008話『ハレちゃんは心配性』
「わたくしの勝ちですわ!! まいったしてください、兄様!!」
「さすがは我が妹……でも、まだまだ兄は負けないよ!」
斬撃波を放ったあと、背後に隠した刀にザクトは魔力を溜め続けていた。
それを全放出すると、透き通るような光る氷の刃が生成され、刃渡りが10倍にもなる。
「今度は飛び道具とは違うからね!」
ズォンッ!!
ビジュ的には振り回せないほどの長さ・重さになっていそうなものだが、それを一瞬でブン回す。
光の刃が、ザクトを中心にほぼ一回転。
ヒュオンと空間が擦れる音がし、森の木々と精霊ガードゥナ、そしてルーラたちをも通過した。
「ひゃあッ…………あ、あれ?」
ルーラは思わず悲鳴を上げるが、自分の体も防壁も斬られてはいなかった。
物理には影響なく、対魔法に特化した魔力の刃。
他のすべてに目もくれず、精霊ガードゥナだけを一刀両断していた。
※ルーラの防壁は物理魔法両用のため、除外されている。
「アアアアアァァァァァ……ッ!」
ガードゥナが笛の音のような高音で叫んだかと思えば、収縮した残存魔力が爆発。
パァンと派手な音を立て、自然の元素が飛び散っていった。
「あう…………ッ!」
「おっとっと!」
糸が切れたように崩れ落ちるハレッタへ駆け寄り、あらためて抱き留めるザクト。
魔力を放出しきったハレッタは、息を切らしながら恨めしそうな眼差しを向けた。
「うう……に、兄様ぁ!」
「ハレちゃんは心配性だね。大丈夫、僕は死なないよ」
兄として、妹の頭をポンポンする。
幼い頃からハレッタが好きな仕草だった。
「わかりました……兄様を信じます。ええ」
お子様らしくズビーと鼻をすすりながら、ハレッタは髪の乱れを直した。
「ただし、条件があります」
「な、なに?」
「わたくしを連れていくこと」
「ええ!? いやいや、それは……危険だから」
反射的に否定するザクト。
その肩を掴み、ハレッタはザクトを揺さぶった。
「兄様の危険が一番ダメなんだって、わかれ!?」
「は、はい……」
頭ひとつ身長差のある妹にスゴまれ、ザクトは苦笑いで答える。
「と、とにかく仲直りできて良かったですね! あの、あらためまして……私、ルーラと申します」
「…………」
恐る恐る笑顔で挨拶するルーラ。
だが、ハレッタはそれを一瞥し、反対側の草しか生えていない空間へ視線を移す。
「……シャノン!」
「はっ、ここに」
「ひゃあッ!?」
ハレッタの言葉が終わるか終わらないか、という瞬間、長身のエルフ女性が突然現れ、ルーラは飛び上がった。
「シャ、シャノン……いたの!?」
ザクトは引きつった笑顔で問う。
が、彼女は何の感情も読み取れない鋭い眼差し。
「お言葉ながら『エルフ族には隠密部隊が重要』と説き、推し進めたのはザクト様。ハレッタ様に私が付いていることは当然ご承知のはず」
「そ、そうだったね。は、はは……」
黒髪をお団子にまとめ、そこから垂れたテールにはひとすじ金色が光る。
まるでアニメオタクのコーカソイドが日本人キャラのコスプレしているようなビジュアル。
だが、それどころではなく、その服装はまさしく、お色気アニメに出てきそうな露出度高めの【くノ一】だった。
「シャノン、聞いての通りです。魔族討伐のため、ケイト王国へ向かいますわ」
「は……仕方ありませんね」
その言葉に、ルーラは申し訳なさそうな顔で口を挟む。
「あ、あの……とてもありがたいのですが、本当によろしいのですか?」
「…………」
ルーラの問いかけに、ハレッタは再び無視するような態度。
だったが、あらためてルーラの方へ向き直ると、目を合わせないまま口を開いた。
「ルーラ、でしたかしら。神託の情報、すべて話しなさい」
「あ……は、はい! えーとですね……」
塩対応にビクビクしながら、ルーラはポーチの中の紙片を取り出した。




