060話『やってやるぜ?』
「君がリーデンだね? 僕、ザクトっていうんだけど……」
「何だ? てめーら……エルフか?」
いきなり友好的とは言えないしかめっ面で、リーデンは睨みつける。
ザクトはその眼光に押されないよう、あらためて子供らしい笑顔をアピールする。
「うん、まぁ、エルフなんだけど。エルフって、どう思う?」
「どう……って、別にどうもねーな。そこらの一般人と変わらねーよ」
(あれ? 何だろう、こんな邪険に扱われてるのに……気持ちいいな?)
ザクトが不思議な感触に戸惑う中、ハレッタが我慢できずリーデンに詰め寄った。
「今朝あった魔族襲撃の話、知ってるでしょう? エルフと騎士団が協力して、この国を守った……」
「知らねーな」
「ハァ!?」
「朝から今まで、ずっと仕事してたんでな。そこらの客が話題にしてたかもしんねーが、他人の話をそんな集中して聞いてねーよ」
ハレッタが二の句を継げずにいると、リーデンは憎まれ口の追撃をかける。
「何だ? わざわざ声かけてきて、感謝して欲しいのか?」
「強要するために話しかけたわけじゃないですわ! 感謝はして欲しいですけどね!」
どんどん燃料を投下されヒートアップするハレッタをなだめつつ、ザクトはあらためてリーデンに向き直る。
「エルフだけじゃなく、騎士団にも守ってもらったのは事実なわけでしょ。市民として、当たり前だとは思わない方がいいんじゃない?」
「騎士も俺も、それぞれ自分の仕事がある。感謝してねーわけじゃねーが、お互いやるべき仕事をやるのは当たり前でいいんだよ」
「あー言えばこー言いますね! それなら、わたくし達エルフが今回受けたのは決められた仕事ではありませんわ。どうですか!?」
屁理屈バトルに張り合う物言いで、ハレッタはビシッと指を差す。
リーデンはしばらくその指先を見つめていたが――
「ふん……オレが仕事し続けられるのは、あんたらのお陰ってか。ま、ありがとよ」
「それが本当に感謝してる人の態度ですかッ!!」
「感謝しろっつーから礼言ったのによ……エルフってのは気むずかしいな」
「むぎゅ~~~ッ!! ジードといい、この人といい……人間の男って、こんなのばっかりですの!? 聞いていた通り、野蛮で最低な人たちですわ! ええ!」
またまたハレッタをクールダウンさせるべく、シャノンとルーラが後衛ラインに引っ張っていく。
ザクトは笑顔が苦笑いになりながらも、とにかく本題へと入っていく。
「僕たち、君のお姉さん……エリスに言われて来たんだ」
「姉ちゃんに? どういうことだ?」
「お父さんのことで相談されてね。エルフの僕たちに……ってことで」
エリスに託されたメモを見せると、リーデンは自分の肖像画を目にし、ひとつ溜息をついた。
「これは……オレの顔だな。確かに、この幼児みてーな絵は姉ちゃんの絵だ」
(さすが姉弟……この絵を見て、何が描いてあるか判るっぽい。こんな所で家族の絆が見れるとはね)
ザクトは心の中で『あはは』と笑う。
「姉ちゃん……なんでこんな奴らに話したんだよ。いいか? オレはお前らに頼ろうなんて一切……」
「うんうん、話は食事しながらでいいかな。僕たちおなか減ってて……ルーラ、注文してきてくれる?」
「おまかせくらさい!!」
目が据わり、口元に涎がキラリ光るルーラが、まるでケイト騎士のごとく胸に拳をドンと当て、足早に店内へ消えた。
「あれ? 今のって……ルーラだよね?」
自分で言ってておかしな言葉に、シャノンが応える。
「あの娘……さっきから度々ヘンでしたよ。ボーッとしてたかと思えば、見えない何かを掴んで口に入れようと……」
「あんま喋ってないと思ったら……そこまで深刻なハラヘリ姫だったの!?」
(何か乗り移ってるような……刀を預けたことで、どっかおかしくなった?)
「ザクト様、我が里の財政は大丈夫でしょうか? いずれルーラにすべて飲み込まれるのでは……」
「シャノン……めちゃシリアスな顔で言わないで?」
(僕の魔力で命を繋いだ責任があるし、何より『預かる』って決めたんだ。何があってもフォローするつもりだけど……)
そわそわしながら店内を気にしていると、リーデンはイラついたようにテーブルを指でトントン小突く。
「おい、話しかけといてほったらかすな! おちょくってんのか?」
「あ、ごめんごめん! いやー、突然やって来て信用できないよね。でも、お姉さんに頼まれたのは事実だから」
テーブルの空いた席に、エルフ達はみな遠慮なく腰掛けた。
それをギラついた眼差しで睨み、リーデンは剣の柄を握る。
「姉はオレと違ってお人よしだからな。姉ちゃんを騙してきたなら……たとえエルフだろーが、やってやるぜ?」
そんな一触即発なガンつけを物ともせず、ザクトはニコニコ笑顔を向けてくる。
「鍛冶屋なのに、剣術もかなりやりそうだね! さっきの人も強そうだったのに……」
「な、何なんだてめーは? さっきの……ああ、あんな奴なんでもねーよ。ただのよくあるケンカだ」
ザクトの『久しぶりに同年代の男子と喋ってる!』という純粋な『圧』にリーデンは戸惑う。
「身体はデケーが、ヤツも鍛冶屋だからな。別に強くねーよ。ウチの仕事にケチつけて、騎士団に取り入ろうとしてるケチな男だ」
「確かに、そんなこと言ってたね。お父さん……ガンドルさんだっけ。『ヨレヨレ』とか言われてたけど……体調悪いの?」
「……ああ。最近ずっとフラフラしてっから、商売敵の奴らは『仕事でミスが出るはず』とか言ってきやがる。クソが……ウチはそんなクソみてーな仕事はしねーんだよ」
険悪なムードを醸し出していたはずが、うっかり普通に会話させられているリーデン。
その順調な会談の中、ハレッタが立ち上がり、可愛らしい怒声で一時中断させる。
「わたくし、こんな下品な人と一緒に食事なんてできません! ええ!」
いつも読んでくださって、ありがとうございます!
ちょっと会話シーンが続いてますが、新キャラ君を楽しんでもらえたら
ありがたい限り……。
よろしくお願いします!




