044話『一魔去ってまた一魔?』
(この魔族、何を言ってるんだ? これは……何かの罠?)
黙っていれば復活できるところをわざわざ教えてくるのだから、訝しむのは当然だ。
が、フォルキルは両手を広げ、熱望するような顔で迫る。
「我は……お前にこそ、滅されるべきだ。頼む、お前の剣で我にトドメを! ええい、早くしろ!」
(へ、ヘンタイだ――――っ!)
まるでキスでも迫られているかのように感じ、ザクトは刀を構えたまま引きつった笑顔で後ずさる。
「我の核は……ここだ」
そう言って、親指で胸元――右鎖骨の下あたりを指す。
暗角を突き刺したポイントとも、ザクトが斬った箇所とも違う、確かにダメージを免れていた地帯だった。
「急所とはいえ、場所がわかれば誰でも斬れるものではない。が、お前の魔力がこもった剣ならば別。いや……我はそれを感じたいのだ!」
「ちょ、ちょ、ちょ! そんなこと言われたら、やりにくいよ! 確かに、魔族を倒すことが僕の役目だけど……」
(結果的に誰も殺してないし……二度と人間を襲わないなら見逃してもいいくらい。もちろん人間たちの手前、それはそれで示しつかないけど……)
色々と理屈をこねているが、ザクトは無意識にフォルキルを気に入っているのだった。
20年間、女ばかりの社会で育ってきた規格外のエルフ王にとって、国を滅ぼすかもしれなかった魔王くらいが『ケンカもできる悪友』としてちょうどいいのかもしれない。
「フォルキル先輩、あんたは……剣が好きなんでしょ?」
「その通りだ。まぁ、お前ほどではなかったかもしれんがな」
「だったら、生きて剣の道を楽しんだ方がいいんじゃないの? その……僕もあんたとの斬り合い、楽しかったし。また闘ってもいいと思うし」
「ほう……嬉しいことを言ってくれる。お前に滅されたいことは変わらんが、再び死合えるのは確かに魅力的だ」
すでに観客席へは届かない、ふたりだけの会話。
ザクトはさらに少しトーンを落として告げる。
「もちろん、人間を殺さない約束はしてもらうよ。それができなきゃ……僕、キレるからね。剣も交えないし、核を斬ったりもしてあげない」
「フン……元々、殺すことが趣味ではない。お前が相手をしてくれるのなら、いくらでも約束しよう」
「オッケ……じゃ、僕が『トドメを刺した』って感じで……」
ズグシュッ!!
その瞬間、ザクトの目の前で、フォルキルの胸から血しぶきとともに何かが飛び出した。
「ぐはッ……!!」
飛び出したそれは、青い炎を宿すゴツゴツした宝珠――
――を掴む手そのものだった。
「なっ…………!?」
ザクトは動揺したが、次の瞬間、その手首を切断すべく双刀を振るう。
が――その一閃より早く、すでに腕は抜き取られていた。
「プリネラ……か」
フォルキルは、その手の主を確認するまでもなく名を呼んだ。
そこに立っていたのは、深い紫を基調にしたミニ丈のドレスを身にまとう小柄な少女だった。
左腕にかけた青い傘、編み上げのロングブーツ、ドリルのように巻かれた銀髪のツインテール。
伸ばしすぎの前髪で眼差しは見えず、パッと見は奥ゆかしい深窓のお嬢様。
だが――
その右手はすでに血まみれであり、頭の上には細長く尖った2本の暗角が確認できた。
「えええ……同じようなクラスの上級魔族と連戦なのかな?」
(いや、あんな見た目でフォルキル先輩より格上だったりして? さすがに想定外すぎて……キレそうなんだけど!)
そんな危機感に、ビビリ半分&ワクワク半分で構え直す。
が、【プリネラ】は口を開かず、視線もどこを見ているかわからない。
「エルフ王ザクトよ! よくぞ、この紺炎の魔王フォルキルを倒した!」
消えかかった体で、フォルキルが吠えた。
「だが、この世に悪意を持つ者は尽きん。お前の国とて、入り込んだ敵が『平和』という否定不能の言葉を使い、民を洗脳するだろう。騙された者は自分で気付くこともできず、増え続け、国を弱らせる。お前はエルフの王として……理想の国を打ち立てることができるのか?」
わずかに残された時間で約束を守ろうとしているのを察し、そんな魔王の目を見つめながらザクトは唇を開く。
「理想的なエルフの国……僕が作ってみせるよ。人間にも魔族にも羨ましがられるような……千年王国ってやつをね」
真剣だが、どこか楽しむような表情で。
「【ザクト】という名には……『未来を切り開く、切札』って意味がある。やれないわけない、と思わない?」
「フッ……エルフの国、見てみたいものだ……」
その言葉が終わるか終わらないかの頃、フォルキルの肉体は黒い砂のようになって崩れ落ちた。
救世主として、頼まれていた仕事は完遂。
そのはずだが――
「ッ……シャノン! どうしたらいいんです?」
急展開について行けず、観客席の5人は動き出せずにいた。
「あなた達ふたりは別の戦場でキッチリ仕事してきて『絞りかす』なんですから……おとなしくしててください」
「し、絞りかすって……まぁ、確かに私、死にかけたみたいですけど」
シャノンの言葉に、ルーラは力なく微笑む。
確かに、ハレッタとルーラはすでに役割を果たしている。
その会話を、騎士たちは唇を噛んで聞いていた。
「私も仕事しませんとね。仕掛けてくるなら……私がザクト様の盾になりましょう」
おふざけナシ。
シャノンの鋭い眼差しに、ハレッタは思わず息をのんだ。
バトルが予定より少し長めになってしまいましたが、
ここからしばらくはまた本来の、
のんびりコメディに戻っていく予定……です!
バトルパートがどんな風に受け取られてるか、いつも不安なんですが……
特撮&キッズアニメ好きなせいか、『盛り上がりといえば』という感じで入ってきます。
感想など、ひと言でも全然いいので、いつでもお待ちしてます!
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(2026/07-30追記)
【ルリネラ】としていた新キャラクターですが、
【プリネラ】に名称変更しました。




