061話『一番重要かもしれないスキル』
「悪かったな、下品で。エルフのお姫様なのかしらねーが、こっちはクソ庶民のクソガキなもんでね」
「クッ……失礼しますわ!」
プンスコと音がしそうなハレッタがテーブルを移動すると、シャノンがそれに続く。
苦笑いが引きつり笑いに変わっていくザクトの横に、大量の料理が乗ったトレイを持つルーラが帰ってきた。
「ハレッタ様……どうしたんですか?」
「あはは……まぁ、僕たちエルフは女しかいないからね。男の人に慣れてないのはしょうがないよ」
「ああ、なるほど。そういえば私たちって、男性に慣れてない人しかいないパーティなんですね」
ルーラはまずハレッタ組のテーブルへ近づき、料理の乗った皿と飲み物を配膳する。
そのまま、いそいそとザクトの隣に腰を下ろし、瞼を閉じた。
その瞬間、腹部から『ゴゴゴゴゴ』と、地の底から魔王でも出てきそうな音が鳴り響く。
「あはは……遠慮せずドンドン食べてね」
「ううっ……すみませぇん」
ペコッと頭を下げ、テリッテリに焼き目のついた鶏肉やチーズをパンで挟んだホットサンドのような料理を頬張る。
「んん~~~っ❤」
見ている方までとろけそうになる幸せいっぱいの満足顔。
まるで治癒魔法を受けたかのように、ザクトの心はほんわり癒されていた。
「そうか……エルフってことは、てめーも女なんだよな。男の子みてーな口振りして」
「あ、まぁ、僕はそういう風に育てられたんだ……あはは」
リーデンにあらためて言われ、ザクトはヒヤッとする。
(ちゃんと女子っぽくした方がいいのかなぁ。人間……ってか、男子との会話が新鮮で、楽しくなっちゃってる)
庶民の味を楽しみながら、ザクトは王都へ来た経緯をざっくりと話し出す。
ルーラの神託により、ケイト王国の危機を救うために王都へ来たこと――
王様や騎士団は『自力防衛を優先する』ということで、最初エルフは信用されなかったこと――
色々あって最後は協力し合い、死霊使いパンデルと上級魔族フォルキルを討伐したこと――
「ふーん、そんなヤベー事件だったのか。ま、知らなかったのはマジなんでな」
「それって……騎士団を信用してることでもあるのかな?」
「それもある。騎士は市民を守る仕事を精いっぱいやってるだろうし、それでダメなら仕方ねーってことだ」
「あはは、肝が据わってるね。でも……死んじゃったら、仕事もできなくなっちゃうんだよ?」
「そりゃ、そうならねーようにしっかりやって欲しいがな。それでも滅ぼされるんなら……最期の時まで鉄を打つだけだ」
リーデンは腰の金槌に手を添え、しみじみと呟く。
カッコつけるわけでなく本心の言葉だったので、リーデンは急に恥ずかしくなっていた。
「なんでオレ、こんなこと言ってんだ? てめー、何か精神魔法とか使って言わせたんじゃ……」
「かっ…………かぁっこいい!!」
「は?」
人間だからこそなのか、若いくせに『鍛冶しかない』と言いきるその潔さ。
年下の頑固職人の言葉に、ザクトは本気で感動していた。
「実は、僕も趣味で鍛冶をやってるんだ。でも、独学なもんで……」
「鍛冶が趣味だぁ? 遊び半分でやってんのと一緒にすんな!」
「そうだよね……僕は鍛冶が好きで真剣にやってるつもりだけど、リーデンみたいに鍛冶ひと筋の人には、そう言われても仕方ないもん。すごいなぁ……かっこいいなぁ!」
ザクトのキラキラ輝く瞳が、リーデンを尊敬の念MAXで見つめる。
リーデンは引っ込みがつかなくなり、誤魔化すように大きな音を立てながらジョッキを置いた。
「な、何なんだよてめーは……やりにきーな!」
「リーデンさん、ザクト様は本気でふよ。あなはわ認めないかもしれまへんが……ふぉの方は本当に鍛冶が好きなんでふ」
