070話『ここにいます』
「エルフの者よ、聞いての通りだ。七神剣を求めて、ここまで辿り着いたのだろうが……俺はこの剣を手放す気はない」
ガンドルはよろけながらも、残る力を振り絞り剣を構えた。
「エルフ《おまえ》がいかに人智を超えた存在だろうと、絶対に渡さん! 妻のためだけではない、子供らのためにも、俺は命を懸けて……」
「待って待って! 奪いに来たわけじゃないし! エルフがどう思われてるかしらないけど……僕は敵じゃないつもりだし」
「だとしたら、もう関わらないでくれ! 俺はヤツに逆らえん……お前の妹を救う手助けができるはずもない!」
(ハレッタに辿り着くためには、当面ディアムが頼りだけど……ヴィルゲンと繋がるガンドルさんに協力してもらえたらベスト。そのためには、セリアさんの仮死状態を何とかしないとであって……でも、それにはヴィルゲンを抑えないと……あーもう! どうすりゃいいんだ!)
「あ、あの、ガンドルさん……ちょっと伺いたいんですが」
深刻な空気がただよう中、ルーラは恐る恐る問いかけた。
「この剣が『仮死状態を解く鍵』なんですよね? ここには魔法を使える方が……わ、私を含めて3人います。どうにかして、その鍵を使えるようにならないでしょうか?」
「そんなこと……無理だ! 魔法使いなら俺より理解してるだろうが、発動のために必要な元素配列の情報は、その術法式を組んだ者にしかわからない」
魔法を使えないとはいえ、騎士団に様々な装備を卸しているガンドルは魔法との兼ね合いを考慮して設計することも多い。
ヴィルゲンに従いたくはないが、魔族由来の魔法に人間が下手な手を加えて取り返しがつかなくなる可能性は絶対に避けたいのだ。
「しかも……この魔法は、元々の神剣が持つ魔法に掛け合わせるような方式をとっているらしい」
「元々の魔法に……掛け合わせる?」
それを聞いた瞬間、こんがらがっていたザクトの頭の中に、光る糸のような手がかりが見えたような気がした。
「奴はそう言っていた。そして……『剣を作った本人なら、魔法の構造を解析できるかもな』とも、笑いながら言っていた。創剣神……神が打った、とされている剣だぞ? ありえないことだと思い、バカにしおって!」
やりきれない気持ちで悲痛な声を上げるガンドルに、ザクトはなんだか申し訳ない気持ちになる。
なんとなく、怒られそうな気がして躊躇してしまうが、話を進めるためにもザクトは恐る恐る手を上げた。
「あのー……ここにいます、本人」
「……何の話だ?」
「その剣……いや、その刀は……本当の名を【朝香藍海】といいます。確かに、僕が打ったものだ」
「なん……だと……?」
ガンドルとリーデンは完全にハモって、呆気にとられた顔。
ルーラはどこか誇らしげな顔で頷き、シャノンは苦虫を噛みつぶしたような顔で溜息。
「私、そういう展開になるんじゃないかと思ってたんです! 奇跡的な巡り合わせ、ここに居るべき方が居て……よかったですね! まずはセリアさんを助けて……」
「ふざけるなッ!!」
「ひゃあんッ!?」
ガンドルの一喝に、ルーラは飛び上がった。
が、ザクトは予想していたようで、心の中では苦笑いだったが、それを顔に出さないよう必死で堪える。
「お前が創剣神……剣の神だと? サッサと話をまとめようと、大きく出たものだな」
「いや、僕は『創剣神』なんて一度も名乗ったことないですから!」
本当に気恥ずかしいようで、そこだけは力いっぱい否定する。
「4年前、確かに自分の打った7振りの剣を売り渡した。事情が……あったんです。でも、いつか買い戻そうと思ってたのに……知らないうちに神の剣扱いされて、めちゃくちゃ価値が上げられてるんだもん!」
思わず、子供っぽく不満をあらわにするザクト。
我が刀たちを取り戻したいが、現実的でない金額であったり、まっとうでないルートに渡っていたりする。
そのやりきれない感情表現は、確かに本心から出ているものだった。
「ふん……まだ会って間もないが、ザクトの剣に対する思いの強さは本物だと思う。が……七神剣を打った神だなんて言われちゃ、信じられないこっちの気持ちもわかって欲しいもんだぜ」
「そんなこと言われても……ほんとなんだから仕方ないし!」
リーデンはブツクサ注文をつけながらも、『信じるしかねーだろ』とでも言いそうな苦笑いを浮かべていた。
「鍛冶を始めてから最初の1年で生まれた7振り……僕にとっても特別な刀たち。でも、騙し盗られたわけじゃないし、今の持ち主が正規の取引で所有してるなら、こっちも正当な方法で入手していくしかない」
それは裏を返せば『汚い手口で悪人が所有しているなら、話は別』とでも言っているようだった。
「もし、現在の所有者がヴィルゲンで、奴の魔法を僕だけが解析できるなら……こちらに渡して欲しい。自分の刀が誰かを人質にする手伝いさせられてるなんて、耐えられないんだ!」
ザクトのまっすぐな視線に、ガンドルは圧倒されていた。
自分が今、握っている神剣【神の蒼流】 それを打ったと言う小さなエルフの少女(人間たちから見て)。
鍛冶職人にとっての神と言える存在が『自分の家族を救う』と言うのだ。
「本当に……あんたがこの剣を打ったんだな? 最初の一年で……」
「あ、いや……精霊の力も大きいんで、僕ひとりで打ったと思わないでください。エルフは……精霊との繋がりが大きいからね」
駆け引き下手な、場合によっては損になることも多い謙虚マインド。
それは元々の日本人らしい国民性だが、今この時はプラスに働いているようだった。
「いや……本当に、神なのかもしれんな。この剣を生んだ者が悪なはずがない」
「だ、だから、僕は神なんかじゃ……」
ブンブン手を振って否定するザクトに、ガンドルは頭を下げ、【神の蒼流】を横たえて差し出した。
「ザクト殿……だったか。剣を向けた私が頼める義理ではないが、妻を……リーデンとエリスの母を救ってくれ!」
「……ありがとう、ガンドルさん。全力でやってみるね」
いつも読んでくださって、ありがとうございます!
もう少しテンポよく行きたいところなんですが……
必要な説明をわかりやすく短めでまとめるのは難しいものですね。
感想など、ひとことでもいいので、よろしくお願いしまーす!




