049話『大魔王だ!』
健康的な豊満ボディが、フワフワと軽そうに浮かんでいる。
『神(と呼ぶもの)』とのことだが、シャノンはまったく警戒を解くことはない。
時間の流れがゆっくりになったような空気の中、ザクトの胸の石から呼ばれてもない精霊ディアムがポンと現れた。
「ザクト……本物っぽいな。周囲の元素がビビッてるよ」
「ディアム……スカートめくり、してみたら?」
「うーん、無表情な娘をめくるのも、それはそれでアリかもだが」
まさに神をも恐れぬ特殊嗜好をボソボソ呟くディアムを、ルーラ(アメーテル)は絶対零度の眼差しで見下ろす。
「うん……やはり基本は大切。恥じらい照れる顔を見るのが正道ってもんだな」
「君もビビッてるんじゃん……」
苦笑いしつつ、『精霊が判断するなら確かなんだろう』と思うザクト。
ベッドに腰掛ける体勢となり、シャノンに下がるよう合図する。
「あなたが……僕にケイト王国を救うよう仕向けたんだよね。それって、何か決められた運命とか……そういうの?」
「いや……そんなことは決まっていないな。だがエルフ王、お前がやるべきだと判断したのだよ」
アメーテルは、ルーラよりもゆったりした口調で言う。
「やるべき……って言われてもなぁ」
強いて言えば【精霊】が信仰の対象となるエルフ族だが、特に宗教観など持たないザクト。
神と対話のし方などわからなかったが、少なくとも『人間にとっての神』らしいので、あまり畏まりすぎないことにしたようだ。
「まぁ、今となっては、ルーラを含めた多くの人を救えてよかったと思ってる。けど、僕はのんびり刀鍛冶に打ち込みたい普通のエルフ王なんだよね」
そんな『普通』はないだろうが、ザクトの希望はそうだった。
おっかなびっくりで会話を見守っていたハレッタも、ようやく口を開く。
「そ、そうですよ! 神様らしく私たちの事情も知ってるみたいですが……こんな危険なこと、兄様にさせないでください!」
そんなハレッタをルーラの顔で一瞥し、アメーテルは続ける。
「現在、世界のあちこちで起こらぬはずの異変が起き始めている。世界の均衡を崩す……大きな力が加わったためだな」
「な、何それ? 魔王でも現れた……って、いや待てよ」
(フォルキルの話じゃ、魔王を名乗る魔族はたくさん居るような感じだった。ってことは……)
「わかった! 大魔王だ!」
ザクトはルーラをビシッと指さし、クイズ番組の解答者かのようにジャッジを待つ。
アメーテルはしばらくの無言のあと、初めてわずかな感情が見えるような溜息。
「エルフ王よ、お前が人間社会に売った7本の剣……それがキッカケとなっているのだよ」
「え…………?」
静寂の数秒間。
ザクトはドヤ笑顔のまま固まっていた。
「ザクト様は規格外ですからね。ま、そんなこともあるんじゃないですか」
シャノンがボソッと呟き、ようやく時が動き出す。
「ちょっ、ちょっ、ちょっと待ってくださいな! 世界が混乱していて……その原因が兄様だと言うんですか?」
「まあ、本人が悪いわけではないがな。今回の魔族も……それに吸い寄せられたようなものだよ」
ルーラの指が、ザクトのベッド横を差す。
その長椅子には、鍛冶小屋から持参した【雪音】。
そして、【神の紅炎】と呼ばれていた【旭緋】。
赤と白、ふた振りの刀が並んでいた。
そこでやっとザクト本人も思考が再起動する。
「ウ、ウソだ! 僕、そんなつもり一切ないからね? 【始まりの七刀】は確かに強力だけど……人間に真の力は引き出せないと思うし!」
「そんなことはわかっている。が、その存在に惹かれる人間は多く、魔族と干渉し合うことも増加しているのだよ」
「そ、そんなぁ。理不尽すぎてキレそう……」
頭を抱えるザクトに、ルーラはボリューミーな胸を持ち上げるように腕を前で組み、念を押す。
「お前のせいとは言わない。が、それでも人間を救う手伝いをしてもらう。それはつまり……神の怒りに触れたエルフが赦されることにも繋がるだろう」
「う……そ、そこまで大きな話になるんだ。いや、やらないとは言ってないけどさ……」
(『人間の神だから』って思ってたけど、全然エルフにも関係ある神だったわけか。まいったな……)
「兄様! そもそも、どうして7本の剣を人間社会に流したのですか!?」
ハレッタは強い調子でザクトを問い詰めた。
一番気になって当然の疑問。
ザクトは、それが聞こえないかのように再び固まってしまう。
「アメーテルさんは『売った』と言いましたよね? まさか、金策のために? そんな私腹を肥やすような理由なんですか!?」
「…………」
(ずっと……ハレッタに知られないようにやって来たからなぁ)
重い口をゆっくりと開く。
伏せたその目には、固い決意と迷いが混ざり合ったような色が見えるようだった。
「……そうだよ。魔法刀の新しい製法を試すには……大金が必要だったからね」
ハレッタの目を見ず、ザクトはそう呟いた。
ちょっと不穏な終わり方になりましたが……読者様を信じております。
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