13
アルレッキーノが高笑いしながらさらに踏み込んだその時——
「……勘違いしないで」
明滅する光の中で、亜留々の透き通るような声が静かに響いた。
「守っているわけじゃないわ。……あなたの動きを『採点』していたのよ」
「なに……!?」
亜留々は開いていた傘を、一瞬で収束させるように「パンッ」と固く閉じた。
その動作と同時に、傘の先端から解き放たれたのは、細利なワイヤーではなく——雨水を一気に吸収し、高圧で圧縮して放つ『水流の刃』だった!
ドッ……!!!
「ぬっ……!?」
アルレッキーノは驚愕し、間一髪でステッキを盾にして後方へ躍り出た。だが、高圧水流の衝撃波でアーガイル柄のジャケットが派手に切り裂かれて血が飛ぶ。
「な……高圧水流の射出機構だと……!? 傘のフレームの中に、そんなものを……!」
「私の傘は、雨の日にしか真価を発揮しないの」
亜留々は濡れた黒髪を優雅に背中へ流し、冷たい瞳でたたんだ傘を突きつけた。
「雨粒を集め、研ぎ澄まし、敵を穿つ。……これが、あなたを越えた『雨の日の処刑人』の姿よ」
「……クク……フハハハハ!」
アルレッキーノは切られた肩を抱えながら、狂気的な歓喜の声を上げた。
「素晴らしい! 完璧だ! 僕を超えた殺しの芸術……! やはり君こそが、僕のすべてを継ぐ者にふさわしい!」
「黙りなさい」
亜留々は冷たく言い放つ。
「それでは僕も本気を出そう」
突然表情を変えアルレッキーノは言った。
彼の攻撃の速さと強さが、明らかに今までと違うレベルに上がった。
亜留々は防戦一方となった。
アルレッキーノが放つ目にも留まらぬステッキの連打。
激しい金属音が雨音を打ち消し、暗闇の中で散る火花が二人の影を不気味に浮かび上がらせる。
「どうした亜留々! 防戦一方じゃないか! 僕が教えた暗殺術の神髄を見せてみろ!」
アルレッキーノが高笑いしながら、さらに踏み込んだ。
仕込みステッキの突進が亜留々の肩口をかすめ、黒い衣類を切り裂いて鮮血が舞う。
「亜留々……っ!?」
矢吹が思わず叫んだ。
「くっ……!」
亜留々の眉がわずかに歪む。
アルレッキーノのアサルト精度とスピードは、彼女の予想を遥かに超えていた。防弾仕様の黒いシルク傘一本では、目くらましと斬撃の多角攻撃を捌ききれない。追い詰められた亜留々の背中が、街頭ビジョンの支柱へと追い込まれていく。絶体絶命のピンチだった。
アルレッキーノとの激しい攻防の中、甲高い金属音が雨の渋谷に響き渡った。
バキンッ!
「……ッ!?」
アルレッキーノの鋭いステッキの一撃が、亜留々の黒い長傘の骨組みを正確に捉え、真ん中から真っ二つにへし折ったのだ。
「亜留々‼」
矢吹が叫ぶ。
「ハハハハ! どうした、僕の最高傑作! 自慢の『傘』を失って、羽を捥がれた鳥の気分はどうだい⁉」
アルレッキーノが狂気的な高笑いとともに追い打ちをかける。折れた傘は使い物にならず、路面を転がった。手ぶらとなった亜留々は攻撃を防ぎきれず、激しい打撃を受けて濡れたアスファルトの上へと吹き飛ばされた。
「……くっ……!」
絶体絶命。冷たい雨が容赦なく亜留々の全身を打ちつける。
アルレッキーノがステッキの仕込み刃を掲げ、止めを刺そうとゆっくりと歩み寄ってきた。
「終わりだ、亜留々。君の『雨の日の処刑』も、ここで廃業だ」
大城がマグナムを構えようとするが、アルレッキーノの動きはあまりに速く、間に合わない。




