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空間を読むあたしは、戦場で迷わない  作者: niwa.


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第4話 そっちって、どっち?


「お待たせ。熱いから気をつけてね」

 カグラが、湯気の立つマグカップを三つ載せたお盆を持って戻ってきた。


「ありがと」

 あたしはマウスから手を離し、カップを受け取った。


 甘い匂いがする。

 一口飲むと、思っていたより熱くて、舌の先が少し痛くなった。


「どうだった?」

 カグラが、あたしの隣から画面をのぞき込む。


「当たったよ」

「おお」


「動かない丸に、一発だけ」

「……おお?」


 さっきより勢いが弱くなった。


「その反応やめて」

「いや、ナナミが満足してるなら、あたしは全力で褒めるよ。丸に勝ったね」

「丸は何もしてこないけどね」

「最初はそれでいいんだよ」


 太蔵さんがココアを飲みながら言った。


「止まってる的に当てられない人間が、走ってる相手に当てられるわけないから」

「そう言われると、すごく先が長く感じます」

「実際、長いよ」


 また、あっさり言われてしまった。

 でも、不思議とさっきほど落ち込まなかった。


 何も分からずに撃たれ続けていた昨日とは違う。

 今は、自分に何ができて、何ができないのかが少しだけ分かっている。


 敵が来る場所は読める。

 でも、そこへ正しく照準を置いて、弾を当てることはできない。

 だったら、練習すればいい。


「休憩が終わったら、次は二人でやってみようか」


 太蔵さんが言った。


「二人?」

「ナナミちゃんとカグラ。同じチーム」


 カグラが自分を指差した。


「あたしも?」

「お前、何しにこの部屋にいるんだよ」

「ココア係」

「ゲームしろ」


 カグラは面倒そうに返事をしながら、部屋の奥にある椅子を引っ張り出した。

 積まれていた箱を足で少しずらすと、その向こうにも机があった。モニターとキーボード、それに少し古そうなパソコンが置かれている。


「まだ動くの、それ」

「失礼な。予備機として現役だ」

「この前、起動したら変な音してたよ」

「今日は機嫌がいいから大丈夫」

「パソコンに機嫌があるんですか?」


「あるよ」

「ないよ」


 兄妹の答えが重なった。

 どちらを信じればいいのか分からない。

 カグラがパソコンを起動している間に、太蔵さんは新しい対戦部屋を作った。


 今度も、さっきと同じ小さな倉庫のマップだった。


「ルールは簡単。俺が敵。二人が同じチーム」

「二対一なら、こっちが有利じゃない?」

「今回は、ナナミちゃんは撃たない」

「え?」

「敵を探すのがナナミちゃん。撃つのはカグラ」


 太蔵さんは、あたしのキャラクターから武器を外した。


「カグラは、ナナミちゃんが教えた場所だけを見る。勝手に俺を探すのは禁止」

「それ、あたし必要?」

「ナナミちゃんが撃てないんだから必要だろ」

「言い方が正しいぶん、傷つきます」

「ごめんごめん」


 あまり申し訳なさそうには見えなかった。


「でも、どうしてそんな練習を?」

 太蔵さんは、あたしとカグラの画面を交互に見た。


「ナナミちゃんに見えてるものが、チームでも使えるか確かめるため」

 あたしに見えているもの。


 頭の中に組み上がる、建物の形。

 その中を通る、人の動き。

 それを使えば、あたしが撃てなくても、カグラが敵を倒せるかもしれない。


「やってみます」

「よし。カグラも準備できた?」

「いつでもいいよ!」


 あたしたちのキャラクターが、倉庫の一階に並んだ。

 太蔵さんは、反対側から始まる。


「俺を一回倒せたら二人の勝ち。俺がカグラを倒したら負け」

「ナナミは倒しても意味ないの?」

「武器を持ってないからね」

「囮にはなるよ」

「ならないよ」


 開始までの数字が画面に表示される。


 三。


 二。


 一。


 試合が始まった。

 カグラのキャラクターが、あたしの少し前に出る。


 太蔵さんの姿は見えない。

 耳を澄ます。

 左側から、かすかな足音。


 一階。

 速くはない。

 壁を挟んで、こちらの様子を確かめながら進んでいる。

 足音が一度止まる。


 次に聞こえたとき、少し高い場所へ移っていた。

 二階へ上がった。


 左の階段から渡り廊下へ出て、中央を横切る。

 その先の階段を下りれば、カグラの横へ出られる。


「カグラ、来る」

「どこ?」

「そっち」

「そっちって、どっち?」


 画面の左端に、太蔵さんのキャラクターが一瞬だけ見えた。


「だから、そっち!」

「右? 左?」

「カグラの横!」

「どっちの横!?」


 銃声が鳴った。


 カグラのキャラクターが、その場に倒れる。

 画面に敗北を知らせる文字が表示された。


「今のは無理!」


 カグラがヘッドセットを外し、あたしを振り返った。


「そっちしか言ってないじゃん!」

「だって、そっちから来てたから!」

「あたしから見たら、画面の全部がそっちだよ!」

「でも、来るって分かってたのに……」


 悔しさが口からこぼれた。

 太蔵さんが、対戦結果の画面を閉じる。


「そこが次の問題だね」

「次の問題?」

「ナナミちゃんの頭の中では、俺がどこにいるか分かってた」

「はい」

「でも、その地図はカグラには見えない」


 あたしは、隣に座るカグラを見る。

 同じマップにいた。

 同じ音を聞いていた。

 それなのに、あたしに見えていたものは、カグラには伝わっていなかった。


「分かってるだけじゃ、駄目なんですか」

「一人で戦うなら、それでもいい」


 太蔵さんは、あたしたちの画面に表示されたマップを指差した。


「でも、チームで使うなら、見えてるものを言葉にしなきゃならない」


 分かっているのに、当たらない。

 ようやく、その先へ進めると思った。

 今度は、分かっているのに伝わらない。


 あたしにしか見えない地図は、まだ、あたし一人の役にしか立たなかった。


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