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「監視ルームの候補地は三つ。そのうち、一番怪しい通信データを発しているのは……あそこよ」
亜留々が指さしたのは、黄色と赤の鮮やかなロゴが夜の雨の中に浮かび上がる「タワーレコード渋谷店」だった。普段なら音楽を求める若者で賑わう大型CDショップも、この雨と深夜の静けさの中で、異様な異彩を放っている。
「タワレコか……。あんな目立つ場所を拠点にしてるのか?」
矢吹が眉をひそめると、大城が銃の弾倉を確かめながら低く吐き捨てた。
「灯台下暗しってやつだ。フロア数も多く、緊急時の逃走ルートも確保しやすい。裏社会の連中が潜むには格好の城だな」
矢吹はブルリと震えた。それを見た大城は言う。
「嫌ならやめとくか?逃げ出すってのも手だぜ。みんなで山手線に乗って、遠くの街にでも逃亡するか?」
「山手線は嫌ね。東横線ならいいけど」亜留々は言った。
「なんで山手線だと嫌なんだ?」
「変人がいるからよ」
「変人?」大城は眉をひそめる。
「山手線に乗って、一日中ずっとぐるぐる回っている」
「何者だ、そいつは?」
「あなたも名前ぐらいは聞いたことがあるんじゃないかしら?
道化師の異名で知られる殺し屋よ」
「道化師‼」
「知ってるのか、大城?」
「あいつはウロボロスの超一流の殺し屋だ。殺しの仕事をするときだけ、ピエロの扮装をする」
「電車に乗っている時は冴えない中年男性で、誰もまさか彼が殺し屋だなんて思わないでしょうね」
「どういう関係があるんだ、そいつは? ……君と」矢吹は尋ねた。
しかし、亜留々は無言で何も答えなかった。
「行きましょう」
亜留々はそう言って、タワレコを指し示した。
「隠し事はなしだぜ」
大城は言った。
「俺たちは今やお互いに命を預け合っている関係なんだ」
ため息をつくと、亜留々は語りだした。
「しょうがないわね。その人はね、私の育ての親よ」
「育ての親⁉」矢吹は声を上げた。
「私はね、天外孤独だったの。実の親が誰かも知らない。道化師が私を拾って育て上げたの、菅亜留々の名前も彼がくれたもの」
「そして暗殺技術も叩き込まれた」大城は言う。
「よくわかったわね」
つまり、亜留々は道化師の義理の娘であり、さらに弟子にも当たるのだ。
「今ではもう彼とは付き合いはないわ。殺し屋としても一人の人間としても、考え方があまりにも違いすぎるから」亜留々は首を振りながら言った。
「さあ行きましょう!」改めて亜留々は声を上げた。




