09
本当にお待たせいたしました。
アルシェイド視点
彼女に初めて会ったのはあのお花見会が始まる前だった。
まあ、配属場所が違っても同じ職場だから何回も見かけてはいるんだけどね。
あのとき僕はお花見会で使いたい資料を図書館に借りに行ったんだ。
図書館に入ったとき彼女はこちらに気がついて一礼してきた。
それを見た僕は何故か彼女に初めて違和感を感じた気がしたんだ。
だから彼女をもう一度見たんだけど、彼女からはもう違和感を感じなかった。
僕は彼女のことが気になって彼女を観察することにした。
僕は彼女が机に曲を沢山置いて、本棚にある曲も見ていることに気が付いた。
それを使って僕は話しかけた。
「ねえ、何を探してるんだい?」
僕はニコニコと笑いながら話しかける。
そうすれば、大抵の人は人当たりのいい人物だと思って気を許してくれるからね。
さあ、彼女はどうかな?
……結果を言えば無表情すぎて何を思ってるかわからなかったよ。
けど身分的に彼女は僕を無視出来ないだろう。
うん。身分って下らないけどこういうとき便利だと思うよ。
「…お花見会で流すゆったりとした曲を探してるのです。」
考えてる間に律儀に模範解答だけを答えてくれる。
時間がないのか彼女は仕事に戻り、曲を探し始めた。
僕はある曲を思い出す。
あの曲はゆったりとして上品な、でも華やかさもちゃんとあるお花見会にぴったりな感じのだった……
僕は少し気まぐれをおこした。
彼女の後ろを通り本棚の一番隅にある1曲を取り出す。
そして、彼女にその曲を渡した。
「この曲はどうだい?」
彼女は曲を受け取り中身を確かめる。
しばらくすると彼女は確かめ終わったのか曲から目をはなし、こちらをジッと伺っていた。
「この曲使っても良いのですか?……ほんとにいい曲だとは思ってるんですが。」
彼女は遠慮がちに聞いてきた。
僕はニコニコと頷いて、答える。
「うん。その為に君にその曲を提案したんだから。」
それを聞いた彼女は頭を下げた。
「ありがとうございます。」
彼女が頭を上げると今までと同じ無表情なのに僕は彼女が嬉しそうに笑っている気がして、つい思ってしまったことを口に出してしまった。
「さっきよりもいい顔になったね。」
僕は手を振って奥へ進んでいった。
そのときの僕の笑みがどうだったかは正直覚えていないけど、あの台詞を彼女に言ったのは少し恥ずかしかった……
本当にどうしたのかな?他の人に似たような台詞をいっつも言っているのにね。
その時はまた関わりを持つなんて想像もしてなかった。
お花見会が始まって皆で珍しいスイーツをつまみながら、話に花を咲かせていた。
そして、ことが起こったのは四時近くになってからだった。
いきなり結界が壊れ、羽を持つ魔物が現れたのだ。
人間の遥かにこえた魔力を持ちその身を硬い鱗で覆っている魔物……
僕はハッと辺りを見回し魔術師団員に攻撃魔法の詠唱を指示する。
僕も魔法詠唱するがそこには逃げ遅れた王妃様の姿が見えた。
僕は魔法詠唱を早め魔物を討伐しようとするがそれより早く魔物は火を吹く。
僕は情けないことに王妃様の黒焦げの肢体を思い浮かべたがそこにはあり得ない光景が広がっていた。
王妃様の前に剣を持った彼女がいたのだ。
そして、黒焦げになった筈の王妃様はただ呆然と座り込んでいた。
さらには、魔物がまっぷたつというあり得ないものまでそこにあった。
何が起こったんだっ!?
いや、本当は見ていた。
見ていたから何が起こったかわかっている。
だけど、理解したくなかった。
だってそうだろう?
