075話『やってやろーじゃねーか、です!』
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「ふーむ……確かに、僕の術法式に絡み合うような別の式があるね」
しばらくの間、誰も話しかけられないくらいの真剣さで、魔法陣を通し蒼い刀身を見つめていたザクト。
浮かび上がる法詞を色分けするようにタップしながら、ようやく口を開いた。
「何とかなるのか? 奴は『剣を作った本人なら』と言ったが、それも信用できるものなのか……」
騎士の装備開発に関わっているとはいえ、魔法が使えるわけでないガンドル。
どんな顔をしていいかわからず、不安げな表情でザクトを見つめる。
「難しい……けど、やれると思います」
「マジか? おふくろを助けられるかもしれねーのか?」
ザクトの言葉にリーデンが前のめりで近付く。
「ま、まぁ落ち着いて」
リーデンの熱に圧され、少し気まずそうな顔をするザクト。
「えーと……まず、この刀たちの作り方なんだけどね。配合した鉄を熱して叩き、さらに折りたたむ工程を繰り返し、数万の層になってて……」
「その厚みのねー剣身、そんな作り方してんのか? 筋肉バカの騎士どもが好むクソ頑丈な剣とやり合うと折れちまうんじゃねーかと思ってたが……その工程が強度を上げるのか?」
「んー、内部の不純物を外へ出したり、炭素量のムラが出にくくなることで粒子が細かくなり、粘り強く折れにくい鋼になる……とされてるね」
「それは……やっぱエルフ族の秘伝なのか? クソ……なんとか今すぐエルフに生まれ変われねーか!」
「リーデン、おちけつ……じゃない、落ち着け。鍛冶トークで盛り上がりたいのは僕も一緒だけど、今はそんな時じゃないでしょ?」
リーデンはハッと我に返り、自分の顔をパチンと平手で挟む。
そんな不器用な感じに触れ、ザクトの中でまた少しリーデンの好感度が上がっていた。
「とにかく……その折りたたむ工程で、僕はそこに魔法を練り込むことを試した。持ち主の魔法を留め、増幅する刀を目指して……」
「魔法を練り込む……か。騎士団でもそのような構想はあり、俺も開発チームに呼ばれたことはあるのだがな……」
「うん、確かに魔法使いでないと難しいところはあると思います。で……今回、魔法パートの打ち直しって感じなんだけど……」
腕組みの思案顔で、しばし沈黙。
そんなザクトに全員、祈るような強い眼差しで注目する。
「さっきも言ったけど……この作刀にはパートナー精霊、ディアムが必要不可欠なんだよね」
ザクトの言葉に、専門外ということで黙って聞いていたルーラが思わず口を開いた。
「今、不在じゃないですか……! どうしましょう、やっぱり先にハレッタ様救出……ということに?」
「いや……精霊じゃなくても、ここには魔法使いがいるよね? シャノンはそのまま安静だけど」
チラリと視線を送ったシャノンは、横になって眠っている。
本人が一番腹立たしいだろうが、プロの戦闘要員として『今は眠ることが最善』と判断できるのがシャノンらしさだ。
「え……わ、私ですか!? 私、鍛冶なんてまったくわからないですし、力もまるで無いですし……」
「ルーラだけじゃ難しいだろうね。でも、ここには鍛冶職人もいるわけだ」
あわあわするルーラから、ガンドル・リーデンへと視線を移す。
「そのルーラってのと親父……二人組で精霊1匹分ってことか」
「『ガンドルさん』とは言ってないよ。君だって、立派な鍛冶職人でしょ?」
「オ、オレより熟練の職人の方がいいに決まってんだろ? 失敗なんてできねーんだぞ」
ザクトの言葉に、睨むような視線で返すリーデン。
そんな息子の言葉を、父は鼻で笑った。
「俺は……その神剣に命力を吸われた絞りカスだぞ。そんなヨボヨボのジジイより自分の方がマシだと思わんのか?」
「いや、親父が『絞りカス』って見た目してねーから、そんなセリフ吐いてても説得力ねーんだよ!」
「情けない……。お前が一人前になるのを生きてるうちに見るのは無理か」
「ッ……クソが!」
リーデンは立ち上がり、今度はパンパンと二度、頬を平手で打った。
「やってやろーじゃねーか! あとで代われっつってもやらせねーからな!」
「フン……言われてから決めたくせに、息巻くんじゃないぞ」
「黙って見てろ! おふくろはオレが救ってやる……絶対に!」
リーデンの気合十分な顔に、ザクトは満足そうにひとつ頷く。
が、ルーラの方に視線を戻すと、さっきと変わらず泣きそうな顔でザクトを見つめていた。
「ルーラ……そんな情けない顔してないで」
「そ、そんなこと言われても……。魔法の中でも専門外ですし、私にそんな重要な仕事が務まるとは……」
すり切れて無くなってしまうんじゃないかと思うほどエプロンの端っこを指で弄りながら、弱音を吐くルーラ。
(女神に依り代として選ばれ……防御魔法も規格外。自分に自信がないだけで、ポテンシャルは底が見えない)
ギャップあるルーラのしょぼくれた顔を見ていて、ザクトはクスッと噴き出してしまう。
「わ、笑わないでくださいよぅ! 私は真剣にですね……」
「ルーラは……なんていう役割で僕に付いてきたんだっけ?」
「うっ…………ぜ、絶対服従メイド……です」
「よろしい」
ザクトはおどけた調子で答え、うなだれたルーラの頭をポンポンする。
「君の中には僕の刀、旭緋がいる。今、ルーラが一番適任なのは確かなんだよ」
「そ、そうですよね。こうなったら……私も『やってやろーじゃねーか』です!」
小さくファイティングポーズをとるルーラが可愛くて、ザクトは背伸びしてもう一度頭を撫でた。
(近い未来、王女として自分の国へ帰るだろうけど……この子のこと、もう少し見ていたいなぁ)
『【唯一のエルフ男子】【エルフ王】である自分の立場で、人間のルーラを恋愛対象として見ることはない』
ザクトの中では、すでにそれが無意識の認識になっていた。
いつも読んでくださって、ありがとうございます!
今度こそ、主人公組に戻ってまいりました。
リーデン、最初想定していたキャラとは少し違ってますが、
割とセリフは出てきやすくて楽しい人です。
ハレッタが続いてましたが、ルーラも楽しいですね~。
感想などなど、ひとことでもいいのでよろしくお願いします!




