045話『あんたの恋路は邪魔しないから!』
「プリネラ……さん、だっけ? 用件を聞かせてもらえるかな」
一向に動かない新規客に、ザクトは問いかけた。
「…………」
返答は無い。
(う……なに考えてるかわからん。けど、初手でこんな異常行動する魔族、ヤバくないわけないし…………ん?)
あらためて、注意深く見ると、プリネラの唇はモゴモゴとわずかに開き、何か呟いているようだった。
「何か言ってる? えっと……なんて?」
「…………女……」
「え? 女? 何?」
「…………イイ女……」
まとった黒い気がザワザワと揺らめき、その頭にネコ科の耳が、尻からはシッポがスカートを持ち上げるようにピンと立つ。
「イイ女……アタシの方が……!」
闇の元素が渦巻く気流となってプリネラから立ち上る。
それとともに、うっとうしい前髪もまくれ上がり、暗いところにいる猫のようなまん丸で金色の瞳が現れる。
(ど、どういう意味? 僕に言ってるの? とにかく話は通じなさそう……!)
苦笑いしつつ、両手の刀に魔力を再装填しようとしたその時――
「我慢してください……しばらく……」
プリネラはそう言うと、徐に――そう、ゆっくりと――血まみれの右手を頭上に掲げる。
そして、その手に握るフォルキルの核を突然、自分の口へ押し込んだ。
「!?」
「うぐ…………んぐお……ッ!!」
その場の者すべてが絶句する中、プリネラは苦悶の表情で核を飲み込んでいく。
「フゥ――……これでよし、と」
ようやく喉元を過ぎ、胸をさすりながらひとつ深呼吸する。
と、あらためて、頬に血のしたたるその顔をザクトに向けた。
「乗らないでね……調子に」
「へ? ぼ、僕?」
「舞い上がってるよね? フォルキル様に気に入られて……愛を囁かれて……」
「あ、愛!? あんたの目には……どう見えてたの!?」
(それ以前に僕は男子……いや、男子同士でも愛はあるのか? う~、誰かツッコミ役がいて欲しいんだけど!)
プリネラの異様すぎる迫力に、思わず一歩あとずさる。
「とにかく……アンタには殺させない。アタシの愛を受けるの……フォルキル様は!」
「いや、あんたの恋路は邪魔しないから! 恋敵を見るような目で見ないでよ!」
「フォルキル様がアンタに特別な想いを寄せていたのは事実! 無駄よ……誤魔化そうとしても!」
『戦うしかないのか』とザクトは一歩足を踏み出す。
が――
「……やーめた」
プリネラは増大した魔力を収め、元の幸薄げな病み姿へ戻っていく。
もちろんザクトは警戒を解かず、予約詠唱してある【雪獄】をいつでも起動できるよう準備する。
が、プリネラはザクトに背を向け、開いた日傘をその肩に乗せた。
「アンタを好きになんかなってない……フォルキル様は。だから、生きてても死んでても一緒だもん、アンタなんか」
「いや、だから、そんな事実はないから……」
ザクトが呆れて溜息をついたその瞬間、開いた傘の向こう側で――
「ウッソー! やっぱ死んで!!」
「!?」
プリネラは、いつの間にか展開していた魔法陣へ右手を突き入れていた。
ザクトの背後に突然、魔法陣が開き、その中心から鋭い手刀が生える。
ほぼ予備動作のないプリネラの空間転移魔法を想定しておらず、背中から聞こえた起動音で反応する。
(防壁にならないまでも、素の魔力を背中に……ッ!)
その一瞬で最善な選択肢を起動。
しかし、さすがのザクトでも間に合わないタイミング。
大ダメージも覚悟したその時、背中でもうひとつの魔法起動音をザクトは聞いた。
ギャリィッ!!
金属音のような、強化ガラスのような、硬いモノ同士が出す不快感MAXの音。
ザクトの背中を守るように発生した魔法陣。
そこから現れたシャノンは、黒光りする鎌の刃をプリネラの凶爪に合わせていた。
「!?」
防がれると思っていなかったプリネラは一瞬戸惑う。
その攻撃に対応できるほど、シャノンの転移魔法が上を行っていたわけではない。
敵の表情から性格分析、行動を予想した上で、気付かれないよう転移の出口を設定していたのだった。
「何コイツ!」
プリネラは伸ばした爪をブンブンと振り、メッタ斬りでイラつきを表現する。
その連撃が、2mもない隙間の空間で展開されるので、シャノンは立つ場所がないほどだった。
「ザクト様、ジャマ!」
「ほえッ!?」
あろうことか、忍は王をヒップアタックで跳ね飛ばした。
そのまま大股で腰を落とし、右手の鎌を握り直す。
が、彼女は鎌を持たない左手の方を振り上げた。
同人誌の方、なんとか入稿しまして、続きを再開しました!
「バトルは終わり」と言ってたはずなんですが……なんかちょっとバトってますね汗。
今回はすぐ終わりますので、次回もよろしくお願いします!