隣にいたからといってシルファスの剣を奪って、遠くにいる王妃様の所へ一瞬で移動し無詠唱で二人分の結界を造り剣を大きく振りかぶり魔物を切ったなんて普通に考えればあり得ないのだから……
あの後当然夜の部は中止になった。
そうして、この日魔物が現れたのにも関わらず負傷者0という奇跡的な数字を出したのだった。
あの日から急いで城の結界を張り直した。
そして、数日後たった今陛下が彼女を呼び出した。
なぜか僕にも同席するようにとも命令が下った。
僕はその日の仕事を片付けて執務室へと向かう。
執務室の前につくと扉を開けようとした。
けどそこから声が聞こえてきて開けるのを止める、僕は話を聞こうと集中した。
彼女の声と陛下の声が聞こえた。
「剣に魔法を組み込もうとは思わなかったんですか?」
彼女の声で語られたことはこの国では試されることのないものだった。
なぜなら、それはものと魔法が反発しあって受け入れてくれないという常識があったからだ。
無情にも彼女の声は決定的に常識を壊した。
「出来なければ、陛下に申し上げませんよ。」
彼女の話を近くで聞きたい、僕は自分を見えなくする魔法と壁を通れるようにする魔法をかけ室内に入っていった。
「あら?そうすると、騎士団長の名前も愛称になるのかしら? 」
何故か、入る前と話が変わっていたのだが、王妃様の言った言葉に僕は一瞬動きを止める。
彼女がシルファスの愛称を呼ぶ…それを考えると胸の中でもやもやしたものを感じるのだ。
どうしたのかな?僕は胸に手を当てた。
「それは、初対面の人に失礼にな「私はそれで構いません。」」
いつの間にか二人の声が答えを重ねて返していた、本当にこの気持ちはなんだろう?僕は仲が良さそうな二人を見てイライラしているこの気持ちに戸惑いを覚えたのだった。
しかしそれが、いけなかったのだろう。
魔力が少し揺れてしまった。
ふと、我に返ると剣の先が喉元の急所をギリギリの所で止まっていた。
彼女がまたシルファスから剣を奪っていた。
「どうした?」
陛下が驚いて彼女に聞く。
彼女は静かな声で答える。
「……魔法と人の気配があるだけです。」
彼女は気が付いてないが周りの空気が固まった。
……この空気のなか出なきゃいけないの?うわぁ、と僕はため息を吐く。
そして、直ぐに疲れきった顔にニコニコと笑顔を浮かべながら魔法を解いた。
僕はこちらのペースに巻き込むために余裕たっぷりに話始める。
「また会えたね?僕の気配に気づくなんて…シルファスでも出来ないのに。強いんだね。」
だと言うのに何故か、彼女に無視をされる。
「無視しないでくれよ」
彼女が席に戻るのを見ながらボソボソと抗議をしてみた。
しかし、メイドたちによって自分の席が用意されたので静かに座って本題に引き戻すことにしたのだった。
「ところでさ、話を聞いてると本題から随分とずれているようだね?」
今度はずらせないよ?という意図を含ませニッコリと笑う。
「それじゃあ、話してもらおうか?」
彼女が誤魔化す時間を作らないように僕はどんどんと質問をしていった。
「うん。これで聞かせてほしいことは終わりだね。なんでこんな簡単なことにてこずるのかなぁ?」
僕は陛下を攻めるように口にする。
そして、僕は気を取り直して彼女の方をみると彼女は質問攻めに疲れたのかソファーの上にぐったりとしていた。
そんな様子を見て陛下はぼそりとこぼした。
「なんでこんなやつが光魔法の保持者なんだよ?」
暇だったのか、王妃様もそれに同意していた。
「陛下それは、この城の誰もが思っていることよ。」
ふーん、誰もがねぇ。
面白いことを聞いた僕は楽しいことを思い付いたのだった。
「では、僕は仕事が詰まっているから失礼させていただくよ。ああ、それとネルファさんだっけ?君僕のこと知らないよね。僕は魔術師団、団長アルシェイド=リオネル。アルドでいいよ。」
僕は忘れずに名前を名乗り愛称まで教え、終わらせた仕事を理由に退室した。
次の日、城中で行われた大量の不正書類が執務室の机の上にのせられていてそれを発見した陛下が一人で全部片付けにはめになるのはまた別のお話し。
いかがでしょうか。
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