第2話 1キル12デスの才能
次の日、あたしはカグラの家を訪ねた。
学校からの帰り道に聞いたところ、カグラもお兄さんの影響でFPSをやっているらしい。
そんなに真面目にやってるわけじゃないらしいけど。
「言ってなかったっけ?」
「初耳だよ!」
「ナナミがゲームに興味持つなんて思わなかったし」
そう言いながら、カグラはあたしを二階の部屋へ案内した。
扉を開けた途端、床を這う何本ものケーブルが目に入る。
壁際には二台のパソコンが並び、その上には大小いくつものモニター。机の脇にも、使っているのかいないのか分からない黒いパソコン本体が置かれていた。
足の踏み場もない、というほどではない。
でも、どこへ足を置けば安全なのか、少し考える必要はあった。
「ケーブル踏まないでね。太蔵が泣くから」
「片づければいいんじゃない?」
「それを本人に言うと、配線には全部意味があるって怒る」
ここは、カグラのお兄さん――太蔵さんの部屋だった。
「ナナミちゃん、久しぶり」
椅子に座っていた太蔵さんが振り返る。
「話はカグラから聞いたよ。FPSを始めたんだって?」
「はい。昨日、初めて」
「で、戦績を見てほしいと」
あたしは頷いた。
太蔵さんが、兄からもらったアカウント情報を確認し、昨日の試合記録を画面に呼び出す。
表示された数字は、1キル12デス。
あらためて見ると、我ながらひどい。
太蔵さんは腕を組んだまま、しばらく何も言わなかった。
「……ひどいですよね」
「うん。数字だけ見れば、かなりひどい」
「お兄ちゃんには向いてるかもって言われたんですけど」
「妹に夢を見すぎたんじゃない?」
「太蔵」
カグラが横からにらむ。
「冗談だよ。まだ数試合しかやってないんだろ?」
太蔵さんは、あたしの戦績画面を閉じた。
「リプレイは残ってる?」
「たぶん」
「じゃあ、見てみようか。一キル取るまでに十二回も死んだ理由を」
「言い方」
「大事なことだよ。下手だから死んだのか、知らないから死んだのか。それとも、別の理由があるのか」
太蔵さんは、昨日の試合を再生した。
画面の中のあたしが、味方とは違う方向へ歩き出す。
「ここ」
太蔵さんが映像を止めた。
「なんで一人で右へ行ったの?」
「二階にいた敵が、この階段から下りてくると思ったからです」
「敵、見えてないよね」
「はい」
「足音は?」
「まだ、してなかったと思います」
太蔵さんが映像を少し巻き戻す。
ミニマップには、敵の姿は映っていなかった。
「じゃあ、なんで分かったの?」
「左側で味方が一人倒されて、そのあと銃声がしなくなったから。正面にいた敵がそのまま来るなら、もっと早く誰かと会うはずで……」
あたしは画面の地図を指差した。
「こっちへ回った方が、味方の後ろに出られるので」
再生が始まる。
数秒後、敵が階段から下りてきた。
画面の中のあたしは、敵より先に銃を構えていた。
けれど、慌ててマウスを動かしすぎ、弾は敵の横を通り抜ける。
あっという間に撃ち返されて、倒された。
「惜しい」
カグラが言った。
太蔵さんは答えなかった。
次の場面を再生する。
また、あたしは味方と違う場所へ向かった。
敵が現れる。
あたしは先に気づいていたのに、照準を合わせられずに負けた。
その次も。
さらに、その次も。
映像が止まった。
「ナナミちゃん」
太蔵さんの声から、さっきまでの軽さが消えていた。
「はい」
「撃つのは壊滅的だね」
「やっぱり」
「マウスを動かしすぎ。照準は地面を向いてる。撃つときは足が止まる。今のままじゃ、目の前に敵が立ってても負ける」
胸の中にあった小さな期待が、しぼんでいく。
「でも」
太蔵さんが、停止した画面を指差した。
「ナナミちゃん、敵が出てくる場所は一度も外してない」
「……え?」
「十二回死んでる。でも、そのうち九回は、敵より先にそっちを向いてる。残りの三回も、逃げる方向は合ってた」
太蔵さんはリプレイの時間表示を少しずつ戻した。
「敵が見える前から待ってる。撃たれる前に隠れようとしてる。味方が気づいてない裏取りにも、一人だけ反応してる」
「でも、全部負けてます」
「撃てないからね」
太蔵さんはあっさり言った。
「見えてるのに、身体が追いついてない」
画面の中では、敵がまだ誰もいない通路へ向かって走っている。
その出口で、昨日のあたしが待っていた。
「ナナミちゃんには、敵が来る場所が分かるの?」
「分かるというか……そうなるように見えるだけです」
「それを、分かるって言うんだよ」
太蔵さんは椅子の背にもたれ、あらためてあたしを見た。
「一キル十二デスだけ見たら、才能なんてない。でも、このリプレイは話が別だ」
手汗で湿った指を、膝の上で握る。
「撃ち方を覚えたら、どうなりますか」
「それを今から確かめる」
太蔵さんは笑い、隣のパソコンの電源を入れた。
「ようこそ、とはまだ言わない。まずはナナミちゃんが、本当に戦場を読めてるのか試してみよう」




