068話『めちゃくちゃキレてたけどな』
「クソ親父が……どんだけ迷惑かけてんだよ!」
ルーラの治癒魔法を受けながら、リーデンは瞼を閉じ集中する。
魔法が使えないはずの彼でも、水の元素が剣身全体にまとわりついていく。
ザクトも何とか冷静さを取り戻し、呼応するように剣を握る手へ魔力を集中させる。
「行くぞ。3……2……1……せいッ!!」
ザクトとリーデンの剣が、水の壁を隔てて上下から交わる。
ギャリィッ!
水音とは程遠い、石を斬るような異音が響き渡り、そのあとパァンと巨大水風船の破裂音が続く。
大量の水とともに重力に引かれ、久々、ザクトの足が地に着く。
と、間髪入れず、ずぶ濡れの手でルーラの肩を掴み、揺さぶった。
「どっちの方向!? 早く!! 間に合わなくなる!!」
「す、すみません! わからない……ですっ!」
「わからない、じゃないよ! くッ……!」
当てもなく走り出そうとするザクトの腕を、リーデンが掴んだ。
「ひとりで行くな! 俺らも協力する。冷静になれ!」
「無理だよ!! 君はお姉さんがさらわれても冷静になれるの!?」
「無理でもやるんだよ! 何かヤツらを探知できるような魔法はねーのか? てめーらには精霊が付いてんだろーが!」
「ハッ……そ、そうだ、忘れてた!」
ザクトは腰から刀を抜き、刀身を眼前に掲げた。
そして、まるで一句詠むかのように、指先で法詞を書き記す。
と、刃から鈴の音のような澄んだ音がリィンと鳴り響いた。
「ディアム、応答して! ハレッタと一緒だよね!?」
『…………ああ。薄い胸の間に、なんとか引っかかってるよ』
その声を聞き、ザクトはようやくホッとした顔になり、地べたに尻餅をつく。
水の闘技場に囚われる寸前、ザクトは精霊ディアムの宿るペンダントをハレッタの服の隙間へ投げ込んでいたのだ。
『今は移動中……馬車に乗ったようだな。外に出られそうな機会があれば、位置を探ってみる』
ディアムの頭の中と直接会話しているような状態で、ザクトからの音声がペンダントの外に出ているわけでもないので、通信手段の確保として、まずはひと安心。
ディアム自身が宝珠から出るにはいくつか制限があり、ハレッタを連れ帰るほどの力はない。
まずは状況を知れるだけでも、御の字というところだった。
「ディアム、落っこちないようにしがみついててよ?」
『そんなこと言われても、引っかかってるだけだからな。保証できないっての……』
それだけ告げ、ディアムとの通信は一旦途絶えた。
が、ザクトはそれに焦ることもなく、すばやく刀を鞘に戻すと、顔の前でパンと手を合わせた。
「ルーラ、リーデン、ごめん! ちょっとキレそうになってたみたい。僕をキレそうにさせるとは……敵ながら大したもんだよ」
(いや、めちゃくちゃキレてたけどな)
会話にするのも面倒なので、リーデンは心の中でツッコんだ。
「い、いえ! 私が役立たずで……すみませんでした」
「ううん、ルーラもよくやってくれたよ。てゆか、ガンドルさんがやたら強いのが問題なのであり……」
そう言いかけて、またハッとする。
同じく水の闘技場から落ちてきたガンドルを気にかけ、振り返る。
のと同時に、ザクトは抜刀していた。
ギィンッ!
背後から斬りかかっていた袈裟斬りを、それしかないタイミングで受ける。
いつも通り、体格差を考えれば不自然な絵面。
だが、今この場面では、ガンドルがすでに力を使い果たしているという状態が先にあった。
「ガンドルさん……その刀を渡してください。命力を無理やり持ってかれて、もう立つのもやっとじゃないですか?」
「渡さん……この剣は、セリアのために必要なのだ!」
気力だけで鍔迫り合いするが、その刃に水の元素は宿っておらず、ザクトはそれに合わせ力を調節する。
「親父……マジでおかしくなっちまったのか? おふくろは死んだ! もういねーだろが!!」
リーデンは叫びながらガンドルの剣を打ち払い、ザクトから引き離す。
ザクトはひとまず刀を収め、この場は親子同士に任せる。
(でも、リーデンとエリスさんのお母さん……死んだって? そんな話、エリスさんは言ってなかったけど……)
体勢を崩し膝をつくガンドルに、リーデンは容赦なく切っ先を突きつけた。
「なんで魔族に手を貸した? 神剣の能力を複製する鍛冶仕事……いくらで受けたんだ!?」
ザクトも予想はしていたが、鍛冶面でも魔法面でも、どこか信じがたい技術だった。
(やっぱり【藍海】の複製だったんだ。この剣身に刀を挿入して、データを読み出す……みたいな? 魔族の魔法を組み合わせたとしても、繊細さと大胆さが必要な超ハイレベルな仕事。解説を聞いてみたい……)
経緯はどうあれ、ガンドルの鍛冶技術にリスペクトの念が湧いてしまうザクト。
(ハッ……いけないいけない。お母さんが亡くなってるってシリアスな話なのに、僕ってやつは……!)
話の邪魔にならないよう音を立てず頬をギュッとつねり、ザクトは自分を戒めた。
そんな目で見られているなどと想像すらしないガンドルはしばらく押し黙っていたが、あらためて息子の目を見据える。
「セリアは……まだ死んではいない! 目を開けるのだ! お前はそれを邪魔するというのか?」
「バカか? 魔族に襲われて、おふくろだけ馬車ごと谷底に落ちたんだろ? だから、亡骸もなく……」
「セリアの体は……あるのだ!」
「……は? どういうことだよ!?」
話が見えずイライラするリーデンの肩を、ザクトはポンポンと叩いた。
「リーデン、冷静に。話を聞いてみるしかないでしょ」
「う……確かに、俺も冷静になれてねーな。しょうがねー、わかったよ」
「僕たち、話が全然わからないから……母上の話、あらためて聞いてもいいかな」
「…………ああ、そうだな」
見守るつもりだったが、もう大きく関わっている身。
まだ人柄を理解するほど触れ合ってはないが、ザクトは『この家族を救う手伝いができたら』と本気で思い始めていた。
いつも読んでくださって、ありがとうございます!
親子のお話……ザクト達は父親がいないですが、人間時代のことを思い出して
懐かしく感じていることでしょう。
それよりも、鍛冶職人として気になりすぎてるかもですが……。




