009話『七神剣』
「明朝、王都の正門と反対側の北門……こことここですね、2箇所に魔族が現れるとのことです。正門の方が上級魔族という予想で……」
王都の案内図を指差しながら説明するルーラの言葉に食い気味で、ハレッタはシャノンに問いかけた。
「シャノン、ケイト王国の防衛体制は?」
「あまり資源を持つ国ではなく、40年ほど大きな戦争もありませんので、防衛意識は低いでしょうね」
ケイトの民よりエルフの情報収集能力が信頼されている一幕に、ルーラは複雑な笑顔で聴き入る。
シャノンはただ淡々と情報を並べていたが、意識させない程度の間を空けて続ける。
「ですが……最近『七神剣の1本を手に入れた』という噂が」
シャノンのその言葉に、ザクトの眉がほんの少し動く。
が、誰が気付くほどの変化でもなく、すぐに何ごともないような顔で疑問を口にする。
「七神剣……って?」
「近年、恐るべき力を秘めた7本の剣が現れ、人間の裏社会に流れたそうです。その剣を手にした者は世界の勢力図を動かす……とか」
そのシャノンの言葉に、人間代表としてルーラも補足する。
「振るうだけで多大な魔力が必要とか……普通の剣とはだいぶ違うらしいですよ。神様がお作りになった剣……見てみたいですね」
「作ったのが神かどうかは不明ですが……剣に命を与える者【創剣神】と呼ばれ、多くの人間が追っているとのこと」
「…………へぇー」
ザクトは空を見上げ、七神剣なる武器を空想するような顔。
ふと、ルーラは先ほど見た小屋の中の光景を思い出す。
「といっても……ザクト様も独創的なすごい武器を作ってますもんね。もしかしたら、創剣神に引けを取らないんじゃないですか?」
「いやー、僕は趣味で打ってるだけだからね。世界を動かすなんて……そんな大それたこと」
ザクトが乾いた笑いを浮かべるのを、シャノンは冷たい横目で見ていた。
「今のところ表立ってその力が振るわれたわけではないですが、神剣を巡って国同士の争いが起こるのでは……と言われていますね」
「大きな力を戦争に使う……やはり、人間や魔族は愚かな方々ですね。ええ」
しばらく黙って聞いていたハレッタが、深い溜息混じりに言う。
「う……返す言葉もありません。私はそんなこと起こって欲しくないのですが……」
またも人間代表として、ルーラは頭を下げる。
ハレッタは相変わらず視線を合わせようとしないが、代わりにシャノンがルーラへ事務的な質問を投げかけた。
「とはいえ、ケイト王国はその神剣によって魔族を退けられるのでは?」
「ご迷惑かけずに済むなら、その方がよいのですが……。私が受けた神託ではそういった予定はなく、エルフ王様が救世主だと」
「まぁ……神様が僕を名指ししてるんだもんね。とにかく行ってみるしかないよ」
『仕方ない』というテイを守ってはいるが、ザクトの顔には確かにワクワクの色があった。
「ところで……兄様、その格好で行く気ですか?」
いよいよ出発という空気の中、ハレッタはザクトに確認した。
「え、ダメ? 動きやすくていいと思うけど」
確かに、戦闘するのだから、汚し放題な作務衣は理にかなっている。
が、これから向かうのは、人間社会の中でもかなりちゃんとした都会である。
「【唯一のエルフ男子】だとバレてはいけませんが、あなたは王なのですから……。シャノン!」
「は」
シャノンはザクトの肩をガシと掴んだ。
「ザクト様、一度小屋へ戻っていただきます。ささ」
「え、着替えるの? いいよー」
「兄様、駄々をこねないでください。シャノン、頼みましたよ」
ぶつくさ言いながらも、ザクトは小屋の中へ。
その場にはハレッタとルーラだけが残され、何とも言えない張り詰めた空気が漂う。
「あの……ハレッタ様、何度も話しかけてすみません。でも、どうしてもお礼が言いたくて……」
「……何がです? わたくしは、あなたたち人間など見捨てるよう言っていたのですわ。お礼を言われる筋合いはありません」
なかなかの辛辣な口ぶり。
だが、ハレッタが返事をしてくれたことで、ルーラの顔がパアッと明るくなる。
「いえ、あなたの言葉、胸に沁みました。相手のことを真に考えられていなかったこと、反省しています」
ルーラのおだやかな言葉を、ハレッタは顔を背けたまま聞いていた。
不機嫌そうに杖で地面をガリガリと弄っていたが、不意にルーラの方へ向き直る。
「あなた、おかしな人ですよ! わたくしは『他種族のことなど考えるな』と利己的な意見を言っているのに、それでは逆さまではないですか!」
「確かに……そうですね。でも、いいんです! 私にとって大切な気付きになりましたから」
まっすぐすぎる眼差しでそう言われ、ハレッタは苦虫噛みつぶし顔で結局また顔を背ける。
あらためて、ルーラは深く頭を下げた。
「お嫌いな【人間】のために……大切なお兄様を危険に晒して、本当にごめんなさい。私も、できる限りお守りしますので」
鳥の声と風の音だけの数十秒。
もう返事は無いかと思ったその時、ハレッタがボソッと呟いた。
「人間が、みな悪いわけでないことくらいわかっています。それでも……わたくし達は今まで通り、人間と関わらず生きていく。それは変わりませんわ」
「はい、それでいいと思います」
ルーラはその言葉にも、嬉しそうに微笑んだ。
明日は『エルフ王』の更新は、お休みします。
が、
『スーパー美人インフルエンサーなのに、冴えない俺の声にだけフニャるひよの先輩』
の新作(39話)をアップ予定です。
ジャンルは違いますが、こちらもどうかよろしくです!




