065話『銀雪領域』
* *
『デカ長、マルタイ動きました。どうぞ。ががっ』
ザクトのブレスレットが振動し、触れるとシャノンの囁き声が聞こえてくる。
「あはは……了解。こちらでも旧小屋に入るの確認したら、作戦開始するよ」
(昔の刑事の隠語、ネタのつもりで教えたことあったけど……シャノンってば、よく憶えてて、このタイミングで使ってくるなぁ。冗談でも、あまり前世の話はしない方がいいな)
シャノンは単独でガンドルの鍛冶屋を見張り、残りのザクト組は王都の外れの外れ、旧鍛冶小屋がある小さな森の中で待機していた。
念のため、警戒されているリーデンは寝たふりを継続し、ザクトだけでガンドルの作業現場を押さえる算段。
「ルーラは僕とあまり離れない方がいいから仕方ないけど、ハレちゃんをこんな夜遅くまで付き合わせることになるとはね」
「いつまでも子供扱いして……わたくしは大丈夫ですわ」
「ひとりにするのは心配だけど、王都内なら警備が付くし……今からでも宿へ戻っていいんだよ?」
「起きていられますったら!」
本気で過保護な兄に頬を膨らませる妹。
小声の小さな兄妹ゲンカを前に、ルーラは微笑ましそうに目を細めた。
が、その瞬間、ザクトはノーモーションで刀を抜き、ルーラのヘッドドレス越しに白い閃光を走らせた。
キンキンキンキンキンキンキンキン!
「ひゃわ!?」
ルーラの頭上でいくつもの金属音が弾け、周りの樹の幹に飛び散った短剣が突き刺さる。
「伏せて!」
ザクトはふたりの前に立ち、飛来する第2波に対応する。
(ガンドルさんに作業をさせてる何者か……ってことでいいのか? 外れとはいえ王都の領内で……)
「遅れてすみません! はいっ!」
ルーラがようやく3人を包む光の亀を展開し、ザクトは一旦手を止めた。
金属音が止まり、夜の静寂が戻ってくる。
と、攻撃の張本人がその静けさを破る。
「エルフ……貴様らがこの国を救った英雄気取りか?」
「え……?」
木々の隙間、枝の上に立つ覆面の男。
暗闇にも慣れていたし、ザクトの視力なら判別できる距離。
無意識に左目を閉じ、その覆面の下を見ようとした。
(ツノ……魔族? 王都内の警備はどうなってるんだ?)
魔力の消費を気にして、すぐに瞼を開く。
「ガンドルさんに何かさせてるのは、あんた? 魔族が……神剣を使ってケイト王国を内側から攻めようって?」
「……なぜ俺が魔族だと思う?」
「なんでだろうね。ツノを隠せてないからじゃない?」
動揺を狙った言葉だったが、覆面男は釣られることなく、ゆっくりと背負った剣に手をかけた。
「いきなりエルフ相手は想定していなかったが……やってみるか」
「え? その剣って……」
見覚えのある剣を掲げ、法詞の詠唱を開始する。
青く輝く魔法陣が剣身に染み込むように消えると、渦を巻くように水流が巻き起こる。
「ガンドルさんが持ってるんじゃ……!」
剣が振り上げられ、激流の竜巻がザクト達に向けてぶっ放される。
その波は防壁と地面の間に放射され、隙間から生き物のように侵入。
土色の濁りすらない澄んだ冷水が、一気に防壁内へ溜まっていく。
「はわ! ルーラ! 防壁を解いて!」
「ま、待ってください! 水の勢いで手元が……あぶぶ!」
「むむむ……やってくれるね!」
ザクトも刀に魔力を注ぎ込み、予約詠唱していた魔法を高速起動。
周囲の飛沫を凍らせながら、輝く銀煙をまとわせた氷の刃を縦一閃、振り上げた。
「ふッ!!」
初対面の時のようにルーラの防壁を真っ二つに割り、あふれ出る水の勢いで開いた出口から飛び出す。
と、その勢いのまま、樹上に向かって地を蹴った。
「せぇいッ!!」
「くッ!」
バチバチバチバチ!
ザクトの斬撃を受け止めた剣身から、雹の混じる水飛沫が噴き上がる。
氷結させられないため流水の防護壁を張り続けているのだが、その散弾がお互いの身体を打ち続ける。
「あだだだだ! その剣……どうやって手に入れたのか教えてくれないかな!?」
「ぐッ……お、教えるわけないだろッ!」
水流の勢いが瞬間的に増し、ザクトは吹き飛ばされるように空中へ放り出された。
が、すぐ隣の樹の枝に飛び移る。
「食らえ!!」
間髪を入れず、渦巻く水流がザクト目がけて放たれる。
それを確認するより早く、ザクトは足場を蹴り跳躍。
(この地に御座す精霊さん……僕の命力を認めてもらえたなら、ひと時、雪音に力をよろしく!)
詠唱でもなく、一瞬の祈り。
刀の切っ先から巨大な白の魔法陣が現れた。
「『銀雪領域』!!」
「!?」
ザクトが雪音用に術法式を組んでいた『銀雪領域』。
刀身から半径5mの空間を真っ白に染め、ザクトは白い球体の中に消えた。
目の前に迫っていた水流もその球体へ首を突っ込む形になり、空中で昇り竜の氷像のように凍り付く。
その氷竜を踏み台に、ザクトは空中で2段ジャンプ。
竜の出どころである男の目の前に降り立ち、白の空間の中、その首筋に刃を当てた。
「まいったすれば、陣を解くよ。意地張ってると……魔族でも凍えちゃうんじゃない?」
「…………まいった」
いつも読んでくださって、ありがとうございます!
スピード感持って行きたいんですが、楽しくなってつい遠回りしてる気もします。
テンポ良く行きたいところ!




