073話『共感と思うな』
「アンタ、今は人間と組んでるけど……人間だろうがエルフだろうが、どうでもいいんでしょ? 一貫したこだわりも夢もなさそうなヤツが邪魔しないで!」
プリネラは連撃を打ちながら刀に魔力を送り込んでいるようで。
その紫の光が最高潮に達した時、スイッチを入れるように逆手持ちに切り替えた。
「アンタも! 神剣ごときがアタシに逆らうな!!」
アメジストのように美しい刀身に魔法陣が浮かび、刀全体が強く輝く。
と、その光が分裂し、さらに2本の刀が周囲に現れた。
「どう? もうこんなこともできるわよ。ほらほらほらほら!」
実体化した本物の刀身のように見える魔力の刃が、それぞれ自動でアーシュに斬りかかる。
3種の太刀筋を最少の動きで捌き続けるが、ひと太刀、褐色の腕をかすった。
(黒い……赤黒い血……?)
傷口から流れた血の色に、ハレッタは驚く。
が、紫の刃には毒の魔法がかかっているらしく、血の色が気にならなくなるほど傷全体が紫色に染まる。
アーシュは、わずかに不満そうな顔を見せた。
「こだわりも夢もなさそう……って心外だな。ぼくも、やりたいことがあって色々考えてるのに」
ギャリリッ!!
プリネラの斬撃を一旦すべて強く撥ねのける。
と、低く唸るような起動音がして、黒刃の腹に魔獣の口のような魔法陣が浮き上がる。
その魔法陣がさらに大きく開くと、不快なほどの高周波が湧き起こった。
「くっ…………チッ!」
舌打ちしたプリネラは眉間に深いしわを入れ、腰を落とし踏ん張るような姿勢をとる。
分身の紫刃2本が黒の太刀へ吸い寄せられるように飛来し、そのまま魔法陣の中へ消えた。
それは魔力だけに反応するブラックホールのようで、そのままプリネラの握る刀や本人からも魔力を吸い始める。
「ぼくの夢は……エルフになること。そのためには……エルフ王の血を飲まなきゃいけない」
アーシュの淡々とした問題発言に、ハレッタは目を見張った。
(エルフ王の……兄様の血を飲む、ですって?)
バッサリと斬られ、血を噴き出すザクトの姿を一瞬想像し、すぐさま首が抜けそうなほど左右に振る。
(そんなこと絶対させない! けど……『エルフになる』って何なの? そんなまじないみたいな謂れがあるの?)
ハレッタは頭の中でグルグルと真面目に考える。
が、プリネラはアーシュの夢をフフンと鼻で笑う。
「エルフになりたい? 出自に自信がない半端者は……不憫ね!」
吸い込まれるのに抗うだけのようなプリネラだったが、瞬間、フッと力を抜き、床を軽く蹴る。
磁石が引きつけられるように一瞬で距離を詰め、そのままブーツの爪先で黒の太刀を思いきり蹴り上げた。
ザンッ!
主人の手から離れた黒い刀は天井にぶっ刺さる。
「フン……ま、こんなとこよね」
プリネラはアーシュの喉元に鋭い爪を突きつけていた。
が、プリネラの胸の中心にもまた、アーシュのふた振り目の刀がそっと触れていた。
刀は、ひと振り目とは違う鮮やかなオレンジ色で、まるで夜から朝になったような変化だった。
「飽きたわ。アンタと闘るの、つまんないのよね」
「ひどい言われよう……ぼくはこのエルフと話したかっただけなのに、きみが勝手に割り込んできたのに……」
「あー、汗かいてキモワル。お風呂お風呂」
プリネラは完全に興味をなくしたようで、ハレッタに一瞥もなくサッサと部屋を出て行った。
「あの魔族……めちゃくちゃじゃないですか。知ってますけど……」
「まぁ、アレはアレで役割があるんだろうね。ぼくも仲間にするのは危険じゃないかと思うんだけど」
あんまりな異物に気を取られていたが、ハレッタはあらためてハッとする。
「じゃないですわ! あなたも、同じくらいかそれ以上に危険なんですから!」
杖もなく、そもそも魔力を封じられているハレッタ。
とにかく拳を握り、アーシュにファイティングポーズを見せる。
が、相変わらず感情の波が立つことはないアーシュは軽くジャンプし、天井に刺さった刀を回収した。
「エルフ王が……この剣を作ったんだよね?」
「やっぱり、それは七神剣……って、どうしてそのことを!?」
「プリネラに聞いたんだよ。フォルキルの記憶から辿ったって」
(魔族って、そんなことができるの? まずいわ……まずすぎる。兄様のために、わたくしが今できることは何? 考えなさい、私!)
ハレッタのジト目にらみをまったく気にすることなく、アーシュは両手の刀の状態を確認していた。
「【神の黒牙】【神の橙撃】。プリネラの【神の紫鳴】と……ヴィルゲンの【神の蒼流】。この国には、すでに七神剣のうち4本が集まっている。7本すべて揃ったら……この国は表立って他国への攻撃を開始するだろう」
「7本すべて? 何ですかそれ……揃わなければ動かない、と?」
「この国の人間は醜悪で面白いよ。野心はあるくせに臆病で、他人を支配したいくせに嫌われることを恐れる。周りの国へ工作員を送り込み、内側から国を貶めるようなことで国を分断する下準備をずっとやってるけど、その悪評も全部自分たちのことを投影したもの」
まったく『面白い』と思ってなさそうな顔で、アーシュは言う。
元々、人間に偏見のあるハレッタには、どちらにしても『だから何?』という話だった。
「国が違えば、頭の中身もまるで違う。それなのに、他の国は『同じ人間、わかり合える』って騙され……攻撃される理由まで捏造されてから乗っ取られる。一応、同じ人間同士でもそんなことできる奴らがいるんだ。種族が違えば……もっと別物に決まってるよね」
「……同感ですわ。わたくし達エルフは特に他種族を信用しませんし、エルフ王……兄様も、エルフの総意を前提に動いています。が……」
同意する言葉。
そこに、すぐさま『共感と思うな』とばかりに続ける。
「だからこそ今、別物として対等に取引しようとしているのがエルフ王ですわ。他種族を支配しようとする存在と一緒だと思わないでくださいます?」
人質の身とは思えない、堂々とした仁王立ち。
アーシュはほんの少し口角を上げ、初めて『ふっ』と音にして笑った。
いつも読んでくださって、ありがとうございます!
主人公と対になるような、話をまとめてくれるラスボスになりそうな感じを目指してみたアーシュ。
あまり複雑にならないよう……と思って、こんな感じになりました。
次回は、主人公カメラに戻ってくると思います。
よろしくお願いします!




