102 捕まった勇者
「まず、勇者パーティ『レゾナンス』の行方ですが、そちらは本当に存じ上げません。そして、勇者パーティ『ヘヴンウィングス』ですが……そちらは数日前、帝都へと向かったとの情報がありました。後手後手になる前に、直接攻撃を仕掛けるつもりだったのでしょう」
「帝都、というとこの帝国領の中心地ですわね……」
クロニカが相槌を打つ。
「ええ。そしてその後の事態は、思っている以上に最悪ですよ。王国から実質的な捨て駒として国境の最前線へ送り込まれたヘヴンウィングスの四名ですが……彼らはつい昨日、捕獲されております。帝国の誇る兵器『深銀の呪い』によって全スキルを封じられ、捕縛されたのです」
「囚われた……!?どこに連れて行かれたんだ!?」
俺が身を乗り出して問い詰めると、黒鼠は記憶水晶を指差した。
水晶から不気味な赤黒い光が投射され、立体的な地図が空間に浮かび上がる。
「現在、彼らは帝国軍の要塞都市アイゼンガルドの地下最深部、厳重な結界に守られた地下監獄に幽閉されています。……ですが、本当の絶望はここからです」
俺はゴクリと唾をのんだ。
「これは私の憶測ですが、なぜ勇者たちを殺さずに、わざわざ捕虜として捉えたのか。ただでさえ能力の高い勇者に、その能力を強制的に引き上げる深銀の呪いを付与したらどうなるか。科学者であれば、必ず興味を持つでしょうね。……実験が成功すれば、彼らは意思を完全に破壊され、帝国の命じるままに破壊を撒き散らす改造人間へと成り果てるでしょう」
「改造人間……ハルクの時と同じか、いや、それ以上の地獄じゃないか……!」
俺の脳裏に、あのコロシアムの覇者だったハルクの悲惨な最期が蘇る。
勇者という強い魂を持つ者を深銀で上書きすれば、どれほど恐ろしい化け物が生まれるか分かったものではない。
「早く助けにいかないと!」
「まさか、何の準備もなくその要塞都市へ殴り込むおつもりで?笑わせないでいただきたい。あそこは帝国が誇る最前線の要塞……ただでさえ王国の人間を受け入れはしないでしょうし、いくらあなた方が実力者であろうと、正攻法で挑めば飛んで火に入る夏の虫ですよ」
「言い方に気をつけてくださらないかしら」
鼻で笑うような態度の黒鼠に対して、クロニカの指先が動く。
袖口から覗く暗器の刃が、寒々と店内の明かりを反射した。
「怖い怖い。……ですがお嬢さん、事実でしょう?」
「……っ」
「何か攻略法があるはずだ。黒鼠、あんた情報屋だろ?要塞内部の極秘情報か、安全に潜入するための裏ルートを知ってるんじゃないか?」
「そこまで教える義理は私にはありませんね。先ほどの取引は、あくまで勇者パーティについてだったはずです。それについては、すでに情報はお渡ししました。おっと、脅しても無駄ですよ」
黒鼠は飄々としている。
「わかった、それなら別で情報を売ってくれ」
「支払いはどうされるおつもりで?先ほども申しましたが、私はお金にはもう興味がありません」
「そうか、それならこれはどうだ」
俺はマジックバッグに手を突っ込み、ゴトリとテーブルの上にそれを置いた。
「っ……!?ま、まさか……!?」
テーブルに置かれたのは、深銀の小瓶だ。
灰白の谷を抜ける道中、何かの役に立つかもと隊長格から拝借しておいたものだ。
「これは、部隊長クラスしか入手し得ない深銀……」
黒鼠は煙草を消すと、揉み手をしながら目をギラつかせた。
情報屋のトップである彼でさえ手に入れるのが困難な代物らしく、見事に食いついてきたようだ。
「交渉成立と行きましょう。要塞都市アイゼンガルドの内部構造を記録した記憶水晶をお渡しします。……ただし、一つ忠告をしておきます」
黒鼠はそこで一拍間を置く。
「あの要塞で深銀研究施設を統括しているのは、帝国の三将の一人……深銀の傀儡師ゾディアス。あの男の呪いは、王国の勇者兵器すら一瞬で壊死させる。……追いついた時には、勇者たちは既に人の形をしていないかもしれませんよ。私はもうこれ以上関わりたくない。さあ、持っていってください!」
「ゾディアス……」
あの岩塊竜の時に出会った、白骨仮面の男。
存在強度が測定不能だった、あの化け物。
(あいつには……一度借りがある。クロニカのお兄さんの件も含めてな)
俺とクロニカは記憶水晶を回収し、一刻も早く地上へ戻るべく闇市場をあとにした──。




