058話『ぐきゅうぅぅぅっ』
「あ、あ、あ、あの! エプロンを差し上げたから、というわけではないのですが、皆様にお願いしたいことが……」
ルーラの衣装で盛り上がっているその時、エリスが恐る恐る声を上げた。
「ほら……やっぱり何か裏がありましたわ」
ハレッタの遠慮ない溜息に、エリスはビクッと肩を震わせる。
「わざわざエルフにお願いだなんて、人間同士で相談できない裏社会の面倒ごととかでは?」
「す、す、す、すみません! 裏社会のことではない……と思いますが『人間同士で相談できないこと』と言われると……はい……」
エリスは長く垂れたもみあげを指で弄りながら、モゴモゴと口ごもる。
「あはは……ハレちゃん、お手柔らかにね。エリスさん、話を聞かせてくれる? 僕たちができることなら考えるよ」
「あ、ありがとうございます!」
もはや諦め気味のハレッタとシャノンを含め、全員を一度テーブルに着かせると、エリスは人数分の紅茶を用意する。
ふくれっ面だったハレッタだが、質のいい紅茶に満足し、まもなく安らかな笑顔になっていた。
「聞いていただきたい話というのは……父のことなんです」
みなが落ち着いてきたのを見計らい、エリスは唇を開く。
「父は弟とともに、この王都の外れで鍛冶職人をしているのですが……」
「鍛冶職人!」
突然、ザクトがすごい勢いで立ち上がり、全員がビクッと身構えた。
「専門は武器? 防具? どこの鉱石使ってるかわかる? やっぱケイトなら……アラゴナ山かな?」
「ザクト様、どうどう」
瞬間的にオタクモードになったザクトをシャノンが諫める。
「あ、あはは……ごめんごめん。いやー、僕も好きで鍛冶やってるもんで」
「そうなんですか? 父ガンドルの剣は、騎士団でも採用されていて……身内自慢ながら腕利きの職人なんです。自分にも他人にも厳しい求道者で……弟のリーデンは、毎日怒鳴られながら仕事を手伝ってます」
「そうなんだ! すごいなぁ……僕も師匠的な存在はいるけど、本物の職人に毎日教わってるなんて、弟さんは幸せ者だよね!」
キラキラと目を輝かせるザクトの顔を見て、エリスは嬉しそうに目を細める。
「そうですね……リーデンは厳しい父にいつも文句を言ってますが、そんな師を越えようと精を出しています」
(エリスさん……いい笑顔。お父さんと弟さんが大好きなんだな。お母さんの話が出ないのは……訊かない方がいいよね)
そんないい空気の中、ハレッタは人間嫌い代表として唇を尖らせる。
「それで……わたくし達に何を相談したいと?」
「最近、その父の様子がおかしいらしいのです。夜、リーデンが寝たあと、家を出ていくそうで……一度、後を追ったところ、今は使われていない古い鍛冶小屋に行っていたと」
「別におかしくないんじゃないの? 一流の職人さんだもん、誰にも見せない新技術の研究とか……」
「リーデンもそう思い、『秘密を見てやろう』と中を覗いたらしいのですが……青く光る霧のようなものが立ち込めていて何も見えず、鍛冶の音だけが聞こえていたそうです」
「青く光る霧……何かの魔法かな?」
「父は魔法なんて使えませんし、その上、どんどん身体も弱っているらしく……何かよくないことに巻き込まれているのではないかと……」
エリスは胸を押さえ、悲痛な面持ちで声を絞り出す。
邪魔しないように聞いていたルーラが、思わず声を上げた。
「お父様ご本人には確認していないんですか?」
「問い詰めたそうですが……『知らん』の一点張りで。リーデンは『悪い奴らと関わってるんじゃないか』と疑いを強めていて……今はほとんど会話もないそうなんです」
「それで……国に知られたらお父様が捕まってしまうかも、ということですか」
エリスは沈んだ表情でコクンとひとつ頷く。
そんな顔を見ていると、ザクトはまた妹が病に倒れた時のことを思い出す。
(今の僕は父ちゃんいないけど……家族を想う気持ちはみんな一緒だよね)
ザクトの反応を見て、エリスはあらためてハッキリと願いを示す。
「今日、エルフの民が人間を守ってくれたと聞き、あなた達なら何とかしてくれるかも……そう思いました。都合のいいお願いだと思いますが……」
「誤解があるようですね。わたくし達エルフは何でもかんでも人を助ける聖人……いえ、聖エルフじゃありませんわ!」
ハレッタは返す刀でキッパリと告げた。
なんだかんだルーラのことを助けた彼女だが、『人間に関わりすぎるべきでない』というのも本心だった。
「確かに、わたくし達は魔族と戦い、あなた達を守ってあげました。でも、今回は別にわたくし達でなくてもいい話でしょう。信頼できる仲間はいませんの?」
「父は気むずかしい人ですし、弟も人付き合いはよくなく……正直言って、周りの人に好かれていないのです」
「そんなの、ご自分たちの問題でしょう? そもそも『悪い人たちと関わっているかも』というのも、ただの予想ですし……」
そうやってハレッタが必死に抵抗しているというのに、ザクトは笑顔で割って入る。
「まぁ……一度見に行ってみよっか」
「兄様! あなたは鍛冶仕事が見たいだけでは!?」
「そ、そんなことないよ。まだハッキリは言えないけど……なんとなく気になるんだよね」
フワフワとお気楽な調子で言うザクトに温度差を感じ、ハレッタは眉間を指で押さえる。
それに追い打ちをかけるように、さらにフワフワ系なルーラがザクトに続く。
「私も……なんとなく、感じます。ザクト様の感覚が共有されているんでしょうか? 胸の中で何か……」
ルーラが瞼を閉じ、そっと胸に手を当てたその時――
ぐきゅうぅぅぅっ
「はわ……ッ!」
ルーラの腹部から『早ク 食イ物 ヨコセ!』と、子供ドラゴンが喚く声が聞こえてきた。
「あはは……調査のついでってわけじゃないけど、とりあえずゴハン行こっか」
「ううう……す、すみませぇん!」
いつも読んでくださってる皆様、ありがとうございます!
あとがきでこんなこと言うのはアレかもなんですが……
最近、ポイントが伸びないどころか減ってることが多い気がして、
普通に凹んでます笑。
読んでくれた人の期待と違う……ということはあると思いますが、
『ブックマーク外すほど』というのは、よっぽどですよねぇ。
読んでくださってる方でも、何か期待する展開などあれば、
ひと言でも構わないので、教えてくださいね。
ある程度、プロットを組んでいるところで変更していくのは
難しいこともあるかもですが、なるべく応えていけたら……と思ってます。




