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046話『命を大事に』



「はああああッ!」



 鎌の()から鎖が伸び、その先端には魔法陣が貼りついた分銅。


 それを振り回すことで、プリネラの爪をすべて防いでいた。


 右手の鎌も遊んでいるわけではなく、攻撃を受け続ける中、ダメージを与える目的の打撃を要所で放つ。


 左右でまったく違う動きを展開する、地味にすごいことをやっていた。



「せいッ!!」



 ビキンッ!!



 決めに行った強い斬撃。


 鋼鉄より硬いのではないかと思われた爪の1本がへし折れ、地面に突き立つ。


 それを合図に、プリネラはようやく魔法陣から腕を引っ込めた。



「信じらんない……アタシの爪が…………キレそうなんだけど」


「キレそうなのはこっちだってば……」



 口癖でお株を奪われ、ザクトは無意識にツッコむ。



「…………帰る」



 急激に何もかも興味を失いスンッとなったプリネラは、今度こそ帰宅用の転移魔法陣を展開する。


 その後ろ姿を、立ち上がったザクトが呼び止めた。



「プリネラさん! あんたは人間を襲わない……ってことでいい? 約束できないなら、あっさり帰すわけにはいかないけど」



 『魔族再襲来の可能性があれば、ルーラとの約束を果たしたことにならない』


 責任感というか、約束を守りたい一心から出た言葉だった。



(まぁ……不意打ちとはいえ、こっちがいいパンチ貰うとこだったんだけどさ。こんな言い方したら、逆上してくるかな?)



 『その時はその時』くらいに思いながら、双刀を構え直す。


 が、プリネラはそんなことを気にも留めていないようだった。



「……興味ないわ。人間なんて……与えられた情報にすぐ騙されて、気付くこともなく生きてる者たち……」


「……なら、いいんだけどね」


「でも……アンタには興味があるのよ、エルフ王ザクト」



 その眼差しは前髪に隠れているが、金色の眼光が透過してきて、ザクトはゾクッとする。



「集めるわ……アンタの情報。愛されるの……フォルキル様に……」



 そのセリフを言い終える前に、プリネラは魔法陣の中へ消えた。



「えええ……困る~……」



 ようやく緊張を解き、地べたに座り込んだザクトは特大の溜息をついた。


 合わせるようにシャノンも小さな溜息を吐き、いつもの淡々とした口調に戻る。



「お疲れ様です。お見事……と言いたいところなんですが、やってくれちゃいましたね」


「え? 何が?」


「いや、身バレ身バレ」


「…………あ」



(フォルキルとの斬り合いが盛り上がりすぎて、マジで頭からスッ飛んでた。知られたのは……フォルキル、プリネラ、ジード、ユーティカ……の4人か? 他の人間は……距離あるし大丈夫だよね?)



「兄様ぁ――――――――ッ!!」


「ぐえっ!」



 ハレッタは、ほぼ体当たりのような勢いでザクトに抱きついた。



「信じてました……けど! でもでも、やっぱり心配したんだからぁッ!!」


「いてててて! ハレちゃん、痛いって!」



 ユーティカに肩を借りながら、ルーラも遅れて近づいてくる。



「ザクト様……お願い、聞いてくださってありがとうございます。あの、すぐに治癒魔法を……」


「あはは……何とかなったよ。っていうか、君の方が大丈夫?」


「大丈夫です。ハレッタ様が、私のために魔法薬を使ってくださって」


「え、あ? ハレちゃん……【エルフの命雫(めいだ)】使っちゃったの!?」



 ハレッタの耳飾りがひとつ足りないことを確認し、ザクトは結構な驚きの声を上げた。



「わ、わたくしを庇って死にかけたんですもの。しょうがないじゃないですか……」



 ザクトはしばらく空を仰ぐが、溜息とともにひとつ頷く。



「まぁ……ハレちゃんは僕が守るから大丈夫だけどさ。保険はあるに越したことなかったんだけどなぁ」


「あ、あの、とても大事なものだった……んですね? なんだか訊くのが怖いんですが……」



 ルーラの意を決した質問に、シャノンが答える。



「我が里の象徴である霊樹ミルビから落ちる樹液を精霊魔法で精製した魔法薬です。エルフが生まれる時、ひとり一滴与えられる……我々(エルフ)のお守りのようなもの」


「ええっ!? そ、そんな大変なものを私なんかに……いいわけないですよね?」



 顔を青くするルーラに、ハレッタは声を(あら)らげる。



「ルーラ! 『私なんか』などと言うものではありません!」


「で、でも……私、どうしたらお返しできるのか……」


「貴重な魔法薬を『つまらない者に使った』ということにしたいのですか? ひいては、わたくしの判断も間違っていた……と?」



 すでにお抱えのメイドを姫様が叱りつけるかのように、ハレッタは真剣な眼差しを向ける。


 ただ、それは『兄に抱きついたまま』行われていた。



「い、いえ、ハレッタ様のお心は素晴らしいものだと思います」


「わたくしの命をひとつ使った価値があると……ルーラ(あなた)は自負する義務があるのですわ、ええ!」



 言うだけ言って恥ずかしくなったのか、ハレッタはザクトの胸に顔を(うず)めて隠す。


 ザクトは『あはは』と笑いながら、その頭をポンポンと撫でた。



「そういうことだから……ルーラはこれからも命を大事にしてよ。僕たちエルフが守ったものが、誇れるものであって欲しいからね」



 ザクトの言葉を噛みしめ、ルーラは涙をこぼしながら頷いた。



「ザクト様、ハレッタ様、シャノン様、私たちを助けてくださって……本当にありがとうございます!」


これにて、バトル編は正式に完遂です!

フォルキルも、プリネラも、割とお気に入りの敵役になりました。

読んでくださってる皆様はどうでしたでしょうか……感想お待ちしてます!

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