064話『守備範囲広すぎだろ』
(えええええ!? ハレちゃんに歳の近い友達ができてよかった、と思ったけど……そんなことになってるの? 兄様としても、主人としても、複雑なんですけど!)
ついばむような軽めのキスで、ハレッタはすぐに唇を離す。
が、ルーラは瞳をキツく閉じたまま、金縛りのように固まっていた。
「これは罰ですからね? 今後、メイドとしてこんな失態がないように注意深く生きなさい!」
「は、はい……はい? わ、わかりました!」
わけもわからずルーラが返事をしたその時――
ガンッ! ガンッ! ギリィッ!
小屋の中から、激しく鉄がぶつかる音が聞こえてくる。
「もしかして、まだお仕事中ですの? それで、なかなか出てこないのかしら」
「いや、これは鍛冶の音じゃ……」
バガンッ!
半開きになっていた入口の扉が勢いよく開け放たれ、リーデンが転がり出る。
「ッてーな……てめーが信用なくすようなことしてるくせに逆ギレしてんじゃねーよ!」
「信用なくしてるのはお前の方だろうが。部外者に家の話をペラペラ喋りやがって……」
続いて出てきたのは、いかにもガンコ職人という無精ひげ&ボサボサ頭の煤けたオヤジ。
だが、その肉体は戦闘用としか思えないほどよく鍛えられており、その手には両手持ちの大振りな剣が握られていた。
リーデンの方も抜剣しており、小屋の中で親子が剣を交えていたことがうかがえる。
(っていうか、それ以前に……『弱ってヨレヨレ』って話じゃなかったっけ? まさか、弱ってコレなの?)
ザクトが身震いしていると、ガンドルは来客たちの姿をようやく確認した。
「エルフが……人間の鍛治屋に何の用だ?」
「はじめまして! 僕、ザクトと言います。こっちがハレッタ、シャノン。あ、この子は人間のルーラです」
「エルフは話が通じんようだな。『何の用だ?』と言ったんだが」
「えと……エリスさんから、ガンドルさんの様子を見て欲しいと頼まれまして。体調が悪いってことで、この辺りの精霊が悪さをしてる可能性もあるんじゃないかと。あっ、エルフは精霊と関係が近くてですね……」
できるだけ笑顔で話そうとするザクトに切っ先を向け、ガンドルはドスの利いた声で続ける。
「体調が悪いように見えるか?」
「見えません!」
「よし、帰れ」
『取りつく島もない』という顔でガンドルは言い放つ。
そのまま彼が目線を切った瞬間から小屋のドアを閉めるまで、ザクトは左目を閉じ右目だけでその光景を見ていた。
「ん~……なるほどね」
「何が『ん~、なるほどね』だよ。てめー、まさかあんなオヤジの……いくら痴女とはいえ守備範囲広すぎだろ」
「わー! 違う違う違う! そんな能力の使い方はしてないから!」
リーデンの心底軽蔑した視線に、慌てて全力否定する。
と、ザクトは一瞬目眩を覚え、思わずよろめいた。
「ザクト様?」
すぐにシャノンがザクトの身体を支え、ルーラとハレッタもギョッとして続く。
「あはは……大丈夫、急激に魔力を使ったからフラついちゃった」
「透視能力って……魔法は魔法なんですね。そんなに燃費悪い感じですか」
「うん、気ままに使えるもんじゃないな。ほら、これじゃ、いかがわしい悪戯に使えないってわかるよね?」
「何も言ってないんですが……そんな必死に否定しなくていいですよ」
シャノンは相変わらずの無表情だが、まるで『そういう演技してるだけで、実は自由に女体見まくり天獄パーリィですか?』と言っているようだった。
「兄様、わかったのですね? あの人が何を隠しているのか……」
「まあね。エリスさんに話を聞いた時から予想はしてたんだけど、当たりだったみたい」
答えを言わず、ひとりその先を思案すべく腕を組むザクトに、リーデンがイラだつ。
「おい、もったいぶるなよ! 親父は……何を隠してるっつーんだ?」
「ガンドルさんが握ってたあの剣……リーデンは手伝ったの?」
「あ? あー、アレは親父がひとりで打ったヤツだ。何か新しいことやってる試作品だとか」
「アレは…………人間が【七神剣】と呼ぶうちの1本だね」
「……ハア!?」
クールなロートーンを保っていたリーデンの声がひっくり返った。
その反応から、彼も【七神剣】という存在をもちろん把握していることがわかる。
「おい……『趣味で鍛冶やってる』とか言って、通ぶるのはやめろよ? 【七神剣】ってのは【創剣神】が打ったとされるヤベー代物。オレたち鍛治屋のあこがれなんだ」
「ん……リーデン、詳しいの?」
「バッカてめー鍛治好きなら一度は興味持つもんだ。『神の紅炎・神の蒼流・神の黄震・神の緑荒・神の紫鳴・神の橙撃・神の黒牙』 それぞれ担当の色が溶け込んだ美しい鉄色は……どんな製法を用いているのか見当もつかねーって話よ」
興奮気味に七神剣の解説をするリーデン。
かなり熱はあるが、『オレも本物は見たことねーが』と小さく付け加える。
「それで行くと……【神の蒼流】になるか。あの剣の中に、確かにある。ルーラは何か感じなかった?」
「へ? い、いえ、何も……」
(そう……魔力も感じられなかった。透視能力のおかげで確認できたけど、もしかして神は、わかっててこの能力を?)
七神剣の呼び名を知らないのに、見ただけで判別できる違和感。
リーデンはザクトを訝しく思いながらも、それより好奇心を無意識に優先させる。
「剣の中に……剣が? まさか、神剣を芯に使ってるってのか?」
「そういうこと」
「それがマジだとしたら、親父のヤツ許せねーんだが。なんでそんなことを?」
「ただ隠すためか。それとも、魔法が使えない人間でも能力を使えるように……とか?」
「魔法の能力を剣身に宿すとはいえ、持ってかれる魔力が半端じゃなく並の人間じゃ制御できないらしいじゃねーか。それを無理やり制御するなんて……まさかフーディス魔鋼?」
「リーデンもそう思う? 本当だとしたら、そんな幻の素材をどんなルートで……」
女子陣ほったらかしで話が盛り上がる鍛冶男子ふたり。
呆れるハレッタたちの中、ルーラはそんな男子たちを見ていて無意識に――
(夢中になって話すおふたり、なんだか微笑ましい。好きな玩具のことで気が合って、すぐ長年の友達みたいになるような。男の子同士って……いいなぁ)
本人も気付いてなどないが、ほんの少し腐女子の気持ちを独学で会得しそうな瞬間だった。
いつも読んでくださって、ありがとうございます!
自分が面白いと思うことをポンポン無差別にやっちゃってますが、合わないことがあったらごめんなさい!
主人公をもっと立てないといけないんですが、どのキャラも楽しくなって困ったものです笑。




