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066話『月光』



     *          *



「兄様! 大丈夫ですかっ?」


「ふたりとも、そのまま! 念のため、ちょっと離れてて」



 氷の手錠のような魔法で男を後ろ手に拘束し、ザクトは地上に降り立った。



「さて……顔を見せてもらうよ」



 刀を軽く振るうと、男の覆面が細切れになりハラハラと落ちる。


 下から出てきたのは、いかにも魔族という紫がかった肌色の顔。


 バサバサと無造作な赤い髪。


 その中に2本の曲角が確かにあった。


 大きな傷がついた開かない右目は、どの世界だろうと危険な界隈で生きてきたらしいことがわかる。



「ま、また魔族の方が? それも今度は領内に……?」


「あれだけ中に入れないよう必死だったのが馬鹿みたいじゃないですか。この国、どうなっているんです?」



 女子たちの不安そうな言葉を、男は鼻で笑う。



「どうなってるも何も……お前らが命を懸け守ったつもりの国は、とっくに敵が入り込んでたってこった」


「なッ……わたくし達がしたことが無駄だって言いたいんですか!?」


「無駄ではないさ。フォルキルのような政治ベタな者に荒らされては困るところだったからな。感謝してるよ、ククク」


「何ですってぇ!? 兄様! こんなムカつく小悪党、サッサとやっちゃいましょう!」


「……ふーむ」



(ムカつくけど、スパイがペラペラ喋ってくれるのはありがたい。とはいえ……そんな末端のザコが僕の刀のチカラを使えるって、やっぱガンドルさんの細工なのか?)



 男に注意を払いつつ、取り上げた剣をあらためて見つめる。



「ん? これって……」



 違和感を覚えたザクトは左目を閉じ、剣身を見つめた。



「藍海(あいみ)が……居ない!?」



 ザクトは確かに、ガンドルが持っていたこの剣に【神剣:神の蒼流】が入っているのを確認した。


 しかし、今、手にしている剣の内部にあるのは、液体金属のような銀色の何かだった。



(同じ形のものが2本あるの? なんで中身がないのに能力(チカラ)が使えるの? 中で溶けちゃった……なんてことないよね?)



 男に確認しようとしたその瞬間、ブレスレットが震え、付いている宝珠(いし)が赤く点滅する。



「シャノン? どうした?」


『やられ……ました…………神剣……気をつけ……ッ』


「シャノンッ!?」



 ザクトの背すじに感じたことのないような緊張感が走った。



(ガンドルさんと戦ったのか? シャノンが誰かに負けることは想定してなかった! どうする? まずハレッタとルーラを防壁(バリア)へ……)



 一瞬の迷い。


 それを待っていたかのように、隠れていた月の光が木々の隙間から照らした。


 魔族の男の影が不自然に伸び、ハレッタのすぐそばまで達する。


 と、その影から突然、実体化した男が飛び出した。



「えっ……!?」



 それは魔族ではなく、黒ずくめで長身の人間だった。


 間髪を入れず、男は手のひらに魔法陣を発生させ、呆気にとられているハレッタの下腹に雷気を炸裂させる。



「きゃううッ!!」


「ハレッタ!!」


「動くな! 増えることのない少数民族(エルフ)の命……減らされたくないだろ?」



 拘束されたままの魔族男が、もう偉そうに言う。


 気絶させたハレッタを肩に乗せた影の男は、すでにザクトから距離をとっていた。


 ザクトは手にしていた水の魔法剣を構えていたが、いくら思考してもハレッタ奪還の正解が浮かばずにいた。



「ッ…………ふぅ――……」



 沸騰しそうな頭を冷静にすべく、ザクトは荒い息で無理やり深呼吸した。



「あんたらの目的は……神剣、だよね? もう邪魔しないから……その子は返して」


「条件を出せる立場じゃないだろ? まず俺の拘束を解いてもらおうか」



 ハレッタから目を離すことなく、ザクトは魔族男の手首に浮かぶ魔法陣に触れ、氷の手錠を解除した。



「僕の方が条件を出す立場じゃないと思うだろうけど……その子に何かあったら、あんたらは命がないと思ってよ。自分でも……キレたら、どうなるかわからないから」



 ザクトの髪が月の光を浴び、ほんのり赤みを帯びていく。


 瞳の色もより赤く、燃えるような輝きを放つ。



「人質とられた方が脅迫してんじゃねえよ。目的とは違うが、エルフなんていくらでも利用価値あるからな。殺しはしない」


「……今は逃げられることだけで満足しときなよ。エルフすべてを敵に回すよ?」


「クク……俺の素性を教えてやるよ」



 魔族の男は恐れるような素振りもなく、ザクトに向き直る。



「俺の名は……ヴィルゲン。お前らにやられた死霊使いパンデルの息子さ」


「ッ……敵討ち? それなら、ちゃんと決闘で決めよ。トドメを刺したのは僕だから……」


「ククク……ヴァーカ! あのクソ親父にそんな義理立てしねえよ! フォルキルと同じく、倒してくれてありがたいと思ってるよ!」



 ヴィルゲンはカリカリと右目の傷を掻きながら、楽しそうに笑う。


 ザクトは引き続き、ハレッタを助けるムーブを脳内で演算し続ける。


 が、ヴィルゲンが影男の方へ軽く跳躍した瞬間、無意識に後を追うべく地を蹴った。


 その時――



 ゾブンッ!



「!?」



 空中にあったザクトの体をクリアブルーの球体が包む。



(『銀雪領域《シルバーアウト・ゾーン》』の水属性バージョン……本物の藍海(あいみ)!?)



 宙に浮かぶ巨大な水風船の中、いつの間にか、青に輝く刀を振り上げるガンドルがいた。


いつも読んでくださって、ありがとうございます!

偉い人の意向もあり、できるだけコミカルなノリをしてましたが、

迷うと進まないので、とりあえず、やりたいように展開していこうかと!

応援よろしくお願いします!

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