053話『あなたのせいじゃないですよ』
「神様がもっと説明してくれればよかったんだけど……時間制限があったみたいで引っ込んじゃったからなぁ」
「私の身体を使って……神様が話されていたんですよね? どんなこと仰ってました?」
「えーと、だから、ルーラがお姫様ってことと……」
「えっ? 私、お姫様なんですか?」
のんびりした会話の中でポコッと重大なことを聞かされ、ルーラは不思議そうな声を返す。
(あ……これって本人に言っていいやつなのかな? もー、だから神様ってば!)
少し迷ったが、『ルーラがミューシェという国の王女であること』『ザクトが七神剣を売った経緯』をルーラに説明したザクト。
ルーラは相変わらず実感できないという、ぽんやりした表情で首を傾げる。
「私、そんな素性だったのですね? ビックリ……です」
「それを聞いても、記憶は戻らない?」
念を押され、ルーラは目を閉じ、記憶の引き出しを探ってみる。
が、何の手がかりもないようで、すまなそうに上目遣いで返す。
「すみません……全然ピンと来なくて。でも、私のことより、ザクト様が剣を手放した理由がわかって……なんだか嬉しいです」
「ほんとにわかってる? 僕のせいで、人間界も混乱に巻き込まれてるかもしれないんだよ?」
「七神剣が無かったとしても、代わる何かが火種になっていたでしょう。あなたのせいじゃないですよ」
ルーラはまったく迷いなく、そう言ってのけた。
ザクト自身がそう思い込みたかったこと。
それをルーラの言葉で聞くと、スウッと魔法のように効いて、少し心が楽になっていた。
「でも……お姫様ですか。まずいですね、私、礼儀作法とか言葉遣いとか、普通すぎませんか?」
あらためて、自分が姫として城にいることを想像し、ルーラは違和感を覚える。
ハレッタはそんなルーラがおかしくて、噴き出しそうになるのを我慢する。
「記憶がないとはいえ、言葉遣いまで変わらないでしょうし、元々そんな感じのお姫様なんですよ。わたくしなんか、好きでこの言葉遣いを使ってますし、各国それぞれですわ、ええ」
「そう……ですね。でも、そしたらハレッタ様とはお姫様同士なんでしょうか? なんだか、そんなお友達関係もいいかもですね?」
「わ、わたくしは王の妹ですからお姫様ではありませんわ。ウチには先代の王もいませんからね」
ザクトもハレッタも処女受胎で生を受け、神から授かった子とされている。
が、詳しい事情を知らないルーラにとって、ザクトはエルフ王であり、ハレッタは王女の見本のような存在になっていた。
「記憶が今後どうなるかわかりませんが……私はザクト様の【絶対服従メイド】ですので。もし王女として何かやるべきことがあるなら、その時はハレッタ様をお手本にさせてもらいますね」
「ちょ、ちょっとちょっと! この流れなら、ミューシェ王国に行ってみるのが自然でしょ?」
「うーん……心配されてるかもですし、そうするべきなんですかね。でも、約束は約束ですので!」
(記憶が無いとはいえ、まっすぐにも程がある。いや、記憶があっても約束を優先する性格なのかも?)
「私の命はザクト様のもの。勝手な行動するわけには……」
「そんなこと言うもんじゃないよ! 家族って、何よりも大切なもの。記憶がなくても、知識ででも持っておかなきゃ」
「そ、そう……ですよね。でも、今の私にはザクト様もそれくらい大事としか思えなくて……」
その感覚が抜け落ちている人間に、大切な何かを伝える言葉が思いつかず、ザクトは頭を抱える。
「ザクト様も『君の一生、僕が預かる!』って言ってくれましたよね? 以前、『私の一生を捧げる』と言ったことへの答えと受け取りましたけど……」
(う……ちゃんと聞こえてたのね。あらためて言われると、めちゃハズいんだけど!)
「確かに……あの時はそう言ったよ。だけど、それについてはもう少し言っとかなきゃいけないことがある」
ザクトはルーラに向き直り、純粋無垢な子が心配でしょうがない親のような顔になる。
「僕の魔力を注入したってことは実質、僕から離れるとどうなるかわからないってこと。だから、しばらくそばにいるのも仕方ないと思ったんだ」
「は、はい。だったら、なおさら私はメイドとして……」
「身体の問題も解決して、君に帰る家族があるなら……僕は『メイドは必要ない』って君をクビにもできるんだ。オッケー?」
「お……おっけー? です……」
今ひとつ飲み込めていないようなルーラに、ザクトは苦笑する。
(帰る国が……家族があるなら、帰らなきゃ。僕は転生前の家族にもう会えないけど……それでも、今も大事に想ってる。家族って……そういうものでしょ)
「シャノン? ミューシェ王国の情報はないんですか?」
「位置は一応わかりますが……かなり距離がありますね。国の内情など、詳しいことも当然わからないですし……」
「どっちにしろ、すぐに帰すわけにはいかないしね。胸のアザのことをエルフの有識者たちに訊いてみて、それからってことで」
その場の全員が頷き合うように、今度こそ深刻な話はひと区切り、という雰囲気になる。
が――
「丸く収まったような空気の中、恐縮ですが……」
挙手しつつ、シャノンが口を開く。
「【創剣神】とはいえ、【七神剣】を売りに出したのは事実。ザクト様に【旭緋】の所有権はないですが……どうします?」
「あ…………そ、そりゃそうだよね」
すっかり自分の元へ我が刀が帰ってきた気になっていたザクト。
肝心なところをツッコまれ、血の気が引いた顔で苦笑い。
「わ、私が正直に話して、いつか貸出料をお支払いすると……!」
ルーラは自分の胸を押さえながら、焦りまくった顔で言う。
ハレッタは、冷静な表情で冷静に口を開く。
「ケイト王はその武器を守護神のように信じているんでしょう? 大丈夫ですか? 国家予算的な金額になるんじゃ?」
「うっ……そ、そうですよね。私も王女らしいですし、国同士の話になったらそれはそれでまた大変かも……」
コンコン――
「当国を救ってくださった勇者エルフご一行様! あらためて、我が王へ謁見していただきたく参上いたしました! 治療の方はいかがでしょうか?」
ドアの向こうから、ノックとともに衛兵の堅苦しい挨拶が聞こえてくる。
全員、顔を見合わせ、溜息をひとつ。
「ま……ポンッと返せないんだから、しょうがない。なるようになるでしょ!」
読んでくださってる皆様、いつもありがとうございます!
相方の亜方逸樹が、ルーラとハレッタのファンアートを描いてくれました!
ぜひぜひ見てみてくださいね!(下記URL(Twitter(X)です))
https://x.com/akataizki/status/2092534278550884439




