067話『ブチキレるからあああああッ!!』
(くッ……邪魔するなよ! キレそうなんだけどッ!!)
咄嗟にニセ神剣で受けるが、水中でより実力を発揮する神の蒼流は鋭く重い一撃でそれを押し戻す。
周囲の水流に押し出されるような剣速で、そのまま二太刀三太刀と繰り出す。
ザクトの握るニセ神剣も水を操る能力があるが、『ハレッタの元へ』という気持ちが逸り、剣に集中できない。
「ザクト様ッ! わ、私がなんとかしないと……!」
そんな水の闘技場の下、固まって動けずにいたルーラがようやく震える脚で立ち上がった。
(戦いの補助……あの球体の中へ干渉するのは難しい。だったら、私にできることは? ハレッタ様を連れて行かれないようにすること……!)
ルーラはボソボソと法詞を詠唱し、それこそ対パンデル戦でやったようにヴィルゲン達の頭上に防壁の檻を発生させた。
彼らは『ザクトVSガンドル』観戦に集中していて、その罠に気付いていないように見える。
「えいっ!!」
ズズン――
ルーラのトレードマーク、重量級の巨大亀バリアがヴィルゲン達の空間を限定する。
中の様子は光の加減でよく見えないが、確かな手応えにルーラはひとつ頷いた。
(やった! あ、でも、さっきみたいに地面との隙間を狙われる? もっと重量を増やして……ッ!)
ビシッ
さらに魔法を重ねがけしようと気合を入れたルーラの視線の先で、籠もった衝撃音とともに光のドームに大きな亀裂が走った。
「あうッ!?」
再度、衝撃音が響き、ドームの横っ腹がガシャンと破裂する。
琥珀のような防壁の破片が飛び散り、自然の元素へと還っていく。
キラキラと星が降るような美しい演出だったが、その中心に立つのは、ハレッタを拐かそうとする憎むべき男が拳を突き出す姿だった。
その表情からは感情が感じられず、ただ任務を遂行する一兵士としか見えない。
「女、お前はただの人間だろ? コイツらは限界まで魔力を引き出された強化人間だ。エルフの精霊魔法でもなけりゃ破っちまうよ」
「そ、そんな……ッ!」
唯一の取り柄だったはずの魔法防壁を完全否定され、ルーラの心が折れてしまう。
(私……ハレッタ様を守れない? 恩返しするどころか……ザクト様、私はどうすれば?)
よろめくルーラの青い顔を見て、ヴィルゲンは右目を掻きながら、さも楽しそうに笑う。
「クククッ……悪いが、イイ栄養をいただいてるよ。お前は最悪な気分だろうが、その顔が俺にとっては最高の料理なんだから……しょうがないよなぁ?」
「ッ…………ハレッタ様を返してください!」
「おっ、少し持ち直したな。だが、お前は何もできない。せいぜい伝言係でもしてもらおうか」
精いっぱい気力を振り絞ったルーラを見て興味を失ったヴィルゲンは、頭をガリガリ掻きながら事務的な口調で続ける。
「こっちもエルフと全面戦争したくはない。人質はいつか返してやると、あのチビエルフに伝えろ。人質が大事なら、こちらの計画が形になるまで他言無用で大人しくしてるように……って、まぁ、その球の中で生き残れたらの話だがな」
ヴィルゲンはそう吐き捨て、あらためて水中リングを見上げる。
ザクトとガンドルは、いまだ水中で打ち合い続けていた。
水の神剣が持つ特性により、水中でもしばらく呼吸せずいられたが、ザクトはそんなことより隙あらば結界を破る斬撃を試している。
「ククク……焦ってる顔、イイねぇ。だが、あいつならそのうち結界を破るかもな……サッサと退散しよう。いいか、ちゃんと伝言係しろよ?」
「ま、待っ……!」
明るく辺りを照らしていた月光が、また雲に隠れていく。
ルーラが呼び止める声も空しく、ヴィルゲン達は闇へ溶けるように走り去った。
「バエガボゴボ!!」
視界の端で妹が連れ去られたことを感じ、ザクトは我慢できず水中で叫んだ。
ニセ神剣へ無意識に膨大な魔力が流れ込み、神剣と同じかそれ以上の輝きを放つ。
「ごばごぶっぶばべっぼ!!」
『渦龍撃』と言いたかったらしい。
ギュオオオオオッ!
法詞はどうあれ、魔法は発動。
剣から放たれた渦巻く魔力の塊がガンドルに向かって激突する。
「ぐはっ……ッ!」
瞬間的に神剣を圧倒。
ガンドルは回転しながら外壁まで飛ばされ、背中をしこたま打ち付けた。
ザクトはすぐさま反転し、魔力を再充填した剣で壁面をメッタ斬り。
(絶対にハレッタを失わない! 同じ処女受胎で生まれた、たったひとりの妹……僕の半身! あいつら、ハレッタに何かしたら……ブチキレるからあああああッ!!)
完全に理性を失い、メチャクチャに剣を振るう。
そんなザクトに、結界の外から呼びかける声があった。
「落ち着け、バカエルフ! コッチを見やがれ!!」
ザクトはハッとして声の方向を見た。
そこには、傷ついたシャノンに肩を貸し、ようやく辿り着いたリーデンがいた。
「シャノン様!? あわわ……す、すぐに治療を!」
「わ、私はあとでいいですから……彼を!」
慌てて駆け寄るルーラを制して、リーデンに治療を促す。
見れば、リーデン本人も傷を負っているようで、その足取りはフラついている。
「ザクト! 内と外から同時に、同じ箇所を全力斬りだ! 合わせろ!!」
「がぼ!?」
リーデンの手にはなぜか、またも新たなニセ神剣が握られていた。
いつも読んでくださって、ありがとうございます!
キレそうでキレないザクト君、キレる?
また次もよろしくお願いします!




