006話『エルフ王の妹は、こじらせ中』
ザクトと同じ、透き通るような金髪を肩上で切りそろえた魔法使いらしき少女。
その耳は長く尖っており、エルフであろうことが見て取れる。
といってもその姿、スカートのカーテンのせいでルーラには見えていなかった。
「ひ~ん! ど、どなたがいらっしゃったんですか~?」
「ハレッタ……僕の妹だよ」
「そう……なんですか? 見えないんですけど~!」
ハレッタ・レインシスは、ザクトが生まれてから2年後、同じ母から処女受胎で生まれた。
男性がいなくなった一族にとって、ザクトほどではないが奇跡の存在として18年間大事に育てられてきた。
「兄様、あなたはエルフの王。人間の国を助けるために命を懸けるなど、あってはならないことです。ええ」
「聞いてたの? いくら妹でもプライバシーの侵害だよ……」
ハレッタが握る杖の宝玉が輝き、ふたりを拘束する魔法陣が二重三重に増えていく。
体つきはかなり細身で儚げだが、魔法使いとしては力があふれているように感じられた。
(ハレッタの魔法力、こんなに強くなってたのか。病弱だったあの子が……感慨深いなぁ)
逆さまに見えるハレッタと向かい合いながら、ザクトはしみじみ噛みしめる。
(まぁ、それでも、まだまだ兄としては破れる魔法かな)
と言っても魔法陣から抜け出すことはせず、ザクトはおだやかに話しかける。
「でも……こうして話を聞いちゃったら見捨てるわけにはいかなくない? 人がたくさん死ぬかもしれないんだよ」
「そもそも、そこの人間が話を聞かせたのが罪なのですわ。エルフ族の命運など考えることなく、自分たちの都合で責任を押しつけているのですよ。ええ」
あくまで冷静、淡々とした口調。
人間のことを信用しない本来のエルフらしい言葉。
その時、ようやく裏返ったスカートから顔を出したルーラは、ボロボロと大粒の涙をあふれさせた。
「そ、その通りですね……ごめんなさい! 私……全面的に間違ってました!」
「な、なぜ号泣しているんですか、あなたは?」
「ザクト様は……私と違い、大勢の方の未来を背負ってるんですもんね。私は……エルフ全体のことを考えられていませんでした!」
「ちょっ……素直か! あ、や、いえ……」
一瞬、口調が乱れ、ハレッタは慌てて口をつぐむ。
「ハレッタ様の言う通り、私は国を守ることしか考えてない。ザクト様なら救ってくれると……勝手に信じて押しつけて……」
ルーラは持ち上げたスカートでかろうじて下着を隠しながら、額と頭のてっぺんへ涙を伝わせる。
が、次の瞬間、隣でぶら下がるザクトにまっすぐな眼差しを向ける。
「ザクト様、コロコロと意見を変えるようで恐縮ですが……エルフのことを第一に考えてください! ケイト王国は二の次で!」
「きょ、極端だね!?」
「あなたはエルフ王……それが自然なことです! 人間側から見て『いいひと』である必要はないんです!」
(まぁ……元々は人間なんだけどね)
苦笑しながら、ザクトはルーラの想いを噛みしめた。
「ハレッタ。僕はね、王としてエルフの民を守りたいと思ってる」
「そ、そうでなくては困りますわ。すべてのエルフの命は、兄様の肩に掛かっているのです」
「でも……でもね、僕はやっぱり、その責任をずっと負うなんてイヤなんだ」
「なッ……?」
求めていない言葉に、ハレッタは眉根を寄せる。
「ふッ!!」
ザクトは腹筋トレーニングのように体を折り曲げ、魔力をまとった両手で足首の魔法陣を破壊。
水晶が破裂するような音。
と同時にハレッタの杖が『バンッ』と小爆発を起こす。
「きゃうッ!!」
「……っと!」
軽やかに着地したザクトはそのまま地を蹴り、倒れる寸前のハレッタの元へ跳ぶ。
受け止め、お姫様だっこ状態になると、ハレッタはカアッと頬を紅潮させた。
「に、兄様……ッ!」
「ごめんね、ダメな王で」
『ルーラよりだいーぶ軽いな』
余計なことを考えながら、ザクトは申し訳なさそうに微笑んだ。
「兄様は……わたくし達を見捨てるおつもりですか?」
「そんなことないってば」
「じゃあ、どうして!」
涙声で訴えるハレッタから視線を外し、ザクトは里の方角を見つめた。
「このまま人間たちから隠れ住んで……エルフはそれでいいのかな」
「そ、それは……」
「いつか次のステージへ行くために、今のままではダメだ。人間との関係性を変える……この話、受けるべきだよ」
これまで守られてきた一族の方針を変える重大な決定。
民への相談もなく進める現状を、簡単に飲み込めるはずはなかった。
「イヤッッッッッ!!」
ハレッタはザクトの腕の中から飛びのき、杖を構え向き直る。
その表情は、先程までのお姫様然としたものと違い、庶民的な駄々っこ妹がかんしゃくを起こす顔だった。
「理屈なんかどうでもいいのッ!! 兄様を危険な目には……遭わせないからぁぁぁぁぁッ!!」




