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056話『ガラガラガッシャン』



「もう……ルーラったら、まぎらわしい空気を作らないで! 告白でもするのかと思ったじゃない!」


「告白……ですか? 2年間の記憶だけですが、話しにくいことなどないかと。知りたいことがあったら、何でも訊いてください」


「『何でも』って言いました? じゃ、あなた……男性経験ってあるんですか?」


「ハレちゃん、なに言ってんの!?!?」



 ハレッタの暴走に、ザクトは咄嗟のシンプルツッコミ。


 とにかく雑でも最速で処理することを優先した。


 そんな焦るザクトに驚きつつ、ルーラは首を傾げる。



「男性経験……ですか? そんなの、まったくないですが」


「答えなくていいからぁ――――ッ!」



 大声で邪魔しようとするザクトに再度驚きながら、ルーラはとりあえず命令通り口を押さえる。


 どうも、勘違いして答えているようだが、ザクトはもちろん確認し直すつもりはない。



「ルーラさん、『男性経験』というのはですね……」


「シャノン! 君もそんなの語れる立場じゃないんじゃない!?」



(こんな時だけ喋りだす、いつものシャノンに戻ってて……戦闘シーンからのギャップで安心感すら感じてしまうことが腹立たしい!)



「えーと……メイド用のエプロンを買うって話だったね。一度街に出て、雑貨屋にでも……」



「……話は聞かせていただきました」


「!?」



 突然、廊下の行く先、曲がり角から女の声が聞こえてきて、シャノンとザクトが武器に手をかけた。


 曲がり角から顔を見せたのは、何の変哲もないただのメイドだった。



「まったく気配を感知できなかった……。ザクト様、下がってください」



 シャノンが鎖鎌を構えると、メイドは目にも留まらぬ速さで――



「あ、あ、あ、怪しい者ではございません……た、た、た、ただのメイドです」



 膝をつき、両手を上げ、降参のポーズをとっていた。



「それだけの暗殺適性、『怪しい者ではない』が通るわけないでしょう。何者ですか?」


「エ、エ、エ、エリスと申します。この王城で働くメイドでして……この通り、証明書もございます」



 エリスと名乗る女はエプロンの懐から小さなパスケースを取り出し、シャノンに差し出す。


 シャノンは警戒しつつ、その書面を確認する。


 が――



「本物かどうか、私たちでは判りかねますね。やっぱ、やっちまいますか」


「あわ、わ、わ、わ! ま、待ってください……本当にただのメイドなんです!」



 シャノンの(やいば)を首元に感じながら、エリスはさらに手を高く上げた。



「そのただのメイドが……どうして気配を消して近づいたの?」


「そ、そ、そ、そんなつもりは……。私、影が薄くて、普段から気付かれないんです」



 『暗殺適性』とまで言われたそのスキルは、ただの存在感希薄なキャラクター性に起因するものだった。


 そんなエリスの顔をジッと見つめていたルーラがポンと手を打った。



「私、食堂で会ったことありますね。私が食べ終わって『おなかいっぱいだ~』と幸せ気分だった時、すぐ近くで転んでガラガラガッシャンと食器を散乱させてたメイドさん……」


「あ、憶えててくれたんですね。その節は、拾うの手伝ってくれて……ありがとうございました」


「いえいえですよ。そのあと、私の食器片付けるのも手伝ってくれましたよね」


「あっ、はい。あまりの数に驚いてしまったんですが……あれ、実はイジメで押しつけられてたとか?」


「うっ……だ、大丈夫です。イジメられてないです……」



 やぶへびで自分(ルーラ)の大食いネタが引き出されてしまい、カアッと頬を染めて小さくなる。



「ただのメイドだとして……『話は聞かせてもらった』のセリフで近づく人なんて、結局やっぱり怪しいですわ。どこからどこまで聞いたのです? 知った内容によっては……」



 ハレッタの言葉にシャノンの鎌がさらにグイとせり上がり、エリスの首がヒヤリと冷たくなる。



「ひいっ! き、き、き、聞いたのは『メイドのエプロンが欲しい』という話で! それ以外は何も!」



 グルグル目で限界まで腕を伸ばすエリスは、涙ながらに訴える。


 ザクトは刀の(つば)から指を下ろし、苦笑いでシャノンの行動を制する。



「そのドジっ子メイドさんが……僕たちに何の用かな?」


「い、以前使っていたメイド制服がありまして。国の支給品ですが、ちゃんと自分の所有になっているものなので、よろしければ差し上げたいと……」



 その言葉に、ルーラの目がキラキラと輝いた。



「王城付きのメイド服……! そんなの、この国(ケイト)を去る私が着ていいんでしょうか?」


「ルーラさんは、エルフの救世主様と一緒に国を救った……人間の中で一番の功労者と聞いています。希望すれば、いくらでも都合してもらえると思いますが、私が大事にしていたメイド服を使ってもらいたいと……」



(もうそんなに話が伝わってるんだ。門の外とはいえ、あれだけ派手にやったもんな……)



 人差し指を当てた頬をプクッと膨らませながら、ザクトはしばし考える。



(買い物に行こうかと思ったけど、騒ぎになったりしても困るし、今は街に出ない方がいいか。とはいえ、『メイド服が欲しい』と王様のところへ戻るのもね……)



「兄様、どうします? わたくしはまだ人間をすぐに信じるつもりはないので、何かあると思ってますけど……」



 ザクトに耳打ちしたハレッタは、人間への不信感が滲んだエルフらしい顔に戻っていた。



「そ、そうだね……服もらうだけだし、問題ないんじゃないかな?」


「……ま、お人よしのエルフ王にお任せしますけどね」



 ハレッタはシャノンと顔を見合わせ、短い溜息をついた。


読んでくださって、ありがとうございます!

作っていたプロットのストックも少なくなってきたので、

なかなか緊張感ある更新となっております……笑。

ちょっとずつペース落としていくかもですが、

なんとかイイ感じで続けていきたいところ。


応援・感想などなど、ひとことでも全然いいので、よろしくです!

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