040話『全力のさらにその上で』
「確かに……魔法での攻撃となったので、斬った手応えはなかった。しかし、それでも信じられん。あの一撃を避けたというのか?」
フォルキルもさすがに出し尽くしたようで、地に突き立つ大剣を杖代わりに掴む。
「ザクト……エルフの王だと? お前たちの事情は知らんが……こんなに嬉しいことはない。剣を愛する王同士、まだまだ斬り合おうではないか」
「…………はぁ~……っ」
あらためてのラブコール。
ザクトは心底呆れたように大溜息をついた。
「確かに剣術は好きだし、上手くなるのも楽しい。でもね、僕はあくまで……刀鍛冶が一番なんだ」
ザクトはそう言って、右手に握った神剣【神の紅炎】を目の前で構える。
その瞬間、頬はゆるみ、涙さえ浮かびそうな幸せいっぱいの笑顔になった。
「旭緋っ!!」
大きな声で、その名を呼ぶ。
ルビーを練り込んだかのような紅き刀身が、パアッと光炎の花を咲かせ、輝き燃える。
「なんと美しい……。我も炎を操る者。これほど純度の高い火魔法……嫉妬の感情すら覚えるぞ」
フォルキルが一瞬戦いを忘れ見入るほど、その炎の色は特別だった。
刀身の周りをキラキラと精霊が飛び回るようで、まさしく神からもたらされた刀剣かのように見えた。
「久しぶり、元気そうでよかった。うん……ほんと、ごめんね」
まるで本当に会話するように、ザクトは刀に優しげな目を向ける。
そして、会話すればするほど、その炎の勢いは増していくようだった。
「神剣【神の紅炎】……お前が打った剣なのか?」
「こいつの名は【旭緋】だよ。ヤンチャ坊主でね……そこがまた可愛いんだ」
燃えさかる魔力の炎も構わず、ザクトは旭緋の峰にデレデレの顔で頬ずりする。
「エルフ秘伝のキヴァニウム鉱を基点に、フゼット火山の溶岩から熱をとり打った正式な第一子。この刀から、僕の鍛冶道は始まったんだ。ほら見て、ここ! 刃文が炎らしく波打つ感じ。これキレイに出すの超大変で……いや~、あの時は鍛冶の難しさにキレそうだったなぁ」
ザクトの親バカが止まらなくなる。
「確かに、始まりの七刀はみんな個性的だけど、旭緋だって、あんたらが言うほどメチャクチャじゃない。術法の組み方や順番を工夫すれば、長期戦でも使えるよ。入力のコツさえ掴めば……」
心底嬉しそうなザクトの語りに、フォルキルは毒気を抜かれそうだった。
(この者……純粋な『好き』の気持ちに溢れていて、遮るのが無粋と思えてしまう不思議。ま……こちらも多少回復せねばならんしな)
そして、そんな敵よりもパニック&放心で言葉を失っていたルーラ達は――
「本当に……ザクト様が『七神剣を作った【創剣神】』なの? 私、もう何が何だか……」
「兄様……どういうこと? 兄様が……エルフ王が、危険な武器を人間社会に流した……?」
「…………」
ひとり、七神剣がザクト作であることを予想していたシャノンだけが、変わらない仏頂面で見守り続ける。
さらに事情のわからないジードとユーティカは、その話の前段『ザクトはエルフだった』が処理できずにいた。
「エルフには……男がいないはずだ。俺たちが知らねえだけだった……のか?」
「いやいや、ザック君……いや、ザクト君だっけ。実は『男の子だっていうのが偽り』……とかとか?」
「た、確かに、それなら『普通のエルフ女子』なのか。だが、『エルフ王』ってのは何なんだ?」
「バカッ!!」
バチッ!
突然、何の前触れもなくユーティカのビンタが飛んできて、ジードは呆気にとられる。
「なっ…………何すんだテメエ!?」
「ジード! ザクト君をジロジロ見ちゃダメでしょ! あんな上半身ハダカ状態の女子……男のアンタが!」
「バッ……女子だったとしても、アイツ子供じゃねえか!」
「うっわ、最悪! 『子供は女のうちに入らないからハダカ見せろ』って!? 騎士団! コッチです!」
「んなこと言ってねえぇぇぇぇぇッ!!」
観客席が大混乱している中、ザクトはまだ語り続けていた。
「このライン、最近じゃ出せないんだよね。最近の刀の方が『日本刀らしい』けど、この初期の感じは唯一無二で……。あ、あと『剣』じゃなく『カタナ』って呼んで欲しいな。って、もう【七神剣】とか言われちゃってるか……」
「フッ……お前の熱はよくわかった」
静かに呼吸を整えていたフォルキルは大剣を両手で持ち上げ、ザクトの方へ向け構えた。
「やっぱ、まだやりたいんだ? できれば、あきらめて帰って欲しいんだけど……」
ザクトが溜息をついたその時――
フォルキルは突然、握った大剣を予想外の軌道で振り上げた。
ガギンッ!!
真っ赤な玉鋼を全力打ちしたような音とともに、黒角の1本がクルクルと宙を舞う。
「オオオオオオオオッ!!」
1本角となったフォルキルは角を空中で掴むやいなや、自身の胸の中心に突き立てた。
「ちょッ……何してるの? 見てるこっちが痛いんだけど!」
「フッ……この暗角は、我ら魔族の命力の源。確かに、命の危機を感じる痛みだ」
「えーと……負けを認める、ってこと?」
「馬鹿を言うな。勝利のための下準備だ」
角を突き刺した胸の中心に新しい紺炎が生まれ、フォルキルの全身を一気に駆け巡る。
「むんッ!!」
筋肉が隆起し、先ほど使い切ったかに思われた腕の力が戻っていく。
人間的なフォルムだったその頭部も、狐に近いイヌ科の魔獣のものへ。
「両手に神剣を握る創剣神殿と死合えるのだ。こちらも切札を出すのが礼儀よ」
紺炎の魔力が左手に集中する。
バキバキと骨が変質する音ともに、左の拳、手の甲から剣が生える。
最後に、額の第3眼が開き、そこにも青い炎が灯る。
細く長く息を吐き、フォルキルはあらためて右手で大剣をとった。
「剣を交える残り時間はそう多くないだろうが……全力のさらにその上で行かせてもらう」
禍々しいビジュアルに変身を遂げたが、むしろ先程までより穏やかな語調で告げる。
その張り詰めた気迫を認めながら、ザクトは呆れるように笑った。
「現実でも『ボスが最終形態に!』とかあるんだ。これじゃ……僕の方が芸ない感じじゃない?」
「フッ……エルフ族なりの変身があるなら待ってやるが?」
(まただよ……魔族はすぐエルフを同族扱いする。ほんと一緒にしないで欲しい……キレそう)
ザクトはやはり、まったくキレる気配なく――
むしろ、少しワクワクするような、『友達が遊びに来た小学生』のような顔になっていた。
「変身とか……全然うらやましくないもんね!」




