005話『世紀末な救世主伝説だね!』
「何度も言うけど、僕たちエルフは他種族と関わらないように生きてる。『エルフを利用しよう』って悪人がいる以上、基本、人間嫌いだと思った方がいい」
「それは……一部の人がすみません」
「『信用できる人もいる』のはわかってるけどね。それでも『悪い奴がひとりでもいるなら関わらない』というのが、エルフ側の共通認識。ごめんね」
「いえ、間違ってないと思います。悲しいですが……仕方ないです」
自分のことのように、罪を噛みしめるような表情のルーラ。
それでも、心の中で感謝の気持ちも噛みしめる。
(その上で、ザクト様は人間のことを信じようとしてくれるんだ。絶対に恩返ししなきゃ!)
純真で曇りのない善人。
それゆえに、重めな感情を秘めているのも確かだった。
「ま、エルフの中にも悪い女はいるかもだし。あんまり一方的に言うのもね」
人間側をフォローするように、ザクトは付け加えた。
「『いるかも』なんですね?」
「里にはいない、と思うよ。でも、世界にはまだ会ったことないエルフがいるだろうし」
「そう……なんですね。私、エルフ王様は全エルフのことを把握してるのかと」
「あはは、そんな特殊能力は無いよ。『エルフ王』なんて言ってるけど、それも僕の生まれた隠れ里の中での話だしね」
(っと……話しすぎてる? 久しぶりの人間、それも性格のいい子だから、つい……)
会話が途切れ、ルーラはあらためて小屋の中を見回した。
刀剣はもちろん、槍や斧、様々な武器が飾られたり立てかけられている。
「どれも立派なものですね。私、剣は素人ですが、見たことない曲線の剣……とても美しいです」
感嘆の溜息とともに発せられたルーラの言葉に、ザクトの耳がカアッと赤くなる。
「そ、そう? わかる? いやー、この子はこのラインがチャームポイントでね! こっちのこいつは、この中心の刃文が……」
舞い上がったザクトは、まるで倍速再生かのごとく早口になり解説を始めてしまう。
突然、専門外のオタク語りを受けたルーラは、必死について行こうと笑顔で相槌を打つ。
「ハッ……ご、ごめん! 褒められる機会なんてほとんどないから、嬉しくなっちゃって……つい」
「ふふっ……ザクト様、さっきの私みたいなこと言ってますね」
「あ……ははは。やっぱり誰しも、自分の中の何かを褒められたいものなんだろね」
我を忘れオタク語りするのを見られた恥ずかしさも加わり、ザクトの長い耳は一層赤くなった。
「我が子のように扱っておられるザクト様の気持ちが伝わってきて……より美しく思えます」
「うん、まさに我が子。生まれてきてくれてありがとう、なんだ」
「どれもどこか雰囲気が似ていて……特定の武器職人が作られたものなんですか?」
「えっ?」
「えっ?」
お互い不思議そうな顔で、一瞬、見つめ合う。
「あっ、違う違う! この子達は僕が打ったんだよ」
「えっ? ザクト様が……ひとりで!?」
(まぁ、パートナーの精霊もいるけど……それは伏せとくか)
「5年前から、この鍛冶小屋でやってるんだ。まぁ最初は……王の肩書きがしんどくなって引き籠もった感じだったけど」
「えっ?」
「あっ、いや……王として、みっちり集中して働いたあと、ちょっと趣味に打ち込もうかな~って」
「趣味……ですか」
そう聞いて、あらためて刀剣たちを見回す。
『趣味で打った』という作品群の完成度に、ルーラは少し怖くなった。
「あ、ちゃんと強くなるための刀鍛冶でもあるよ。僕、どんな強大な魔法も吸収することができる刀を目指してるんだ」
「魔法を吸収……そんなことが可能なんですね?」
「剣士の属性、特質、それにあった刀があれば、本来の魔法効果以上の力が出せるはずなんだ。まだまだ地道な研究が必要だけどね」
また話しすぎている気もするが、ザクトはもうルーラと話すのが気持ちよくなっていた。
「ザクト様って……現実的というか、説得力ある救世主様ですね。最初に想像していたのと全然違いました」
「それは……どういうのを想像してたの?」
「全身から常に魔力があふれ出る……魔法を帯びたパンチで何でも解決する……筋骨隆々のエルフ女王様ですかね」
「なかなか世紀末な救世主伝説だね!」
ツッコみつつ、ザクトは考える。
(戦闘力も大事だけど……その辺は、やってみないとだしな)
「んー……刀は1本でいいか。雪音なら、どんな事態にも対応しやすいはず」
「あの……ひとつ訊いてもいいですか?」
「ん?」
「『カタナ』というのは、エルフでの『剣』を指す言葉なんですか?」
「あ……えーと……」
なかなか他人と会話しないので、こういう細かい問題が起きてしまう。
「いや、これは僕が勝手に言ってるだけ。この作りの剣を『日本刀』って呼びたくて」
心の中で『日本刀』と書き、『カタナ』と言う。
もう誰にも理解してもらえないことだが、転生前の記憶をできるだけ大事にしたい朝香唯逸のささやかな遊び心だった。
「じゃ、行こっか。ケイト王国」
バンダナ調に頭の手ぬぐいを巻き直したザクトは、腰に差した刀を撫でながら言う。
「そ、そんな軽くていいんですか? 」
「敵が来るのは明日の朝なんでしょ? 偉い人に早く話をつけとかなきゃじゃない?」
「それは……そうですよね。わかりました、ありがとうございます!」
* *
ザクトとルーラが小屋を出て、一歩踏み出したその時だった。
ヴン!
空気の震える音が響き、ふたりの足下に鮮やかなエメラルドグリーンの魔法陣が現れた。
「わわわ!?」
「きゃあああああ!!」
その魔法陣がグルンと逆さまになり、浮き上がる。
それに足首まで吸い込まれた状態だったため、ふたりは空中で逆さ吊りになる。
ルーラのスカートは完全に裏返り、はしたなくも下半身が丸見え状態だった。
「この魔力……ま、まさか?」
「行かせるわけには……いきませんわ!」




