニカと俺が、お互いにヒソヒソとささやき合う。
「そう来ると思っていましたよ……では、早速始めましょうか」
黒鼠が思いっきり口角をあげ、3つの杯へと不気味な液体を注ぎ始める。
勝率三分の一の死のゲーム――だが、俺の右眼『観測者』は、すでにその杯と液体の『不吉な因果』を捉え始めていた。
「それでは早速、始めましょうか」
ガルツの情報屋に来た俺たちは、悪魔の三杯という賭けに挑むことになった。
「あなたが、挑戦するということでよろしいんですよね?」
「ああ」
大丈夫だ、『鑑定』をすればどれが毒入りかは一目瞭然。
このゲームは、俺の方に分がある──そう思っていた。
黒鼠が、目の前のテーブルに並べられた3つの杯へ、トクトクと怪しい紫色の液体を注ぎ込んでいく。
毎回、違う瓶から注いでいるのは、どれが毒入りかわからなくするためだろう。
「2つは竜をも殺す即死毒。1つはアタリ。アタリを見事引き当てて飲み干せばあなた方の勝ち。知りたい情報をすべてタダで教えて差し上げましょう」
ゴクリ、と唾を呑み込む。
妙な緊張感が、場に漂っていた。
「待ちなさい」
「はい?」
「このゲーム、あなたに主導権がありすぎますわ。例えば、今注いだ三つとも、毒入りにすることだって可能だったはず」
クロニカが、すかさずこのゲームの穴をつく。
「なるほど。それでは、私の無実を証明するために、私が一杯飲み干しましょう。当然、注いだ私にはどれがアタリかはわかっておりますので」
黒鼠は、眼鏡を光らせながら余裕綽々といった様子である。
「ええ、それならぜひ、お願いしますわ」
すると、一番手前にあるグラスを何の躊躇もなく手に取り、飲み干した。
──ゴク、ゴク。
「これでよろしいですかな?」
「ええ、不正をするつもりはないようですわね」
「まったく、隙のない人ですねぇ。ええ、嫌いじゃありませんよ、そういうのは」
黒鼠は話しながらも、新しいグラスに新しい液体を注いだ。




