052話『お預かりします!』
ルーラは力なく微笑むと、瞼を閉じ、ゆっくり胸で呼吸する。
その胸にある黒い稲妻のようなアザは、ぼんやりと妖しく光っており、ルーラ以外の魔力が増幅しているように感じられた。
「やっぱりこのアザが原因……なのかな。神様、ちゃんと説明してから引っ込んで欲しい……」
小さな愚痴をこぼすザクトの頭上から、ディアムがフワリと浮き上がり、ルーラのそばに降り立つ。
「刀を打たせた俺にも責任があるしな。ザクト、旭緋を構えて精神統一しとけ」
「やっとマジメモードになってくれたか……。頼んだよ、ディアム」
先程までの助平キャラとは違うシリアス顔。
だが、元々ぬいぐるみのような可愛らしい見た目。
精霊ディアムはルーラに手のひらをかざし、その場の者が解さぬ言語で詠唱を始めた。
「ん…………っは……」
ルーラの全身が光に包まれ、再び浮き上がる。
今度はそのままベッドから下り、十字架に掛けられたかのように両手を広げ、ザクトの目の前で止まる。
ルーラの胸には、金色の魔法陣が浮き上がっていた。
「物質の元素化、憶えてるな? 旭緋に法詞を書き記して、陣のド真ん中……完全な中心に切っ先を突き入れろ」
「オッケ。許容誤差はどんなもの?」
「誤差とかないぞ。ド真ん中っつったらド真ん中だ」
「…………りょーかい」
ザクトは正眼に構え、深呼吸をひとつ。
ハレッタはベッドに座り、ひたすら祈る。
『神に』ではなく、自分たちの王を見つめ、信じる。
「ルーラ……君が勝手に言ってた『絶対服従メイド』、人道的に考えて受けるつもりはなかったんだけどね」
ルーラの意識があるかどうかは考えず、ザクトは言葉を綴る。
「でも、気が変わった。君の一生……僕が預かる!」
指の腹をスッと刃で撫でる。
流れ出た血をインクに、旭緋の刀身へ必要な法詞を書き入れる。
刀身はより赤く、ルビーのように赤く輝いた。
「ザクト・レインシスが理を示す! 【旭緋】は、ひと時その在り方を変え、この世を形作る素へと還る!」
刀身と魔法陣がそれぞれ光を発し合い、道が繋がるかのように混ざり合っていく。
(兄様……わたくしも見たことないほど真剣な表情。少し妬けちゃいますわ)
ハレッタはそんなことを想っていたが、彼女の病を救う時も同じか、それ以上に真剣だっただろうが。
「ふぅー…………」
切っ先をルーラに向け、深く息を吐く。
頬をひとすじ汗がつたい、落ちた。
「はッッッ!!」
一歩踏み込み、ザクトは刀を突き出した。
一気に胸の中心へ埋まったように見えたその刀身は、ルーラの背中から貫通して飛び出ることはなかった。
「んはッ!!」
ルーラの身体がビクンと弾け、悲痛な声が漏れる。
玉鋼の鍛錬をそばで見守る師匠のようなディアムが、魔法陣を調整するように手をかざす。
「刀が刺さったわけじゃないが……エルフの魔力を急に注ぎ込まれるんだ。それなりの負荷は覚悟してもらわないとな」
「んぐ…………ぅあああッ!!」
赤く輝く魔法陣が刀をエレメントに変換し、ルーラの中に送り込んでいく。
苦悶の表情ながら、膨大なチカラが入って来るのを必死に受け止めようと耐える。
ゆっくりと慎重に刀は進み、とうとう柄の部分まですべてが消えていった。
「ふぅ……全部入ったね。問題なさそうかな?」
「ああ、大丈夫だろう。シャノン、ベッドへ戻してやってくれ」
「御――意」
役目を終えた魔法陣が消え去り、崩れ落ちそうになるルーラをシャノンが受け止める。
そして、目にも留まらぬ早業で患者着を直し、元通りベッドに寝かせる。
「ルーラ! 意識は? 大丈夫なんですか?」
「は、はい……大丈夫です」
ハレッタの呼びかけに、ルーラはすぐさま笑顔で応えてみせた。
「入って来る途中は大変だったんですが……今は胸の中がポカポカ温かいような……心地よい状態です」
「な、何でしょう……なんだか恥ずかしいような、うらやましいような」
頬を赤らめるハレッタの隣で、ザクトは思いきり伸びをした。
「神に確認とれないけど……ひと安心ってことでいいよね。はぁ~……緊張した!」
心からホッとしたような顔。
それを見て、ルーラの目尻にじわりと雫が浮かぶ。
「私、生きてるんですね」
「僕の……エルフ王のメイドになるんでしょ?」
「そう、なんですけど。すみません、報酬にも足りないというのに……大事なカタナをいただくようなことになってしまって」
「アザの問題を解決して、君が大丈夫になれば返してもらうさ。それまで旭緋のこと、よろしく頼むね」
「は、はい! お預かりします……!」
ルーラは胸を押さえ、実際に子供を預かったかのような笑顔で頷いた。
いつも読んでくださってる皆様、ありがとうございます!
物語の展開はひと段落して、どんな感じで次の展開を
進めていこうか考えてるんですが、
編集さんのアドバイスあり、もう1作品、
新しく考えてみようかと思ってます。
もしかしたら、こちらの更新ペースにも影響あるかもですが、
ここまでしっかり愛すべきキャラクターに動いてもらってるので、
なんとしても頑張って続けていくつもりです。
ザクト達を好きになってもらえていたら、ぜひぜひ読み続けていただきたい……と!
よろしくお願いします!




