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自動ドアの電源は落とされ、店内は薄暗い非常灯だけがぼんやりとフロアを照らしていた。壊れたガラスの隙間から滑り込むように潜入した三人。漂うのは、新品のCDジャケットとプラスチックの独特な匂い、そして——強烈な「鉄の匂い」だった。
「……気をつけて。誰かいるわ」
亜留々が長傘を低く構える。
その瞬間、1階のポップミュージックフロアに、静かなパチ、パチ、という不気味な音が響いた。
音がする方向——「洋楽ROCK/POP」のコーナーの棚の上に、一人の男が腰掛けていた。
派手なパープルのスーツに身を包み、手元で器用にトランプのカードをシャッフルしている。
「ようこそ、ノワールな音楽館へ。……ほう、『名無しの観客』に『雨の日の処刑人』、それに『ビッグ・ジョー』まで揃い踏みか。豪華なライブになりそうだ」
男は薄笑いを浮かべると、指先で一枚のカードを弾いた。
「伏せろ!!」
大城の叫びと同時に、極彩色のカードが一閃。
目にも留まらぬ速さで空を切り、矢吹のすぐ横にあったCDラックに深々と突き刺さった。プラスチックケースが粉々に砕け散る。
「紙のカードが……CDケースを叩き割った……!?」
矢吹は顔を引きつらせた。
「ただの紙じゃないわ。エッジに超薄型の超硬合金が仕込まれている……! それに、あの手首のスナップ……」
亜留々の目が鋭く細まる。
「カード使いの『ディーラー』……! ウロボロスのA級アサシンだな」
大城がマグナムを構え、即座に弾丸を撃ち込んだ。
バァン!!
激しい銃撃音が店内に鳴り響く。しかし、「ディーラー」はすでに棚の上から消えていた。
残されたのは、空中から舞い散る数十枚のトランプカード。
「ハハハ! 銃弾なんて遅すぎるよ、ビッグ・ジョー!」
頭上からの声。ディーラーは2階へと続く階段の手すりに跳び乗り、両手から扇状にトランプを繰り出した。
シュシュシュシュシュッ!!
「くっ……!」
大城が近くの巨大なディスプレイ棚を倒し、盾にする。弾丸のようなカードの嵐が棚を激しく叩きつけ、合板の木片と紙片が派手に飛び散った。
「矢吹さん、私の影から離れないで!」
亜留々は黒い傘を一気に開いた。
バサァッ! と広がった特殊防弾のシルク生地が、雨のように降ってくるカードの刃をすべて弾き返す。キン! キン! キン! と甲高い金属音が店内に響き渡る。
「ほう……それがウワサの『仕込み傘』か! 素晴らしい頑丈さだ。だが、これならどうかな!?」
ディーラーが空中から投擲したのは、赤と黒の「ジョーカー」のカード2枚。
「(マズい……!)」
亜留々は瞬時に悟り、矢吹の襟ぐりを掴んで横へ跳んだ。
ドォン!!!
ジョーカーが床に刺さった瞬間、小規模な爆発が起き、CD棚が爆風で吹き飛んだ。無数の試聴用ヘッドホンと歌詞カードが火花とともに宙を舞う。
「カードに微量な高エネルギー炸薬を仕込んでいるのね……!」
着地した亜留々が、乱れた髪を払いながら冷たく言い放つ。
「正解! これがボクの『デッドマンズ・ハンド』さ! どんな盾を用意しようが、爆破すれば関係ない!」
ディーラーは次のカード束を指に挟み、不敵な笑みを浮かべた。




