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059話『仕事で勝負しろや』



「では……この酒場へ行ってみてください。王城の食堂とは違う、庶民の味を楽しめると思いますよ」



 エリスはエプロンの懐からメモを取り出し、ザクトに手渡す。


 そこには王城から酒場までの簡単な地図、ふざけたような落描きのキャラクター、そして、走り書きのメッセージがあった。


 その内容は『リーデン、エルフの救世主様にちゃんとお願いしてね』というもの。



「この時間、仕事が終わった弟が店にいるはずです。私は仕事があるので行けませんが、その似顔絵で大体わかると思いますから」


「えっ? これ、もしかして似顔絵なの?」


「す、すみません……あまり絵心なくて。特徴は揃ってますので、実際に見比べたらわかると思います」



 あらためて落描きを見直すが、絵心の問題ではなく、ガシガシと線の描き込みが何重にも交差し、ゲジゲジから進化した魔物(モンスター)にしか見えない。


 かろうじて『前髪がセンター分けらしいこと』と『バンダナを巻いているらしいこと』が頼みの綱だった。



「これ、少ないですが食事代です。弟が失礼するかもしれませんので……先に謝罪させていただきます。申し訳ございません」


「いや、予約謝罪、早すぎない!?」



(頑固職人の息子……どんな偏屈者なんだろ。まだ若いだろうし、今度こそ男友達になれるような人ならいいんだけどな……)



 女ばかりの中で育ち、男友達などいなかったザクト。


 ようやく言葉を交わした男が『プライド高々騎士ジード』や『ザクトに殺されたい、と迫る戦闘狂の魔族フォルキル』など。


 ザクトの中で、どんどん『男友達への憧れ』が大きくなっていた。



「まぁ、お金は……パーティメンバーひとり増えて食費がなかなかだと思うし、ありがたく貰っときますね」


「ザ、ザクト様っ! 私、自分の分は自分で出しますから!」


「あはは、ごめん、冗談だよ。ってゆか……僕はルーラの大食いキャラ面白いと思ってるからね? いっぱい食べてくれないとヤだよ?」


「うう~……複雑ですぅ~!」



 真っ赤な顔で泣きそうになるルーラを弄りつつ、ザクトは『青い霧』のことを考えていた。



(決めつけるのは早いけど……一応、頭の片隅には置いとこう。ルーラの『感じる』も気になるし)



     *          *



「兄様、わたくしは反対しましたからね?」



 王城から出て、落描きのような地図を頼りに、ザクト一行(いっこう)は酒場を目指す。



「わ、わかってるってば。なんなら、ハレちゃんは先に里へ帰っててもいいんだよ?」


「すっかり忘れてるようですけど……元々『エルフ王をひとりで行かせるわけにはいかない』で、わたくしとシャノンが付いてるんですよ!?」


「あはは……そうでした」



(とはいえ……これからずっとハレッタを連れて旅するのもなぁ。今朝だって、僕が離れて危ない場面があったわけだし……)



 思案顔で王都の街並みを歩いていると、すれ違う王都民は救世主エルフ団を見て、誰もが振り返り噂話をしていた。


 感謝はあるが、やはり『強大な力で魔族を倒した別の種族』。


 『敵ではない』くらいに変わってきてはいたが、畏怖の念というものはむしろ大きくなっている者さえいるようだった。



(ま……命を懸けたといっても、すぐにウェルカムってわけじゃないか。なんなら『エルフは不死』ってことで、命を懸けたとも思われてなかったりして……)



 ガラガラガッシャーン!



「ほえっ!?」



 考え事をしながら、いつのまにか辿り着いていた目的地。


 その酒場のテラス席から転がり出た大男は、ザクトの足下でクラクラする頭をかかえ唸る。



「ザクト様、下がって!」


「わあ!? シャノン、バカッ!」



 突然ザクトの前に現れた男の喉元へ、シャノンの鎌が迫る。



 キンッ!



 ザクトは瞬間的に抜刀し、シャノンの刃(やいば)を弾く。


 大男が何も気付かないまま1ターンの攻防があったが、時はそのまま予定通り流れてゆく。



「シャノン……僕も気を付けてるから! 問題起こさないでよ?」


「……御――意」



 大男はようやくハッとするような顔になり、元いたであろうテラス席を睨みつけた。



「リーデンてめえ! 逆ギレしてんじゃねえぞ!」



 その目線の先、テラス席でいかにもなタルジョッキを呷(あお)っていたリーデンは、それをテーブルにドンと叩きつけた。



「テメーの風評でウチが迷惑してんだ。正当な『キレ』だろーが」


「てめえんトコが手抜き仕事したから騎士団の装備の質が落ちてんだよ! 現にてめえの親父はヨレヨレで手元もおぼつかねえだろが!」


「……ウチは手抜きなんかしねーっつってんだろ。鍛冶の腕で勝てね-からって、ニセ情報で評判落とそうとか……姑息なクソヤローが」


「か、勝ってると思ってんじゃねえぞ! 鍛冶の腕でも、てめえの親父はもう終わりだよ!」



 大男はテラス席に戻り、リーデンに殴りかかる。


 比較すれば身体も大きいわけでないリーデンは、鞘(さや)に入れたままの剣を握り、待ち受ける。


 かと思えば、男のパンチに剣の腹を絶妙な角度で合わせ、軽くいなした。



「おわッ!?」



 体勢を崩す男。


 そのスネとアゴに、気付けないほどのスピードで鞘(さや)の先がノックする。


 またもや騒音とともに転げ倒れる男に、リーデンは腰にぶら下げていた金槌を取り、指し示した。



「テメーも鍛冶屋なら、仕事で勝負しろや。いや……オレは勝負なんてしてるつもりねーがな」


「ぐッ……クソがッ!」



 ひとこと吐き捨て、格好のつかない男は小走りで退散する。


 リーデンは何もなかったかのように座り直し、またジョッキに口をつけた。



「真ん中分けにバンダナ……いえ、そんなのどうでもいいくらい名前呼ばれてましたし。あの人がリーデンなんですよね? 近寄りたくないのですけど!」



 ハレッタは嫌悪感MAXという顔で後ずさる。



「あはは……まあまあ。話を聞いてる分には相手が悪いヤツみたいだし、こっちがまともなら大丈夫でしょ」



 ザクトはそう言いつつ、少し引きつった笑みを浮かべ、やさぐれた顔のリーデンに声をかけた。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます!

ザクトは男友達を求めてるんですが……なかなかまともな男子キャラが出てきません。

今度こそ、男友達ができるでしょうか……?

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