97解かれし糸と、新しき力
(まずい、早く因果を歪めないと……いや、ダメだ!深銀のスキルは、因果が普通じゃない。今の俺では干渉できない……)
(いや、出来る!)
なぜそう思ったかはわからないが、理性を通り越して俺の直感がそう告げる。
この感覚には覚えがある。
ここは、直感に身を委ねよう。
ひものグミのように不均一で歪な、うねうねと絡み合っている黄金の糸に狙いを定める。
「させない──『因果の解縫』」
つい先刻顕現したばかりの観測者Lv3によるスキル。
瞬間、俺の右眼から解き放たれたのは、黄金に輝くハサミのごとき光の刃。
その光が、『深銀の剣脈』の因果の結び目を――チョキン、と音を立てるかのように綺麗に解きほぐして切り裂いた。
すると、エリナの目の前まで迫っていた銀色の刃が、さらさらと消え去っていく。
「――ハッ!女子を狙うとは感心しねぇなぁ!」
追撃の隙を与えまいと、ベネディクトが二人の間に割って入り、拳の連打をお見舞いする。
「『金剛・滅殺拳』!」
一撃一撃は重たいものの、小隊長にダメージはない。
原因は──。
「ハハハッ!無駄だ無駄だ!この拒絶殻がある限り、貴様らのどんな物理攻撃も、どんな魔法も我には届かん!そのまま肉塊に変えてやる!」
小隊長が再び『深銀の剣脈』を繰り出す。
ベネディクトが『金剛・剛体』で刃を受け止めるものの、今度はその絶対防御を生かして無謀なまでに距離を詰め、ベネディクトの真上から剣を振り下ろした。
だが、極至近距離はベネディクトの間合いでもある。
「『寸勁・断絶』!」
剣を弾き返し、相手に一瞬の怯みを与える。
だが、その追撃の絶好のチャンスを生かすことが出来ない。
「チッ……!攻撃がビクともしねぇ上に、硬くて押し返せねぇ……!厄介な殻を纏ってやがるぜ!」
(ベネディクトの防御も大したものだが、あの『拒絶殻』がある限り、こちらからの攻撃が一切通らない……!)
「依人、どうする?私の魔法を命中させることができれば、また倒せるかもよ!?」
エリナがこちらへ叫んでくる。
「いや、大丈夫だ!今回は俺にやらせてくれ!」
俺は『観測者』を展開し、視界が白黒に反転した世界の中で、小隊長を包み込む『拒絶殻』の因果――あのひものグミのように不均一で歪な黄金の糸が、うねうねと絡み合っているのがハッキリと捉える。
(よし、こいつも『因果の解縫』でスキルが解けるはずだ!)
俺は右手を小隊長へと強く突き出し、右眼の全出力を開放した。
「――『因果の解縫』!!」
黄金に輝くハサミのごとき光の刃が、小隊長を守る『深銀の拒絶殻』の因果の結び目を――チョキン、と音を立てるかのように綺麗に解きほぐして切り裂いた。
――パリィィィィン……!!
「なっ……!? 私の『拒絶殻』が……消え……ッ!?」
絶対の盾が虚空へ霧散し、小隊長が激しい動揺に目を見開く。
「でかしたぜ、依人ッ!!」
無防備になった小隊長に対し、待ち兼ねたとばかりにベネディクトが地面を爆破するように蹴り飛ばした。
「イカサマの殻がねぇならこっちのもんよ!喰らいやがれ――『発勁・滅脚』ッ!!」
連続の蹴りが、剥き出しになった小隊長の胸板へと叩き込まれる。
「ごはぁぁぁぁぁっ!?」
「ハァ……ハァ……。ふん、一丁上がりだ」
ベネディクトが荒い息を吐きながら拳を解き、不敵に鼻を鳴らした。
「お見事ですわ、ベネディクト。……ですが依人さん、今の力は一体……?」
短剣を収めたクロニカが、驚きと深い感心が入り混じった瞳で俺を見つめてくる。
「ああ……『因果の解縫』。どうやら、スキルを解除できる、俺の新しい力だ」
俺は強く右拳を握りしめた。
不遇職だった鑑定士の右眼は、どんなバグ防御すらも解き明かす最強の分解者として、確かな勝利を俺たちにもたらしたのだった。




