047話『俺を殴れ!』
(さて、ここまではいいとして。問題は……人間の皆さんだ)
ルーラに付き添い、ジード&ユーティカもそばに立っていた。
が、不甲斐ない人間代表としては、出すべき言葉が出てこないようだった。
今は一応、上着を羽織っているが、戦闘中ほぼ上裸だったザクト。
見た目は9・10歳くらいだが、一体どう見えたのか――
(会話がどこまで聞かれていたかわからないけど……視覚情報だけでも【唯一のエルフ男子】という答えは導き出せるもんな。なんとか誤魔化せないか……)
お互い言葉に迷っていると、意を決した表情のジードがザクトの前にドカッと腰を下ろした。
「ザクト……俺を殴ってくれ!」
「は? なに言ってんの?」
ジードの熱苦しい申し出に、ザクトは真顔で応えてしまう。
「お前もお疲れだと思うが……思いきりやってくれ!」
「ヤだよ! ケガ人を殴るとか、なんで僕が悪人みたいにならなきゃいけないかな」
「クソみたいな自尊心、スカスカの戦闘技術、こんなダメ騎士が救世主たるお前に何を言っていたのか……詫びる言葉も思いつかねえ! 頼む、俺を殴れ!」
(ムカつく兄ちゃんだと思ったけど……一応反省してるっぽい。って言っても、エルフ侮辱したのは忘れないからな)
スンとした冷ややかな顔のザクトに、申し訳なさそうなユーティカが口を挟む。
「ごめんね、キモい人で。まぁ、アタシたち口は固いから安心してよ」
「あ……はは、そう言ってもらえると助かるんだけど。でも、他の人たちにも見られてるしなぁ」
「アタシたちだって話まで聞こえてないし、いいように言っておくよ。人間に変装してたのも、何か理由があるんでしょ?」
ノリは軽いながら、意外と気配りができるユーティカ。
(ジードだけだったら話がめんどくさくなってたかもしれないし、ユーティカがいてくれてよかったな)
ザクトはクスッと口の端で笑うと、ユーティカに頭を下げた。
「そうしてもらえると助かるよ。ありがとう……ユーティカさん、ジードさん」
(長老様には怒られるかもしれないけど……時は戻せない。この人たちを信じて、最善をとるしかないもんな)
微笑み合う空気をぶち壊す勢いで、ジードはその顔を近づける。
「ザクト! 俺を殴れ!」
「しつこいな! 今、いい感じでまとまったとこだったでしょ?」
「お前、女なんだろう? その……仕方なかったとはいえ、俺は裸を見ちまった!」
「!?」
騎士の任務に失敗したかのようなシリアス顔で、ジードは頭を下げる。
観客席にいた時から議題に上がっていたことだが、結局ジードとユーティカの中で『エルフは女性』ということに落ち着いたらしい。
(あはは……【唯一のエルフ男子】がバレなかったのなら、いいことなんだけど。何だろう……複雑な気分だよ)
「いや……『見ちまった』なら、それに触れないのがイイ男なんじゃない?」
「いや、そんなことねえ! 男なら一発殴られるべきだ! ケジメがつかねえ!」
「あんた、やっぱ自分勝手だね!」
まともに言葉を交わすのが馬鹿馬鹿しくなってきたザクトは、呆れ顔で微笑んだ。
「ほんとに悪いと思ってるんなら、こっちは指図なんか受けないからね。殴りません」
「ぐッ……わかった。とにかく、すまねえッ!」
ジードはまた勢いよく頭を下げる。
(剣術ではエースでも、女にはモテないだろうなぁ)
自分もこれまで色恋にほとんど縁がなかったくせに、理由なき上から目線。
「とにかく……騎士団の代わりに戦ってくれて感謝する。すべて、お前たちエルフのおかげだ」
「ルーラに頼まれて、自分の意志で受けたことだよ」
「ああ……ルーラにもヒデエことを言ったっけな。悪かった……お前の神託が正しかった」
突然ジードに視線を向けられ、ルーラは目を丸くしてビクつく。
「い、いえ、そんな! 私、もう気にしてませんから……」
「殴るか?」
「はい?」
「俺はお前に、それだけのことをした。遠慮なく殴れ! 来い!」
頬を差し出してくるジードに、ルーラは困惑顔で拒否のポーズ。
「な、殴りませんよ! 私、攻撃なんてしないので……私の手がグキってなっちゃいます」
「お前も殴らねえのか? ヒデエことを言った憎たらしい男だぞ? 殴りてえだろ?」
納得いかないという顔で、ジードは詰め寄る。
ルーラは助けを求めるような顔で、ザクトの方を見た。
(あはは……だんだん殴られることが目的になってるよね。なんだかなぁ、ヘンタイばっかりかな?)
「わたくしは……遠慮なんかしませんわ! ええッ!」
バチンッ!
「はぶッ!!」
ハレッタの不意打ちビンタが炸裂し、ジードはビターンと地面にキスをした。
「わたくしも魔法専門ですけどね。あなたを殴るためなら……グキってなるのもドンと来いですわ!」
よほど腹が立っていたのだろう、別腹にとってあった体力をフル稼働させたハレッタ。
そのままフラッと崩れ落ちそうになるのをシャノンが抱き留めた。
「ハァ……ハァ……ジード・ロックス! 文句があるなら何とか言ってみなさい!?」
ハレッタはガルルと吠えるが、ジードと地面のキスは最長時間記録を目指しているようだった。
「あ~……いい角度でアゴに入ったみたい。ハレッタちゃん、やるね~!」
ジードを抱き起こしたユーティカは、ケラケラと心からの笑顔を見せた。
やっぱり、こういうキャラ同士がわちゃわちゃ楽しげに話してるシーンが
書いていて一番楽しいです。
ユーティカは最初予定していなかったキャラでしたが、
サポート役として活きてくれたと思います。
感想、お待ちしてます~!




