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072話『アーシュ・クロスター』



 と、そんな小騒ぎに合わせ、ガチャガチャとドアを解錠する音が鳴る。


 ハレッタは慌ててペンダントを胸の中にしまい、その開くドアを見つめ身構えた。



「ん……お目覚めのようだね、エルフのお姫様」



 部屋に入ってきたのは、褐色の肌の少年。


 背格好はザクトより少し高いくらいか。


 束ねてはいるが、伸ばしっぱなしのような長い髪は青みを帯びた銀色で、その瞳の色も深海を思わせるようなダークブルー。


 服のテイストは人間の貴族風だが、上下とも黒基調の見慣れない色合いだった。



「あなた……エルフ? いえ、そんなはずは……」



 ハレッタは一瞬、兄(ザクト)と雰囲気が似ていると思った自分を責めた。


 だが確かに、その少年の耳は長く尖っており、目の形にもどこかエルフの雰囲気があった。



「ぼくはきみとは違う存在。ま……人間から見れば同じような化物(もの)だね」



 感情の薄そうな作り笑い。


 ヴィルゲンのような醜悪さはないが、敵性勢力のうちであることは間違いない。



「ぼくはアーシュ・クロスター。この国で、人間たちに戦術・戦略を指導してる……まぁ、参謀ってやつのひとり」


「戦術・戦略……? 『この国』とは、どこのことです?」


「チェイグ王国。まだ表立ってはいないけど、裏で着々と他国の侵略を企んでる……人間たちにとっては混乱の時代への火種になる国だよ」



(チェイグ……ケイトの隣国ね。侵略……シャノンから可能性を聞いたことはあるけど、正しい情報だったということ?)



 知り得ていた情報と符合させつつ、簡単に情報を渡す者への疑念も沸き起こる。



「裏で着々と進めてきたのに……ペラペラ喋って大丈夫ですか? 『エルフだから』と思ってるのかもしれませんが、わたくし達が直近でケイト王国を救っていること、ご存じないかしら?」


「もちろん知ってるよ。フォルキルとパンデルの襲撃は、チェイグ(ぼくら)が誘発させたことだからね」


「なん……ですって?」



 淡々と、こともなげに言うアーシュに、ハレッタの心が泡立つ。


 そのまま弱々しい足取りでアーシュに近づくと、目の前で不満を爆発させた。



「わたくしも『人間のために危険を冒すなんて』と思っていましたし、偉そうなこと言えませんけどね……エルフ(わたくしたち)の命が危険に晒されたのも、結果的にあなた方のせいということですの?」


「結果的に……そうだね。予定とは違うけど、エルフとはいずれ接触したいと思っていたから……むしろ、僥倖(ぎょうこう)と言える」



 そんな感慨などなさそうな無表情のアーシュは、とりあえずポーズだけという感じで頷く。



「予定と違うことが起こるのは……楽しいよね。計画通りに全部うまく行くなら、生きていてもつまらない。だからって……自分を殺そうと思っても、それは自分で決めたことが実現するだけ……うーん……」



 奇妙な自問自答を繰り広げながら、アーシュはほんの少し首をひねった。


 そんな違和感しかない人物を前に、ハレッタは一歩後ずさってしまう。



(何ですの? この子……心がない? もう……男ってやっぱりヘンな人ばかりじゃない! 兄様以外!)



 一歩下がった足を前に出し直し、ハレッタはできる限りの怖い顔をする。



「わたくしに何かしたら……エルフの仲間があなたを殺します。こう言ったら、どうします?」


「ん……そう決まっているなら、それで死ぬのはつまらないな」


「ですよね? そんな決まった未来が来ないように、わたくしのことは丁重に扱ってくださいな!」



 胸を張って主張するハレッタに、アーシュは少しだけ目を見開いた。


 とはいえ、それは見て判断できるような差ではなく、ハレッタには何も変わっていないように見えた。



「きみ……面白いね。もっと、ぼくが予想しない言葉を言ってみてよ」


「あなた、自分で言ってることわかってますの? もう『予想しない言葉を言われる』ことを期待してるじゃないですか!」


「ん……確かにそうかも。難しいな……考えるのは楽しいけど」



 目の前の敵(アーシュ)に得体のしれない危険性は感じるが、常にどこかズレた会話が緊張感を鈍らせる。


 そんなハレッタを、突然アーシュの背後から現れた凶刃が襲いかかった。



「ひゃ……ッ!?」



 ギャリンッ!!



 ハレッタの目の前で、紫光を放つ短刀の突撃が停止する。


 止めたのは、アーシュが腰から抜いた漆黒の大太刀。



「きみ……どうして攻撃するの?」


「言ったわよね、さっき。フォルキル様が気になってるザクトって女(ヤツ)の妹だから、コイツ!」



 いきなり攻撃してきたプリネラは、斬撃を受けたアーシュに標的を変え、ジリジリと鍔迫り合いの音を響かせる。



「ん……攻撃の理由になってないんだけど。でも……そんなわけわからない行動が最高だよね、プリネラ(きみ)は」


「わけわかるでしょ! コイツ殺せば、ザクトの憎しみがアタシに向く! ザクトが執着するアタシを、フォルキル様は気になってしょうがなくなるのよ!」


「なるほど……わかるような、やっぱりわからないような」



 もはや『攻撃の対象は誰でもいい』とでもいうように、プリネラは紫刃を振り回す。


 ギャンギャンと室内で派手な音を立て、アーシュは最低限の動きでいなす。


 黒光りする刀身は峰の部分に櫛歯のようなギザギザの箇所があり、そこで刃砕き(ソードブレイク)を狙うような戦い方は、まるで刀に猛獣が宿っているようだった。



(プリネラ……兄様を騙し討ちしようとした魔族(やつ)! こんな早くまた会うことになるなんて……)



 性格も戦闘能力も普通ではなさそうなプリネラに、その攻撃を問題なく受ける正体不明のアーシュ。


 しかも、それを抱えた好戦的な侵略国家に囚われている事実を、ハレッタはあらためて実感する。



(いえ、それよりも! ふたりの武器、まさかですけど……)



 自然界の元素(エレメント)の流れを体現するような、日本刀特有の流麗な姿(シルエット)。


 いつも呆れながら見ている兄(ザクト)の趣味だが、ハレッタもその特徴はなんとなくわかるようになってしまっていた。



(七神剣……だったりします?)


いつも読んでくださって、ありがとうございます!

なかなか19時更新を続けられず、悔しい限り……。

PV落ちるのが怖くて、なんとか月水金を続けてますが余裕ないなぁ。力が足りない。

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