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麗しのハーフダークエルフの最恐魔王が勇者アリアにだけは甘い  作者: 久遠悠羽
第4章 死者を愛する者の罠

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第94話 遺跡への道

 ついに遺跡を探索する日が来た。

 誰もが望んだわけではない。しかしそれを避ける道も、もう残ってはいなかった。


 その日はヴェイル、リューク、ラザル、アウドラ、フィスファーナに加えて持ち込んでいる魔法道具の管理に魔術師ワイアーガ、ヴェイルの側近で第一部隊の中将でもあるレンダルが着いて来ていた。


 古代遺跡のナザガラン側の座標が分かっている地点に転移し、鬼族ラーキシャス側の門を目指す。


 魔法が発動出来なくなる事を想定し、全員が鎧を装着した。

 持てるだけの武器を携え、魔力電池を入れたランタンの灯りのみを頼りに進んで行く。


 遺跡内部にはグラディスが言っていたように、四千年ほど昔の先祖達が暮らしていた様子が描かれた壁画、その頃使われていた土器や食器、武器などがそのまま残っていた。


 歴史的価値のある物として一部は資料館に保管されている。


「我らエルフの祖先の遺跡の端に何故、鬼族ラーキシャスの遺跡が続いているんでしょうね」

 ワイアーガが横を歩くヴェイルに言った。


「古代では今よりエルフ由来文明と鬼族ラーキシャス文明が近かった。しかし圧倒的に寿命が違う種族同士、相容れぬ部分の方が増え、数千年前から文化圏を分ける様になった」


「はあ……」


「門はその象徴と言っても良いだろう。四千年前ではなく千数百年程前の代物だそうだ。つまり鬼族ラーキシャス側が明確に分ける為に後から門を設置したんだ。

 それに伴って鬼族ラーキシャスの種族全体が土地に、魔法に対して絶域結界を張る存在になり、エルフ由来人の魔法が発動せず使えなくなった」


「ある強さまでの魔力を持たない者が弾かれる、と言うのはどういう仕組みなのでしょうか」

「それは分からない。古代からそうなのか、リヒトが仕掛けている術なのか……我々は今まで誰1人、明確な鬼族ラーキシャスの魔法を見た事がないからな。フィスファーナになら分かるかもしれないが」


「私でも弾かれますかね」

「どうだろうな。お前の魔力はどれぐらいだ?」


 ナザガラン国は魔族の国なので、国民は誰しも一定以上の魔法の力を持っている。

 魔力には国際的な単位が付けられており『メラグス』という名称で示される。


 一般的なナザガラン国民の魔力は大体5万メラグス程だ。


「私ですか。先日の定期測定では580万メラグス程でしたが」

「580万か……アウドラが840万、ラザルが875万でフィスファーナがアリアの体として890万だからな。お前では弾かれるかも知れないな」


「皆様流石ですね。失礼ですが、リューク殿下や陛下はいかほどでいらっしゃいますか?」


「リュークは1176万だ」

「1176万?!」


 ワイアーガの驚いた声に、皆が注目した。


「え?お、お強いです……ね。流石です。では陛下はいかほどでいらっしゃいますか?」


「俺は……測定不能だ」

「測定不能?!」


 またもや皆が彼を見た。


「今まで測るなと母に言われていたのだが、遊び心で測ってしまって……数値が上がる過程で測定器から煙と『過剰負荷オーバーキル』という文字が出てそのまま動かなくなってしまった。現在修理に出している」


「……測定器から悲鳴が……平たく言うと、壊してしまわれたのですね?」

「すまない」


「い、いえ、謝っていただかなくてもよろしいのですが……測定器の上限は1200万ですからね。

 それ以上の測定値を出させるには、一体何人の製作者の魔力を加算していかないといけないのかは、ナザガラン技術公匠にしか分かりませんが……この際上限1500万とかにした方が良さそうですね」


 ワイアーガの驚いた言葉にヴェイルが苦笑して言う。


「しかし、お前は魔力よりも技術が高いからな……今回の緊急回避『魔法道具マジケストロ』、期待しているぞ」

「ありがとうございます。必ずやお役に立つと思います」



 彼ら7人以外、遺跡の中に動く物の気配はない。

 不気味な静けさの中で、遠くで水の滴る音が響いた気がした。


 

 ヴェイルの後ろからは、リュークとフィスファーナ、アウドラが続いている。


「リューク、この前の物言いをフィスファーナに謝った?」

 アウドラがリュークに聞く。


「……いいや。そうだな、済まなかった。フィスファーナ」

「い、いえ……リヒトの方が悪いんですもの、仕方ありません」


 リュークの素直な謝罪にフィスファーナが答えた。


 それをチラリと見たラザルが、ヴェイルに追い付いてこっそり聞いた。


「陛下、あの……私は新参者ですし、部外者かと思うのですが、宜しかったのですか?ご同行させていただいて……」


 ヴェイルが彼の言葉に答える。

「お前は強いんだろ?アウドラが言っていた。魔力の数値も高いし」


 ラザルはドナウザーン公国の現竜王の長男である。

 彼にとって従妹にあたるアウドラの一つ年上だ。

 ナザガランに来る前の王太子時代に、彼女に求婚していた事は周知の話であった。


 整った顔立ちに黒く短い角を持ち、がっしりとした体格に加え、ヴェイルよりも僅かに背の高い彼は、竜騎士の重厚な鎧を着込んでガシャガシャと音をさせながら着いてくる。


「それなりには鍛錬しておりましたが……しかし、ドナウザーンから軍官として招いていただいてから間がないではありませんか。他に適任がおられたのでは?」


「招いていただいた、と言うのか。人質軍官なのに」

「……それは、我が弟の大失態でしたから」


「それだからだ。お前は人として信用出来る」

「はい?」


 ヴェイルが改めて彼を見た。


「弟を処刑しようとした事はすまなかった。竜も消してしまったし。見ていて辛かっただろう」

「とんでもございません。それどころかリオクを助けていただいた事に感謝をしております。ありがとうございました」


「弟思いなんだな」

「恐れ入ります」


 恐縮するラザルに続けて彼は言った。

「実は一行には伝えていないが、この探索では俺だけではなくリュークにも災いが起きる可能性があるのだ」

「えっ?従兄弟殿下も、ですか?」


「そうだ。俺と彼がもしもやられる事になったなら……今ここで王位継承権を持つアウドラと、フィスファーナを護れるのはお前しかいない。

 アウドラの事は大切に思ってくれているんだろ?彼女達を頼む」


「それはそうですし、アウドラ姫殿下とフィスファーナ様の事はお護りしますけれど……陛下と従兄弟殿下に万が一の事があるなどとは仰らないでください。命尽きようとも援護いたす所存です」


「そうか。しかし我が方でもお前はドナウザーンから預かっている大切な軍官なのだ。亡くす訳にはいかないのだよ……」

「陛下……」


 感激して言葉をなくしたラザルに、ふと笑いかけたヴェイルの瞳には、まだ見ぬ闇の先が映っていた。



 静かな遺跡の中に、彼らの足音と金属が擦れる音だけが反響して行く。



 ——暫くすると、目の前に鬼族ラーキシャスの遺跡への門が見えてきた。




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