007話『痛くしませんからぁぁぁ!!』
杖を目の前に構え、宝玉に手のひらをかざす。
と、鮮やかなライトグリーンの魔法陣が浮かび上がる。
「ハレッタ・レインシスの命力を素とし、術法決定! 大自然の理をひととき書き換え、この身を万物の神に繋がる門とする!」
光る竜巻のような魔力の塊が魔法陣から立ちのぼり、ハレッタに降りかかる。
彼女の胸に新たな魔法陣が現れ、周りの空気が一気に動く。
ザクトは暴風域から離れるようにハレッタと距離をとり、ついでにルーラの拘束を解いた。
「はやや……頭クラクラします~。な、何が起こってるんですか?」
「うーん……ハレッタ、暴走してるね。精霊魔法まで使って……」
「な、なんと! 精霊と同期して魔法効果を何倍にも増大させる、という……?」
ハレッタの胸に魔力が集まり、魔法陣を通して放出されていく。
その様子は、光の流れでハッキリと見てとれた。
「ルーラ、できるだけ離れて……亀の中に入っててね」
「は、はい!」
まだヘロヘロしているルーラの前に立ち、ザクトは静かに腰の刀を握りしめる。
魔法陣からの魔力はどんどんハレッタの前に溜まり、すでに人間3人分の大きさの発光体に。
「わたくしに力をお貸しなさい! 嵐翼霊ガードゥナ!!」
叫びに呼応し、魔力エネルギーの塊は翼を持つ巨大な精霊の姿となり顕現。
主人を守るように立ちはだかる。
「兄様! 本意ではないですけど! 今度こそ、身動きとれないようになってもらいますわぁぁぁッ!!」
目の据わったハレッタは声を荒らげ、杖を地面に突き立てた。
そして、胸の魔法陣を両手で抱えるように構え、そこから繋がった精霊に指示を送る。
精霊ガードゥナは翼を大きく羽ばたかせると、銃弾のような羽の1本1本が激しい気流に乗って乱射される。
「くッ……!」
ザクトは鞘に入ったままの刀へ魔力を送り、刀身に対魔法シールドを張る。
と、そのまま自分に当たる軌道の羽を叩き落とした。
「そこです!」
ハレッタが叫んだ瞬間、ガードゥナの手から直接射出された羽がザクトの左腕に命中した。
「うッ!?」
光の羽の銃弾には、魔法陣が刻まれた小さな錠前がついていた。
「施錠!! ですわ!」
カチッと施錠された瞬間、ザクトの左腕がガクンと下がる。
「弱化魔法が仕込んであるのか。そういえば、もともと得意だったな……やっぱ戦いたくない相手だよ!」
ダッシュでその場を離れ、森の中へ。
その間も、吹き荒れる暴風に乗った光弾がザクトを追う。
発生する様々なノイズで動物たちが散り散りに逃げていく。
「兄様ぁ? 逃げないでくださぁい!! 痛くしませんからぁぁぁ!!」
ハレッタは立ち位置を変えず、嵐のビートを継続する。
ルーラは言われた通り亀の中に籠もって、流れ弾のバチバチという轟音に耐えていた。
「さて……どうしよっかな」
素早く木の上に登っていたザクトは、暴風の影響少ない高さからハレッタを見下ろしていた。
「精霊を魔法攻撃するしかないけど……水属性の雪音では効果が落ちる。せめて風属性をプラスして、相殺で割り込むとして……」
刀身に手のひらを当て、魔法陣を発動。
キィンと澄んだ音がし、白銀の刀を包み込むように風の元素が集まっていく。
「そこですわ! ええ!!」
魔法の発動を感じ、上空を見上げたハレッタは、胸の魔法陣を強く輝かせる。
同期するガードゥナも同じく木の上を見据え、両手から竜巻のような魔法の奔流をゴォウと放つ。
そのあまりの勢いに雲が散らされ、パアッと陽の光が戦場を照らした。
「あわわわわ……ザクト様、吹き飛ばされちゃった!?」
「大丈夫……っと!」
ルーラの泣きそうな声に、着地した瞬間のザクトが答える。
トンッと靴音が鳴ると同時に、一閃、刀から放たれた斬撃波がガードゥナへと飛ぶ。
が、ハレッタはもうザクトに向き直り、ありったけの魔力を魔法陣へ注ぎ込んでいた。
「はあああああッ!!」
魔法陣が二重、三重、四重と重ねがけされ、キィーンと高周波音が鳴り響く。
ギャリッ!
力を増したガードゥナは、白刃取りの要領で斬撃波を受け止めた。
「もう、守られるだけの妹じゃないですわ!! わたくしが!! 兄様を守る!!」
ガードゥナが翼を強く羽ばたかせる。
シュガガガガッ!
ザクトの両脚に羽の弾丸が着弾。
錠前が施錠され、力が抜けたザクトの膝は地に着いた。




