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「傘? 傘でどうやって殺すんだよ」
矢吹が怪訝な顔をすると、大城はコーヒーカップをソーサーに置き、低く濁った声で言った。
「仕込み傘さ。先端に仕込まれた特殊な刃物か、あるいは高圧のワイヤーでも飛び出すようになっているんだろうよ。彼女の代名詞は『雨の日の処刑人』だ。姿を見た者が生きて帰ってきた例はほとんどねえ。お前が生き延びられたのは、ただの気まぐれか、あるいはターゲットじゃなかったからだな」
「……冗談だろ」
「俺の顔を見て、今冗談を言っているように見えるか?」
大城のサングラスの奥から、冷徹な光が矢吹を射抜いた。
確かに、この巨漢が冗談でこんな話をふっかけるとは思えない。矢吹はゴクリと喉を鳴らした。
「で、その亜留々も含めて、なぜ殺し屋が渋谷に集められているんだ?」
「……知りたいか?」
大城は周囲をちらりと見渡すと、身を乗り出して声を潜めた。
「今夜、この渋谷の街全体を使って、ある『ゲーム』が始まるのさ。主催者は裏社会の巨大シンジケート『ouroboros』。ターゲットの首を最初に持ち帰った者に、法外な懸賞金が支払われる。参加者は、今日この街に集められた選りすぐりの殺し屋たち全員だ」
「殺し屋同士の、殺し合いか……?」
「そういうことだ。逃げ出すことはできねえ。街の主要な出口はすべて奴らの息がかかった連中に封鎖されているはずだ。やるか、やられるか、それだけだ」
店内を流れるジャズの音が、急に遠く感じられた。
さっきまでただの雨粒を弾いていたスクランブル交差点が、一瞬にして殺伐とした戦場に変わった気がした。
「……で、お前はどうするんだ、大城?」
矢吹の問いかけに、大城はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。スキンヘッドの頭頂部に、店内の照明が鈍く反射する。
「決まっている。賞金も欲しいがね……あの『亜留々』ってガキの首を獲れば、業界での俺の格が一段と上がる。面白れぇ、返り討ちにしてやるよ」
その時だった。
カラン、と乾いた音がして、喫茶店の扉が再び開いた。
冷たい外気が、コーヒーの香りが充満する店内に流れ込んでくる。
二人は同時に視線を入り口に向けた。
そこに立っていたのは――。




