055話『形から入るタイプ』
「エルフというのは……そんなに無欲なものなのか? これは皮肉ではなく……やはり人間とは違い、神に近い精神性ということだろうか」
「え? あ、えと……」
(神剣の価値がどの程度かわからないけど、そりゃ国を救ったんだから、一族のためにもうちょっと賜りたいですよ? でも、そんな風に言われたら、なんとも言いづら……)
「ウチのエルフ王が特別お人よしなだけですわ、ええ!」
根っこにある遠慮がち日本人スタイルを発揮するザクトの隣から、ハレッタが強気な眼差しを上げた。
「わたくし達は命がけでケイト王国を救いました。その価値は、昨日『必要ない』と仰っていた王様こそが一番理解しているはずですわ」
「フフ……ハレッタ殿のキッパリ物言う気質はすがすがしいな。言われずとも、相応の褒美を用意していたよ」
王が合図すると、台車にかけられていた幕が取り除かれ、隠れていた金貨や貴金属が光を放つ。
見たことがないタイプの煌びやかな宝飾類に、いつもジト目気味なハレッタの瞼が『4分の3開眼』くらいになった。
「救国に見合う褒美のつもりだったが、我々人間の貨幣などはエルフにとって無価値か? 何か希望があれば、申してみよ」
「いえ、この機会に言っておきたいんですが……我々エルフは、とある筋から貴国の商品を購入しています。ので、ありがたく頂戴したい」
「ほう、我が国の生産品を求めてくれているとは嬉しいな」
「正規の販路ではないので『この機会に』と言いました。そういうわけですので……可能なら、正式に貿易の契約についてなど話させてもらえたらありがたいのですが」
エルフ王として、グッと現実的な希望を投げかける。
ケイト王は、どこか会話が楽しくなっているのを押し殺し、厳しい眼差しをザクトへ向けた。
「ふむ、それは褒美とは別……国家間の大事な案件だな。わかった、検討しよう」
「ありがとうございます! もちろん、国民全体に受け入れられるとは思いませんが、まずは少しずつってことで……」
思っていた以上に会談が上手くいっており、ザクトは心の中でガッツポーズする。
(20年もビクビクしてたけど、案ずるより産むが易しじゃないか。まぁ……里の女たちの反発はあるだろうから、これから説得なんだけど)
「噂では……エルフの隠れ里に独自の文化が築かれ、かなりの進歩を遂げているとか。エルフ王たるザクト殿の手腕かな?」
その言葉を聞き、ザクトは一瞬返事に詰まる。
「いえいえ……王都の街並みからすれば、ただの田舎町ですよ」
「魔法と科学を融合させ、日常生活の利便性を極限まで高める……すべての者が精霊魔法を使うエルフでこそか。民を預かる指導者として、一度見学させてもらいたいものだ」
(うーん……里の情報なんて知られるはずないんだけど。どこまで情報があるんだろ?)
「とにかく、僕自身は人間と友好的でありたい。ケイト王の理解があるなら、願ってもないことです」
「それは、こちらこそだ。『自国の戦力で国を守れなかった』と民に知らせたくはないが……『エルフの王が救ってくれた』と周知させよう」
「いや、あまり有名になりたくない身なので……『エルフ王』というのは伏せてください。魔族の討伐も、騎士団と協力して成されたってことで」
「そうか……すまぬな」
ケイト王は申し訳なさそうに眉根を寄せ、それでもどこかホッとしたような顔。
「平和に甘え、考えているつもりで防衛力を軽んじていたようだ。より気を引き締め、国防を考えていきたいと思う」
それを聞き、ザクトもあらためてホッとする。
が、今一度、気合を入れ直し唇を開く。
「さらにもうひとつだけ……お願いしてもいいでしょうか?」
「お人よしということだったが、ザクト殿もなかなかどうしてやり手だな。何が希望か?」
「宮廷巫女……ルーラを引き抜きたいと思ってます」
ここで自分の話題が出ると思っていなかったルーラがビクッと身体を震わせる。
「なるほど……彼女は優秀な巫女だったが、我々はその能力を見抜くことができなかった。ルーラ、お前の力を真に信じてやれず、すまなかったな」
「も、もったいないお言葉です! 誰ひとり犠牲も出さず終わったのですから……私は何の不満もございません」
「そうだな……ルーラの市民登録は残したままにしておこう。この国を訪れたとき、何かと便利であろう。それでよいな?」
「は、はい!」
ルーラは頭を下げ、2年間過ごしたもうひとつの故郷に感謝する。
少し寂しさもあったが、すでに心は『エルフ王の役に立つ』という意志でいっぱいだった。
(王様おふたりから『優秀』だと言われて……こんな見た目パッとしない私をザクト様は大事に想ってくれて。もっともっと頑張って……認めてもらわないと!)
* *
「ふぅ……なんとか終わったね。どう? エルフ王として、いい会談ができたんじゃない?」
廊下に出るなり大きく伸びをしたザクトは、満面の笑みでハレッタに同意を求める。
「里のみんなに相談もなく結構な情報を開示して……帰ったら王として大変ですよ、ええ」
「さ、さーて、これからどうしよっか? すぐに里に戻るのもね……まだ身体も休めたいし」
「ザクト様のせいで、エルフのことが広く知られ、尾行する何者かがいるかもしれませんしね。慎重に行動してくださいよ」
「ううっ……ハレちゃんもシャノンも、僕に厳しくない?」
ちっとも褒めてもらえず、ザクトはしょぼくれて肩を落とす。
そんな中、黙っていたルーラが唇を開いた。
「ザクト様! 私……ひとつだけ、わがままを言いたいのですが!」
「おっと……ルーラもそんなこと言ってくれるようになったんだ? 何?」
一大決心という表情のルーラに、みんなの注目が集まる。
その真剣さに、ハレッタはハッとしてしまう。
(この感じ……まさかこの子、『私を抱いてください!』とでも言い出すんじゃ?)
脳内でお見せできない妄想がグルグル再生され、勝手に頬を紅潮させるハレッタ。
たっぷり間を取ったルーラが、とうとう言葉を紡いだ。
「私……メイドっぽいエプロンが欲しいです!」
「…………へ?」
意外と、形から入るタイプだった。
更新、だいぶ遅い時間になってすみません!
内容もちょっと地味な会話が続いてましたが……
今後ともどうかよろしくです!




