042話『サムライの心』
「何故だ? 防御は間に合わなかったはず。斬れはせずとも、肋骨をまとめて粉砕するほどの一撃だった。そこから、まったくの平気で立ち上がるのは……何なのだ?」
「旭緋と雪音……二振りの合わせ技で、新しい魔法を作ったんだ」
ザクトが2本の刀を優しく合わせると、交差した部分に正方形の魔法陣が浮き上がる。
その正方形は対角線で赤と白に分かれて配色されており、確かに2属性の性質を併せ持っていそうだとわかる。
そこから『新作の映えるデザート』のようなピンク色の立方体がポコポコと生まれ、こぼれていく。
氷の魔法のようで、しかし、その中心には緋い炎が灯っており、地面に触れると次々に小爆発を起こした。
「爆発と氷結を高速で繰り返すブロック式の魔法防壁だ。なかなか柔軟に衝撃吸収できるよ。術法名は……【爆氷塊】とでもしようかな。」
「…………信じられん」
フォルキルが呆れるその後ろで、他の者たちもある種同じような感想を持っていた。
「ザッ……ザクトが何をしてるのか、わかんねえ。ユーティカ、解説しろ!」
「アタシだってわかんないって! ちょっと、エルフ組の皆さん?」
「…………ハァ……」
人間に色々バレてしまい、シャノンは『やってらんねえですね』という顔で口を開いた。
「あえて攻撃される箇所で爆発を起こし、衝撃で斬撃の威力を打ち消したんでしょうね。本来、爆薬の分量や角度計算など、そう単純なものではないですが……」
「わ、私も理屈はよくわかりませんが……そもそも、あんな属性融合が咄嗟にできるものなんですか? しっかりとした準備が必要なのでは……」
ルーラの疑問に、ハレッタが自慢げに答える。
「わたくし達エルフは精霊魔法を使い、自然の元素の力をより効率的に引き出します。あの【カタナ】は、兄様自ら命を吹き込んだ精霊のようなもの……複数属性の精霊を同時に契約するようなものなのですわ、ええ!」
「す、すごいです……やっぱりエルフ王様は救世主様なんですね!」
解説と観客の感想が終わるのを待っていたわけではないが、フォルキルはそのタイミングで自嘲気味な笑みと溜息を漏らす。
「フッ……たまらんな。お前はやはり……最後の相手にふさわしい」
まさしく命を燃やすような、全魔力を搾り出した紺炎を全身に纏うフォルキル。
「クォオオオオッ!!」
もちろん『負けるつもり』ではないが、死を覚悟したその気合に、ザクトは最後の確認をする。
「そこまで剣闘が好きなら……相手も殺さず、自分も死なず、もっと戦い続けられる道を歩いた方がいいんじゃないの?」
「フン……それこそ、強者の考え方ではないか? 楽しむために剣を振るい、敗者にとどめを刺さず『楽しめ』と言う……傲慢だな」
「そんなことないよ。僕は……前世では、何の力もない一般人だった」
フォルキルの覚悟を感じ、ザクトは余計なことを口にしていた。
「その世界は……その国は、歴史と伝統があった。民の心の中には、繊細でクソ真面目な精神性があった。僕は弱かったけど……その国が好きだったんだ」
20年も経ち、思い出すことも減っていた転生前の記憶。
エルフの里を守ることばかり考えてきたが、その根底にはひと昔前の故郷リスペクトがあった。
「割と平和だった。でも、その『平和』も……長い時間をかけ国を弱らせるため、何かが植え付けた呪文だったかもしれなくて。僕らは……確実に戦う心は失ってた」
「……イヤな言葉だ」
フォルキルはポツリと呟いた。
先程、ジードと対していた時と同じ、遠い目をする。
「我の国は……敵の間者による『平和』という言葉で滅びた」
先程は『単独で、勝手に魔王を名乗っている』と言ったフォルキルだったが、ザクトに呼応し、つい口を滑らせる。
「しかし、我は敵を憎まなかった。憎むべきは……魔族のくせに戦いを避け、効率的に都合よく生きようとした民なのだからな」
フォルキルの返事に、ザクトは少し眉根を寄せる。
(うわー、やっぱこの魔族、思ったよりこじらせてるなぁ。そういう話にしたいわけじゃないんだけど……)
「えーと……僕は、その国が好きだからね。民のことも、今でも信じたいんだ。国民達の中には、確かに武士の心がある。たとえ強くなかったとしても、仲間を守り、戦う心が」
「我には……もう国など不要なのだ!」
すでに『問答無用』という闘気。
フォルキルは手を前に組み、暗角の剣を構える。
「時間稼ぎで我の魔力を消耗させるつもりか? お前と違い、余裕はないのでな……付き合いきれんぞ」
「いや……こっちの方こそ、めっちゃ痛いんだからね?」
最後の説得も不発に終わり、ザクトは一気に深呼吸した。
「まぁ、その痛みを貰ったおかげで、自分でも怖いくらいヤル気が出てるんだけど……」
息が荒くなり、すべて吹っ切ったようなワクワクするような表情に変わる。
瞳はより赤く燃えるように、髪はオレンジ色に輝く。
戦いの合図なのか、頬に赤い光の紋様が走り、上半身にもそれが広がっていく。
(この者……自覚がないのか? フン……戦いの天才というものは、こういうものなのだな)
何のことはない。
羨ましがっていた第2段階のようなものが、ザクトにもすでにあるのだった。
ただし、彼の場合、傷を受けることでギアを上げるリスキーな能力であり、本人は知らない方がいい力だが。
「ふぅ――――…………」
今日一日でも、最も張り詰めた見合い。
風の音しか聞こえない静寂が続く。
ふと、強い風が吹いた。
「フッ!!」
ザクトがまばたきした瞬間、フォルキルは最速の突きを繰り出す。
「……せッ!」
ザクトは瞼を開くと同時に、右手の刀で斜め下から斬り上げる。
フォルキルの剣がピキッと音を立て、中心から真っ二つに割れ燃え上がった。
「クオオオオッ!!」
フォルキルは怯むことなく、宙に舞った剣の1本を掴み、さらに袈裟懸けで振り下ろす。
そんな予想外の剣にも、ザクトは冷静だった。
左手の刀で斬り上げ、残る剣を凍らせ砕く。
左右合わせてクロスさせたような太刀筋となる。
「まだだ!!」
フォルキルはそれでも諦めるような顔を見せず、ザクトの脇腹目がけ蹴りを繰り出す。
蹴りを皮一枚ジャンプで躱したザクトは、そのまま低い前回り。
その回転の勢いで、フォルキルの両肩を切り下ろした。
「ガッ!!」
「魔法刀技……斬爆咲・旭雪!」
構想・鍛錬だけは常に欠かさない、自分だけの魔法刀術。
イメージ通りの技が実現し、高揚感があったが――
「ふぅ――――…………っ」
ザクトは静かにフォルキルを見据え、残心の構えをとる。
「ぐはッ…………」
炎と氷の魔力がフォルキルの体内に流れ込み、半身は炎上、半身は氷の結晶が噴き出す。
その両魔法が反応し、元素が派手な音ともに爆発。
紺炎の魔王フォルキルは、とうとう両膝をついた。
咳が止まらず弱っておりますが……なんとか更新しました。
バトルが続いてしまって、反応が心配でしたが、今回で終わりました。
ここからもっとキャラぢからを見せる楽しいお話をしていきたいところ……!
応援よろしくお願いします!




