071話『囚われのお姫様なんですね』
* *
「ふふふ……久しぶり、藍海。いや、ほんと悪かったってば。僕だって寂しかったんだから!」
ガンドルの旧鍛冶小屋に移動してきた一行。
あらためて水の神剣【藍海】を掲げ談笑するザクトを、他の4人は不思議そうに見ていた。
「マジで……剣の声が聞こえてんのか? どんな風に聞こえるんだ?」
「えっ? あ……ヤ、ヤだなぁ、冗談だよ! みんなだって、大好きな剣と4年も離ればなれになったら、これくらいやるでしょ?」
リーデンの素朴な疑問に、ザクトは慌てて笑顔の否定。
しかし、それがむしろ真実味を増しているように見えた。
「ザクト様にとって、自分の打った刀は精霊同然……。ま、エルフの中でもこんな使い方する者はいませんが……ぐふっ!」
久しぶりに喋ったシャノンだが、すぐ脇腹を押さえてうずくまる。
「シャノン様! ほんと安静にしててください! 治癒魔法も応急処置なんですからね?」
肩を貸していたルーラが、泣きそうな顔でシャノンに追加の治癒魔法をかける。
「正直、『シャノンがやられた』って知った時は焦りましたよ。ガンドルさんがここまで強いとは……」
「う……重ね重ね、すまん。俺も必死だったんでな……」
立て続けに事件が起こり、ほぼスルーされていたが、ガンドルはザクト戦に向かう直前、シャノンを倒していた。
元々、何者かの尾行を予想していたガンドルは、神剣の能力である【眠りの霧】を散布。
急激な眠気に襲われ、堪らず足音を立てしまったシャノン。
そのクセモノを、ガンドルは何者か確認することもなく、丸太のように凝縮した水柱で横殴りにした。
「いや、あなたに謝られるとマジ困るんでね。こっちは戦闘要員……『鍛冶屋に倒されて、主人を守りに行けなかった』なんて、失業ものなんで」
「あはは……シャノン、珍しく本気で悔しがってるんじゃない?」
「は? 悔しくなんてないですー。自分の油断が招いたことなんで。自分が無能なだけなんで。悪いのは全部自分なんでー」
いかれたアバラを押さえながら、シャノンはむくれてそっぽを向く。
そんな横顔を、ザクトは心配そうに見つめていた。
(こういう風にふざけるの、いつものシャノンらしいけど……多分、今、本気で精神状態ヤバいはず。ハレッタのことを知った時、一瞬、見たことないような怖い顔になって……それから一切話してないもんね)
シャノンはエルフ隠密の中でも、ハレッタが生まれた時から影で守る専属SPのようなもの。
『ザクトと一緒』という安心感もあったのだろうが、最優先の仕事ができなかったことでシャノンは本気で焦っていた。
(『失業もの』ではなく『切腹もの』だがな。しかし、この命……無駄に捨てるわけにはいかん)
ザクトが隠密のコンセプトを指導した時、『切腹の心得』も冗談混じりに話していたのだが、シャノンの中にはしっかりサムライの心として刻まれていたらしい。
(ザクト様がこれだけ耐えているのだ……私もハレッタ様救出のため全力を尽くす。もしものことなど……考えるものか)
* *
その頃、囚われの姫はようやく意識を取り戻した。
「ん……はっ? わ、わたくし……」
上半身を起こし、辺りを見回す。
そこは薄暗い牢獄の中――などではなく、ケイト王城にいた頃と変わりない客室のふかふかベッドの上だった。
「ケイトのお城に帰ってきた……わけじゃないですね。調度品の意匠が違う……」
次に、自分の異変に気付く。
その手首・足首には、鎖こそついていないものの円筒形の拘束具が装着されていた。
「魔法封じ……ですね。魔力が上がらない……どころか……んッ!」
起こしていた上半身を再度ベッドに沈め、天井を見つめる。
(全身が怠い……命力そのものが制限されているみたい。わたくし……敵に捕まったのね)
枷の表面にはハレッタの知らない法詞が刻まれており、ぼんやりと淡い光を放っていた。
(そ、それよりも! 身体……見られたんでしょうか? 触られたんでしょうか?)
「兄様以外の男なんかに……絶対イヤですわ!」
「心配しなくても、脱がされたりはしてないぜ」
「きゃあッ!?」
至近距離から声が聞こえ、ハレッタは慌てて上半身を起こし直す。
「し~っ! 大きい声を出すな。俺だ、ディアムだ」
「ディアム? あ、もしかして……」
胸元の隙間を覗くと、ペンダントにはまった琥珀色の宝珠がキラリと輝く。
「兄様が……持たせてくれたんですね。雷撃を受けてから何があったかわからないですが……わたくしのせいであの後、危ない目に遭ったりしなかったでしょうか?」
「俺もちゃんと見たわけじゃないが……水中に閉じ込められてガンドルって奴と斬り合ったみたいだな。水の結界から出られず、お前を連れて行かれたって感じだ」
「うう……きっと兄様は自分を責めてますわ。わたくしがあんな簡単にやられたりしなければ……」
今後また自分を救うため兄が無理をするだろうと、ハレッタは落ち込む。
が、すぐに顔を上げ、うっとりした表情でゆるんだ笑みを浮かべた。
「わたくし、今、囚われのお姫様なんですね。今から騎士様が……いえ、エルフ王様が助けに来てくれる…………でゅふふ」
こぼれそうな唾液をすする音を聞き、ディアムは大きな溜息をつく。
「呑気なやつ……。引っかかりのないお前の胸で、なんとか落っこちずに耐えた俺がいるから救出作戦が立てられるんだからな」
「…………あ? 何か言いました? ディアムさん」
「いくらエルフが平均的に貧乳だからって、もうちょっと頑張って欲しいもんだ。これ、さらわれたのがルーラの方だったら、みっちり胸の谷間に挟み込まれてたんだろうな。あー、絶対そっちが良かったよなー」
ガンッ!
「いでえッ!」
ハレッタはペンダントを真上に放り投げると、器用にも手首の枷で宝珠を挟み込んだ。
いつも読んでくださって、ありがとうございます!
連休とかあると、目に見えてPVが減るようで、ほんと涙目ですが……
そんな中でも読み続けてくれているあなたがいてくれるお陰で続けております。
引き続き、よろしくお願いします!