ルーラが、マッシュポテトをモリモリ頬張りながら言う。
清楚そうな美少女が台無しなのだが、ザクトはリーデンにうっとりしており、ツッコミ不在の状況だった。
「鍛冶が好きな女なんて怪しすぎるし……簡単には信じられねー。けど、姉ちゃんが認めてんなら……しょーがねー、話はしてやるよ」
「ありがとう! じゃ早速! どこの鉱石を使っ……」
「兄様! 違うでしょっ!!」
たまらず、隣のテーブルからハレッタのツッコミが入る。
「話が進まないのですから、鍛冶の話で盛り上がらないでください!」
「ハッ……そ、そうだったね。じゃ、リーデン、本題だけど……」
あらためて、リーデン本人から父・鍛冶職人ガンドルの異変について聞く。
尾行し、旧・鍛冶小屋へ入っていく父親を確認したが、青い霧で何も見えず、外で待っていたものの、いつの間にか眠っていた、ということだった。
「なるほど……ただ見えなくするためだけでなく、眠りを誘う効果があるのかもね。なんらかの魔法である可能性は高いか」
「目覚めたら、小屋の中は誰もいなくて……。でも家に帰ると、親父はオレの後に帰ってくるんだ。ただ、眠らされたオレが無事ってことは……親父は完全に操られてるとかじゃねーと思ってる」
「確かに、ガンドルさんに付いてる何者かは、嗅ぎつけてきた人間を口封じするか。ガンドルさん自身が借り物の魔法を使ってるか、見逃してくれるように頼み込んだか……」
真剣に考え込むザクトの顔を見て、リーデンは呆れたように溜息をつき、考えをまとめる。
(親身になる仕草は芝居に見えねーが……エルフの裏の顔なんてわかんねーし。だが、怪しいところがないのに疑い続けるわけにもいかねーな)
どんな意地っ張りでもなんとなーく心を開かせてしまう、少年らしい人なつっこさ。
特別なスキルがいくつもあるザクトだが、一番目立たないのに一番重要かもしれないスキルがこれだ。
そうして、今回も話がまとまりそうなその時、神妙にしていたルーラが嬉しそうに言う。
「おふたりって……そのうち種族を越えて信頼し合う相棒同士になって、色んな事件を解決していきそうですね! 女性に人気が出そう!」
「は? なに言ってんだてめー……んなわけねーだろ? 気持ちわりーこと言ってんじゃねーよ」
速攻でイラついた顔になるリーデンに、ルーラはビクッと背筋を伸ばす。
「す、すみません! なんだか、突然そんな物語を妄想してしまって……んぐッ!」
口に入っていた食べ物を一気に飲み込んでしまい、ルーラの顔色がサアッと青くなる。
「ちょっ……何か飲んで飲んで!」
「ぅう……ッ!」
ルーラは目を白黒させながら、慌てて近くにあったジョッキを掴み、琥珀色の液体を喉の奥へと流し込んだ。
「あ、てめー! それオレの……」
「…………ひっく!」
リーデンの水割りを完全に飲み干し、ルーラはガクンと糸が切れた人形のように崩れ落ちる。
「え……いきなり寝た? ルーラ? おーい……」
「う…………ぅう~……」
ルーラは俯いたまま、ビクンビクンと肩を震わせていた。
かと思えば――その豊満な胸から突然、赤みを帯びた光が噴き出し、ルーラの全身を包む。
「な、何事!? 酔っ払って……何か覚醒した!?」
そんな能力があったら、ヒロインとしてあるまじきイメージダウンかもしれない。
いつも読んでくださって、ありがとうございます!
無駄は省いていきたいと常に意識してるつもりなんですが……
会話だけのシーンがなかなか終わらないですね汗。
自分で面白い・必要だと思うものと、読者様が見たいものを
合致させるということは、どれだけやっても難しいものです……。
もっと楽しくなるようにがんばりたいところ!




