043話『いつか、エルフの国へ』
「やったわ! 兄様の勝ちよ! ざまぁ……ごらんあそばせ!! ええ!!」
「ハレッタ様、言葉遣いが乱れてますよ」
「い、いいんです! 兄様にあんな傷を負わせたんですから……これくらい言わないと気が済みません!」
涙目のハレッタは一瞬ハッとするも、開き直ってシャノンからそっぽを向く。
「ルーラ、どうです? 兄様はあなたの依頼を見事に果たし…………ちょっと? 聞いてます?」
ハレッタの呼びかけに応えないルーラは、潤んだ瞳でポーッとザクトを見つめていた。
だけではなく、頬は紅潮し、ハァハァと息も荒くなっている。
それはまるで――
(ルーラ……本気で兄様に惚れましたね? それはそう、あんなかっこいいところをバンバン見せられたら……それはそう)
ハレッタは『まずいことになった』という顔で、あらためて息を吸い込む。
「ルーラ!!」
「ひゃいっ!!」
座ったまま少し浮いたのではないかと思うほど、ルーラは驚いて跳ね上がる。
「どうしましたの? 顔が赤い……息も荒くなっているようですけど?」
「えっ? そ、そうですか? やだ……何でしょうか」
「兄様を見て……興奮してるんですか?」
「ふええっ!? そ、そんなことは……」
慌てて否定するが、ふと、あらためて、キラキラ輝くザクトに目を向ける。
「ある……んでしょうかね? ザクト様の傷だらけの体を見ていたら……痛そうで、ドキドキして……胸の奥がキュウッと締め付けられて……」
「…………んん?」
微妙にずれた反応が返ってきて、ハレッタは小首をかしげる。
(恋……ではないのかしら? でも、人間の書く物語ではこんな感じだった気がするし。もう……わたくしだって知らないんだから、わからないわよ!)
男子がひとりしかいない世界で育ってきたハレッタ。
人間の書物くらいでしか恋愛の情報を得られなかったが、それも数えるほどのサンプル数。
一方、当のルーラも、心の中になかった視点を意識させられ、急に恥ずかしくなっていた。
(私、傷ついたザクト様に興奮してるの? それって……嗜虐的な趣味? 『絶対服従メイドとして王様に仕える』とか言っておいて、女王様な気質があるなんて……洒落にならないですよ?)
ルーラは自責の念に駆られているが――
ザクトはザクトで『傷を負うことでテンションが上がる特質』がある(本人に自覚はない)。
もしかすると、なんやかんや相性がいいふたりなのかもしれない。
コメディ乗りを取り戻した観客席から、戦場へ視点を戻すと――
「フッ……ザクトよ、あらためて感謝するぞ」
体の節々から魔力をシューシューと漏らしながら、フォルキルは満足げに言う。
「負けることが……こんなにも心地よいとはな。これぞ我の求めていた死合い……」
「だから……勝手に感謝しないでってば」
呆れ顔のザクト。
だが、その表情はどこか『友達と野山を駆け回り遊んだあと』のような疲労感にも感じられた。
「カッコいいこと言ってるけどさ、あんたはずっと自分本位。こっちは付き合わされただけなんだからね?」
「フッ……確かに、そう言われるのも今は理解できる。我は自分本位……それでいいと思っていた」
フォルキルは自嘲気味に口角を上げ、遠い目をする。
「我の国は……民が『平和』を求めた。移民にも差別なく手厚く接すれば、協力し合う新たな団結が生まれるだろう……と」
「…………」
ザクトは、ただ聞いていた。
「いつのまにか政治の中枢にまで敵の間者が入り込み……報道や教育を握られ、民は洗脳されていた。戦う意志を完全に捨てさせられ、とことんまで国を弱らせ……内からでも外からでも、簡単に攻めやすい国となっていた」
フォルキルはひとつ溜息。
そして、大きく息を吸い込み、観客席に目をやった。
「人間の騎士よ! 先ほど『防衛力すら不要な世界があれば、それが一番いい』と言ったな!』
「ッ…………そ、それが何だ!」
「騎士はいずれ、敵に操られた民に追い出され……守るべき国は乗っ取られるだろう」
突然、最悪の予言を断言され、ジードは慌てて語気を強める。
「そ、そんなことはねえ! 国民は戦う意志をなくしてねえし、洗脳もされてねえ!」
「フン、洗脳された者が判断できるわけもない。いつかお前たちも『正面から力で攻めてくる敵の方がマシだった』と後悔するだろう」
吐き捨てるように言い、フォルキルはザクトに視線を戻す。
「ザクト、お前はそのような正しい見識も持っているようであるし、具体的な戦闘力もある。が……『狂った王よりも、狂わされた民の方が国を滅ぼす』ということ、【王】として、決して忘れるな」
「……大丈夫だよ。エルフは数も少ないし、疑り深い。いつか『国』って言えるほどの景色になったら……あらためて気をつけるよ」
「民を増やし、理想的な国を作れ。我も生まれ変わり、その国へ行きたいものだ。人間と違い、お前らは応援してやってもいい」
「も~……また勝手に『魔族側』として扱わないでってば」
ザクトは呆れ笑いを浮かべるが、すぐマジメな顔に戻す。
(『里を十分守れるように準備した上で』だったとはいえ、僕も『政治は人に任せて刀鍛冶に没頭したい』って王だからなぁ……ちょっと耳が痛いよ)
ザクトの返事を受け、フォルキルはあらためて観客席のエルフ組を見る。
「エルフの国を目指す割に……人間の女を連れているようだが?」
「あー……ルーラも里に引き入れるつもりはないよ。彼女が勝手に『恩を返す』って言ってるだけ」
「フン……ならよいが。そんな風に取り入る者こそ、敵だと疑うべきであるしな」
(あはは……ルーラが悪い人間のスパイだったら、ほんと誰も信じられないけど)
そう思いつつ、『本人が気付いてないようなパターンもあるか』と可能性を考えてしまう。
エルフらしい性格になった証だった。
「さて……我の命力もそろそろ尽きるか」
ここまで、のんびり会話しているようだが――
フォルキルが本当に無力化されたのか見極めるように、ザクトは刀を構え続けていた。
それも、もう少しで終わる。
ザクトは無意識に、寂しさを感じていた。
「エルフ王ザクトよ。お前に……頼みたいことがある」
「……何かな?」
「我は……数日の月日を経て蘇る。ので……その能力を絶つため、我の核を斬れ」
「…………は?」
相方(亜方逸樹)のTwitter(X)漫画のおかげで、久しぶりにたくさんの人に見てもらえたみたいで……
とてもとても嬉しいです!
マシになってきたとはいえ、まだまだ咳に苦しむ毎日ですが……
ブックマーク&★評価もつけてもらえて、ランキングも上がって、
生きる楽しみが勝ちまくってます。ありがとうございます!
まだまだ頑張って行きたいと思いますので、
ザクト達の応援、何卒よろしくお願いします!
相方の漫画は、こちらから!(全8P)
https://x.com/akataizki/status/2081232109323338175




