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076話『花を持たせるしかないよね』



「よし……ふたりとも、準備はいいかな?」



 目の前の鍛冶台に神剣【藍海(あいみ)】の刀身を載せ、ザクトは(女子なら、はしたない格好だが)大股開きでどっしりと構える。


 リーデンにとっては『男っぽく育てられたエルフ女子』、やり場に困った目をルーラに向けた。



「オレは大丈夫だが……ルーラはどーなんだ?」


「だ、だ、だいぼーじゅ……だ、だいじょぶです!」



 決心したルーラだが、その柔らかそうな身体はガチガチに固まっていて、とても大丈夫そうではない。



「えーと……あらためて確認するよ。刀身の各部、術法式を分離するポイントに僕が魔法陣を貼り付けていく。それをリーデンがハンマーで打つんだけど……その都度、ルーラはリーデンの腕に触れ、魔力を注入するんだ」


「は、はい。この法印に送ればいいんですよね。それで……リーデンさんは魔力をハンマーに込められる……」



 リーデンの腕には、ザクトが記した法詞(フレーズ)が光るタトゥーのように浮かんでいた。


 魔力を生成できない人間が魔法を使うための一時的な変換アダプターのようなもの。


 それ自体、もちろん人間界では一般的に実用化などされていない魔法であり、ルーラは自分が対応できるのか不安で仕方ないのだった。



(そもそも魔族(ヴィルゲン)が大がかりな計画でしていたようなことを、ディアム様の代替、術を解くための手段として、サラッと使われていることがおかしいと思うのですけど……)



 ルーラの戸惑いはもっともだ。


 ヴィルゲンなどはその魔法による『ガンドル+神剣』でエルフと相打ち、あわよくば勝つ可能性もあると考えていた。


 妻の命がかかった【神の蒼流】を守るため、ガンドルは自分の命力を使い果たしてでも戦うだろう、と。



「さっきまでのガンドルさんと違って、リーデンに負担はないからね。渡された魔力を力いっぱいハンマーで伝える感じで……」


「正確さとパワー……それに魔力。確かに、オレだけじゃどーにもならねーな。ルーラ、頼むぞ」


「は、はい、がんばります!」



 覚悟を決めたルーラの眼差しを確認し、ザクトはひとつ頷き、瞼(まぶた)を閉じた。



「ザクト・レインシスが理(ことわり)を示す! 火の素(エレメント)は指し示す術式の通り役割を変え、絡み合う悪しき理(ことわり)を穿(うが)つ楔(くさび)となる!」



 ザクトが法詞(フレーズ)を詠唱すると、あらかじめ火を熾(おこ)していた炉から手のひらへ火のエレメントが集まっていく。


 それを片手で魔法陣に成形していくが、普通の陣とは少し違い、独楽(コマ)のように浅い円錐型となっていた。



「ルーラ! 一発目、やってくれ!」


「はいっ!」



 ルーラの手のひらがリーデンの腕を包みこむように覆い、白い光が法印へ流れ込む。



「まずは……ここ! 角度も気をつけて!」


「おーよ!」



 ザクトが刀身に赤い魔法陣を載せると、リーデンはその中心にハンマーを振り下ろした。



 ギィンッ!!



 魔法同士の干渉音と金属音が混ざった音色は、リーデンにとっては新鮮だった。



(クソッ……思った以上に物理的な反動が来やがる! 魔法と鍛冶の融合……やっぱオレには手が届かねー技術か!?)



 リーデンの腕からハンマーへ、そして魔法陣へ。


 円錐型の魔法陣をじょうごのように使い、刀身へと流れ込んでいく。


 と、ひび割れるような音が刀身から鳴り、続いて『パン!』という乾いた音とともに楔の魔法陣が砕け散った。



「リーデン、イイ感じ! ルーラもその魔力量でちょうどいいよ!」



 ザクトはふたりの仕事を讃(たた)え、次の魔法陣を生成する。


 褒められて嬉しくないわけもなく、リーデンとルーラは顔を見合わせ頷く。



「リーデンさん、さすがですね! そんなの(ハンマー)、持ち上げるのも無理ですよ……」


「なに言ってんだ、アンタの魔力がねーと重(おめ)ーだけのガラクタだぞ。ほら、次だ次!」



 リーデンの腕にルーラの魔力が注入され、その頃にはザクトが次の魔法陣を刀身へ。


 若者たちが協力しあいスムーズな流れ作業をする光景を、傍らからガンドルは満足そうに眺めていた。



「いいものだな……。こういう鍛冶が主流になれば、俺も引退か」



 ボソッと呟いたガンドルの独り言に――



「エルフの技術は特別……そんな簡単に共有させませんから、心配せずともまだまだ働き続けるといいですよ」



 横になったままのシャノンが答えた。



「起きとったのか。フフ……冗談だ。人間は人間の範疇で技術を高めていくさ」


「ま……エルフ(ウチの)王は条件次第で人間と協力していくようなので、どうなるかわかりませんがね」


「それも含めて、若い者同士が決めていけばいいことだ。もちろん……それを利用するような悪い大人がいれば、遠慮なく叩くだけよ」



 年長者たちが語っている間にも、魔法の鍛冶は続き、心地よいリズムでキンキンと美しい音色を響かせる。


 そんな中、ザクトは少々ストレスも溜めていた。



(むむむ……なんか僕が一番地味っぽいけど、魔法陣の生成も分離ポイントの計算も大変すぎて……まったく余裕がないよ!)



 好きな鍛冶仕事ではあるが、さすがにクリエイティブな作業ではなく、神経をすり減らすような事務に近いポジション。


 だが、ハンマーを振るリーデンの真剣な顔を見ていると、そんな疲れも消えていくような気がした。



(ま……ここは『母を救うんだ!』って顔で主人公してるリーデンに花を持たせるしかないよね)



 主人公のはずのザクトだが、そんな役回りもなんとなく心地よく感じているようだった。


いつも読んでくださって、ありがとうございます!


ザクト・リーデン・ルーラの共同作業での鍛冶仕事でした。

どれくらい描写するべきか悩みながら書いてましたが、

なかなか好きな感じになってくれました。

感想など、ひとことでもいいので、よろしくお願いします!



さて、この『エルフ王は唯一むに!』ですが、そろそろ

更新を週2回にしようかと思います。

(【月・水】の予定です)


以前にも少し言ったのですが、新しい作品の構想のためですね。

ただでさえ、読み続けてくださる人が少ないのに、

その貴重な読者さんにもガッカリされてしまうかもしれませんが……

私自身がキャラクターみんな大好きなので、

なんとしても楽しんで続けていきたいと思っています。


ザクト達をまだまだ応援してくれたら、嬉しいです。

よろしくお願いします!

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