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その指が、リモコンの赤いボタンへと伸びる——!「しまっ……! 爆破スイッチか!?」
大城が叫び、マグナムの引き金を引き絞ろうとした——その瞬間。
「させないわ!」
亜留々の身体が、降り注ぐ雨を切り裂いて弾けた。
彼女はたたんだ傘を一直線に投擲。傘は疾風のごとき槍となって空を切り、アルレッキーノの手元を正確に貫いた。
スパッ……!
「グあぁっ!?」
鋭い悲鳴とともに、切り飛ばされたリモコンが宙を舞い、濡れたスクランブル交差点のアスファルトへ転がり落ちる。
「矢吹さん! リモコンを!!」
亜留々の叫びが響く。
「っ……任せろ!!」
矢吹は我を忘れ、水たまりを力任せに跳ね上げながら突進した。
這いつくばるようにして滑り込み、転がるリモコンを間一髪で手の中に押し包む。冷たいプラスチックの感触。指先に伝わる安堵感。
「獲った……! 爆破はさせない!!」
「おのれ……ただの『観客』の分際でえぇぇっ!!」
狂乱したアルレッキーノが、折れたステッキの残骸を握り締め、矢吹へ向かって跳びかかろうとした。
だが、その視界を巨大な影が遮る。
「俺の連れに触んじゃねえ、道化師!!」
大城の咆哮。
巨躯から繰り出された泥臭くも圧倒的な重威の拳が、アルレッキーノの横顔を真っ直ぐに打ち砕いた。
ドガァァン!!!
黒い仮面が粉々に砕け散り、アルレッキーノの身体が弾かれたように吹き飛ぶ。水たまりを激しく叩きつけられ、男は激しく血を吐いて倒れ伏した。
雨音だけが、再び渋谷の街を支配する。
「ハァ……ハァ……っ」
大城が荒い息を吐きながら拳を引く。
矢吹はリモコンを握りしめたまま立ち上がり、雨の中に横たわる男を見下ろした。
仮面が割れ、露わになったアルレッキーノの素顔。それは、どこにでもいそうな、疲れ果てた中年男の顔だった。
「……見事だ……亜留々……」
男は血を吐きながら、虚ろな目で雨の降る夜空を見上げた。
「仲間を作り……ただの観客(無価値な人間)に助けられ……僕の計算をすべて打ち破った……。君は……僕の最高傑作だ……」
「勘違いしないで」
亜留々は静かに歩み寄ると、アルレッキーノに冷たく言い放った。
「彼らは『無価値な人間』でも『道具』でもないわ。……私を『雨の日の処刑人』ではなく、一人の人間として見てくれた人たちよ」
アルレッキーノの瞳がわずかに揺れた。
「あなたには一生……理解できないでしょうね」
亜留々はそう言い捨てると、一度も振り返ることなく背を向けた。
後ろで遠くから警察のサイレンの音が近づいてくる。ウロボロスの結末を察した街の狂騒が、少しずつ終わりを告げようとしていた。




