050話『それは僕が背負うだけだ』
「なぜ……言い訳しないんです? 兄様のそんな言葉、聞きたくないですわ! 気持ちよくなるような嘘をついてくださいよ!」
ハレッタは理不尽な方向から怒りをぶつける。
『兄様が悪いなんて信じない』
『もしそれが事実なら、騙された方がいい』
ハレッタが兄のことを信じていればいるほど、聞いた言葉は真実となってしまう。
「僕は……そこまで責められることだとは思ってないよ。強い武器を作ることは、すなわち一族を守ることにも繋がる」
「そ、それならなおさらですよ! 一族の問題は、里の者全員で考えるべきでしょう? 人間に剣を売ってお金を工面しなくても……」
「僕はエルフ王だ。一族のためにやることなら、好きにやらせてもらうさ」
飽くまで言い張るザクト。
ハレッタは言葉を失い、ベッドの上でうなだれていた。
ディアムは精霊らしく何の感慨もないようで、ザクトの頭の上であぐらをかいている。
が、シャノンは同じく無表情ながら、ザクトに訝しげな眼差しを向けていた。
「七神剣が売られたのは……4年前ですか?」
シャノンのその問いにアメーテルが答える。
「そうだな。この4年間で7本は世界中に散らばり、魔族を巻き込んだ騒乱の火種となっている」
ザクトはシャノンにチラッと視線を向け、念を送るような顔。
そんな視線を気にもかけずシャノンは瞼を閉じ、記憶の引き出しを探るように首をかしげた。
「4年前というと……里では何がありましたっけ?」
「わたくしは14歳……あの病に倒れた頃ですわ。お兄様の所へ行こうと里を抜け出し、わたくしは人間の村へ迷い込んでしまった……」
「シャノンさん、あのさ……」
我慢できず呼びかけるが、シャノンはザクトを無視して話し続ける。
「ハレッタ様は、流行り病にかかってしまった。人間には治る病でも、エルフには危険なもので……元々、体が弱かったハレッタ様は生死の境をさまよいましたね」
「他の者に感染しないよう、わたくしは氷室へ隔離され……里のみんなが必死に治療法を考えてくれたんですよね。意識がなく、記憶は途切れ途切れですが……」
なぜか思い出話に花が咲き、神妙な顔でハレッタは胸を押さえる。
「一度絶命し、【エルフの命雫】を使うしかない状況……兄様が特効の魔法薬を作り、帰ってきてくれた。わたくしの命は……兄様が繋ぎ止めてくれたんですわ」
「……人間の病がエルフに及ぼす影響については、以前から調べてたからね。そういう事態への備えも、王として当然のことだよ」
ザクトはサラリと流そうとするが、シャノンは追い打ちをかけるように続ける。
「おそれながら……私は今、疑念を抱いています。あの薬はザクト様の魔法によるものではなかったのでは? それどころか、人間の魔法だったのでは? と……」
「そ、そんなはずないでしょ。術法式を見て、精霊魔法だったのはシャノンも確認したよね?」
「あの時、ハレッタ様の身を案じ、みな冷静ではなかった。精霊魔法というだけで信じていましたが、あの術法式には人間にしか扱えない元素が使われていました」
突然ザクトを問い詰めるようなシャノンに、ハレッタはオロオロする。
「シャノン……一体、何が言いたいんです?」
「人間は精霊魔法を使えない。そのはずですが……ただひとり例外が存在する。高額の報酬で依頼を受け、エルフのような力で応えるという……」
「弦月の魔法使い」
シャノンの言葉に、アメーテルが続ける。
「天界でも捕捉できていないが……この者も世の摂理を乱す可能性ある要注意人物。しかし、人間とエルフ両方の要素を含む問題を解決するには最適解だろうな」
「えっ……ま、待って? そう繋がる話なんですか? その【弦月の魔法使い】から薬を買うために……」
「ザクト様は……我が子同然に愛するカタナを売りに出した。違いますか?」
シャノンの問いに答えず、しばし沈黙するザクト。
だが、やがて、思い通りにならない子供のように頭を掻きむしり、美しい金髪をクシャクシャにした。
「なんで察してくれないかなぁ……シャノンのバカ」
「察しましたよ。ハレッタ様が責任を感じないよう隠したのでしょうが……私は、それがハレッタ様のためになるとは思えないですね」
当の本人は、予想していなかった話の展開に呆然としていた。
が、スウッと元のジト目に戻り、ザクトへ視線を向ける。
「兄様……本当なのですか? わたくしのために……?」
「ウソついてごめん。あの時は……そうするしかないと思った。でも、世界がどうこうなんて……そんなはずじゃなかったのに」
観念したザクトは、深々と頭を下げた。
「人間には使いこなせないし、美術品みたいな感じで扱われると思って。で……いつか、全員取り戻すつもりで」
「俺は『やめとけ』って言ったんだけどな。里全体で負担するべきだって」
後出しのように言うディアムに、ザクトは唇を尖らせる。
「みんなそれで納得しただろうけど、一族の資金繰りなんて綺麗ごとばかりじゃないんだってば。それに……兄が何とかできるなら、その方がいいと思ったんだもん」
「確かに、里の発展計画でも何かと入り用でしたしね。色々と歯車が狂うことはあったかもしれません」
シャノンも話を合わせ、エルフ王を気遣う。
話はまとまりかけていたが、アメーテルは相変わらずのゆったり口調で釘を刺す。
「たとえ悪意なくとも、エルフ王の行為により混乱が引き起こされている。『ごめんなさい』ではすまないのだ」
「神様には悪いけど……『ごめんなさい』でもないし、後悔もしないよ」
ルーラ(アメーテル)の瞳を見据え、ザクトは迷いのない言葉を選ぶ。
「妹の命を救えた。それが罪を生んでるって言うなら……それは僕が背負うだけだ」
「うう…………兄様ぁッ!」
ハレッタは思わずベッドを下り、ザクトの胸に飛び込んでいた。
カッコよく決めたはずのザクトから『ぐえっ』という悲鳴が上がった。
いつも読んでくださる皆様、ありがとうございます!
ようやく七神剣の事情が明かせました。
やっぱり、こういう『誰かが誰かを想ってることを感じさせるエピソード』が一番楽しいです。
どんな風に感じてもらえているでしょうか……いつでも感想お待ちしてます。
さて、今週末コミケ参加があり、+夏休みというわけでもないのですが、
来週は金曜日から再開しようかな……と思ってます。
ただでさえPVもポイントも伸びないのに、これで読者さん減ったら悲しいのですが……
(ちょこちょこブックマーク減ってる気がするので、ビクビクしてます笑)
また次回、来てもらえたら嬉しいです。
皆様も体調には十分お気をつけて!




